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魔王と話

土曜日の更新ができそうにないので、早めに投稿しちゃいました。短いネ


 その頃、がらんどうの居間では魔王と、彼の部下だったルンベが向かい合っていた。

 なにもない空間でも、その魔人がいることで、妙に狭苦しい。人間としては大きすぎる体が原因だ。その上その体は、顔面以外灰色の綿密な毛で覆われている。それがまた、ガタイのいいその体をさらに大きく見せているのだった。

 一体なにしにきたんだい、魔王がそう問う前に、ルンベが膝を地面にすりつけるようにして座りこんだ。


「魔王様。もう一度、玉座に。我らには魔王様が必要なのです」


 疲れと必死さの滲む声。

 魔王の瞳がすうと細まる。


「どうして?」

「いまや、人間どもはわれわれの土地に踏み入って、自分らのものだと思い込んどります。もう一度、再起を。どうか、どうか、お力添えを!」


 おそらく心の中で何度も考えられた言葉なのだろう。それは、悲哀の色を持ちながらも、よどみなく、そして、朗々と響いた。

 魔王は魔法でふわりと、室内に唯一しつらえてある椅子に腰を下ろす。そして、きっぱりと言った。


「いやだよ、他国の魔王だって、もう戦を起こす気は当分ないはずだし」


 協定を結べば、他国の人間が領内に入って来ることは分かっていたはずだ、淡々と告げる。

 肘をついて、手の甲に顎をのっけるその様は、いかにも面倒といった様子だ。しかし、そんな恰好でさえ、強者の圧倒的な余裕がにじみでている。それに、ルンベは縋った。


「だからこそ、あなたの力が必要なのです」


力強く言い切る。その必死さには、どこか滑稽なものがあった。一抹の憐憫の情さえ抱かせるようなものだ。

 けれど、魔王が見えているものはちがった。

 魔王の目に映っているのは、ルンベの後ろにいる幾千もの民だ。

 彼らはみんな、魔王の力を求めているのだ。一様に膝をついて、魔王が首をたてに振るのをまっている。


 魔王様、魔王様、魔王様。

 魔王様、魔王様、魔王様!


 魔王はそれを静かに見ていた。

 魔王はルンベの後ろにいる彼らを、無表情に見つめる。個性が表れない顔はもはや、顔がないのと同じだ。魔王に縋る彼らにはみな、その意味において、顔がなかった。


「わるいけど、きみらの王に戻るつもりはないね。僕以外の人間を探すがいいさ」

「しかし」


 ルンベの声が反響して、まるで幾人もが同調しているかのようだ。決定的な言葉を魔王が言う。


「僕の代わりはいくらでもいるじゃないか」


 その言葉とともに、幻想は掻き消えた。


「そんなことはありえません」


 ルンベの必死の否定を聞きながら、少女の扱う物語もこのようにして見えるのだろうか、魔王は関係ないことに思いを馳せた。


「はっきりいいなよ。きみが欲しいのは、僕じゃない。僕の持っている力だろう?」

「…そんなことは」


 ふっ、と魔王は笑い飛ばした。

 実直すぎるのも問題だな、魔王のそう言いたげな貌を見て、ルンベが慌てる。


「…魔王様」


 ルンベが言葉を重ねようとしたそのとき。


「お邪魔しまあす!」


 能天気な声がして、中庭側の扉が開いた。

 閉じていたはずだが、と瞠目すると、少女が女を連れているのが目に入る。


「なるほど。ルンベ、きみはこの城に入るために人間を連れてきたな?」


 魔王の感情の感じられない無機質な声。

 ルンベはさらに弁明を重ねようと魔王を見上げて驚愕した。その顔はルンベにとっては非常にめずらしいことに、苛立っているように見えたのだった。

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