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魔王と少女の部屋


 少女の部屋に魔王が入ってくるのは二度目だ。

 前回は、少女が風邪をひいたとき。

 今回は、少女が魔王を部屋に招き入れた。

 前回とはちがい、魔王は少女の寝台で寝て…いや、押し倒されていて、少女がその上にのしかかる。いわゆる、馬乗りだ。


「…どうしたの?」


 なにをするんだろう、と興味深そうに魔王が少女を見つめた。まるで、子供のようだ。いい歳をして、男女がこんな恰好ですることを知らないわけでもないだろうに。

 もしかしたら、この魔王は本当に人と交わった事がないのかもしれない。

 少女は言い聞かせるようにして、魔王に語りかける。


「父さんが、落ち込んだ日。母さんは、こうして父さんのことをなぐさめていたわ」

「ふうん、なるほど」


 少女がなにをするつもりか、理解したようだった。

 もしかしたら、そういうポーズかもしれない。それでいて、おもしろがって、あえて、なにも分かっていないふりをしているのか。

 少女は疑う。

 シャツのぼたんを一つずつ、外していく。そうして、はだけさせた胸に、そっと手を這わせる。陶器のように滑らかな肌。魔王の髪の毛をそっと、撫でる。口にするのは気が引けて、やさしくその髪の毛に口付けた。

 魔王は抵抗するでもなく、かといって受け入れるでもなく、興味深そうに、少女を見つめている。


「きみは、僕をなぐさめようとしているの?」

 きみは、僕を哀れんでいるの?


 魔王は、のしかかられたままだ。彼なら、いとも簡単に少女の体を吹き飛ばせるだろうに。

 抵抗しないのなら、同意したとみなしてしまいたい。少女は思う。

 それなのに、どうして魔王の漆黒の瞳は問うように少女を見つめているんだろう。

 やっぱり。

 その光さえ吸い込んでしまいそうな瞳は、作り物めいた顔で、唯一異質だった。


「ちがうわね」


 魔王がきょとんとする。

 少女はすばやく、魔王の上から退いた。これでもうおしまい、というように手をはたく。


「変なことしてごめんなさい」


魔王は不思議そうに目を眇めた。


「きみは、男の人がすきなのかな?」


 まるで、そういえば自分は男だった、と確認でもしているのかのようだ。少女はというと、はじめて顔をあからめた。


「ちがうわよ!」


 少女は自分がだれとも夜を共にした事が無い、という彼女の年頃では珍しい事を思い出し、悶絶する。ついでに、経験がないのに、そんな事をしようとした自分にも。


「そうなの?」

「そうなの! すくなくとも、これは違うってことが、今、わかったわ」


 少女は寝台に背を向けて、そう宣言した。その顔は隠しきれないくらい、赤い。

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