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令嬢と庭と予言と


「いい庭ね。はじめてじっくりと見たわ。わたくしもお花が好きなの」


 令嬢が庭を眺める。

 二人は木製のテーブルに並んで腰をおろした。


「ありがとう」

「いいえ、魔王さまの庭ですもの」


 それもそうか、少女が肩をすくめる。

 少女がせかすより先に、案外おしゃべりなのか、令嬢がことのあらましを話し始める。


「予言の書が予言を下したの。哀しき魔物の王を癒すのは、このわたくしだって。そのとき、わたくしはまだ、ほんの十三歳だった。最初は、事の重大さに身の震える思いがしたわ」


 どこか遠くを見つめているようだ。

 少女は令嬢を観察した。

 彼女は、あまりにもか細くて、触れれば折れてしまいそうだ。ふんわりとした金の髪は、ゆるくウェーブを描いている。


「そうなの。やること多そうで大変そうね」

「魔王さまがさいしょ、どうしてかわいそうなのか分からなかったわ。あの方はいつだって強くて、ご立派であらせられたから」


 ご立派、ね。


「魔人と人間じゃあ、感覚がちがうのかしら?」


 令嬢がかわいらしく小首をかしげる。


「わたくしは人間よ。だからこそルンベさまがここに連れてきてくれたのだもの。父は王国の貴族でしたわ。わたくしは、そこを出奔して魔王さまにおつかえしたのよ」


 少女は度肝を抜かれた。

 この令嬢にそのような行動力があることに驚いたのだ。


「あなた、美しいだけじゃなくて、すごいのね!」


 少女が絶賛したというのに、何が気に食わないのか、令嬢はどこか刺のある口調で聞いた。


「あなた、魔王様に興味がないの?」

「どうして? あるわよ」


 なにもかも知ってやろうと思っているんだから、少女は意気込む。


「じゃあ、わたくしをどうして敬わないの」


 少女には意味が分からなかった。


「魔王様をすくうのはわたくしなのよ。ここに来るのだって、監視の目を欺いたりして、とても苦労しましたのよ。すごいなんて言葉で片付けてほしくないの」

「…はあ」

「ところで、あなたは、何?」

「わたし? ただの居候ですよ」

「聞いてないわ」

「そうですか」


 言ってないんだ。

 なんとなく居心地がわるい。

 しかし、簡単に人を殺しそうじゃないのはありがたかった。魔王相手だったら、ドラゴンがいても今頃消し炭になっていただろうから。最初に少女に攻撃してきたのは、まあ、しょうがない。


「でも、どうして庭に来たの?」

「ルンベさまが、魔王さまとお話がしたいようだったから、すこし抜けてきたの」


 どうやら、この令嬢はひとりで来たわけではないようだった。そのルンベとやらが令嬢を伴ってきたらしい。


「とにかく、魔王のところに行きましょうよ。案内するわ」

「結構です。場所なら知ってますもの」

「いいじゃないの」


 嫌がって身を引く令嬢と、上半身を彼女によせる少女と。

 結局、好奇心にかられた少女に押し切られる形で、二人の女の子は並んで居間に向かったのだった。


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