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少女と庭

 はやく真っ赤にならないかなあ。

 そう思いながら、トマトの苗に、バケツで汲んだ水を撒く。その枝には瑞々しい青い実がたわわに実っていた。レタスもとうもろこしももうすぐ収穫できるにちがいない。

 農業初心者にしてはなかなかじゃない?

 少女は誇らしく思う。

 太陽が照りつけるため、少女の額から顎にかけて、とめどなく汗が流れる。少女は腕でくい、とそれを拭うと、よっこらせ、とバケツを持ち上げて、今度は別の一画に植えたひまわりに水やりをする。

 そちらも、青いつぼみが黄色にかわりつつある。

 他の花の種もあったのだが、少女はまっさきにひまわりを植えた。

 時期がちょうどいいのもあったし、少女はひまわりが好きなのだ。花はまるで太陽のように陽気だし、そして何よりその種は食べることができる。かりっと炒めて、塩を振りかけると、それはそれは絶品のお菓子になる。

 もはや、花が目当てなのか、種が目当てなのか分からないが、とにかく少女はひまわりが好きなのだった。


「…この庭も結構変わってきたわね」


 最初に少女が来た時は、それはもう、ひどい荒れようだった。

 それが、一画とはいえ、畑になり、花が育ち、まるで生き返ったかのようだ。

 庭だけではない。

 城の中の手入れも始めている。

 少女が暮らしている区間のみで、広い城のすべてに手を入れるつもりはない。ただ、暮らす場所くらいは快適にしておきたい。だから、それ以外は、血塗れのまま放置されている。

 居間に散らばっていた人骨らしきものは、砕いて庭に埋め、血は魔王に手伝わせて他の汚れとともに、水で洗い流した。それだけでも幾分か凄惨な印象はうすれ、すっきりしたものだ。

 最近、少量の野菜の収穫も見込めるようになってきたため、食料の心配をする必要もなくなってきた。水の方も、幸いにも、地下にある井戸から清潔なものが汲めるため、それをそのまま使用している。

 井戸の前で、浄化の魔法が働いているんだ、と魔王が言っていたが、少女にはふしぎな力が働いたようにしか思えなかった。

 さらに、ふしぎな事といえば、少女はいまだに魔王が寝ているのを見たことがない。規則正しく寝起きしている少女と違い、魔王はどうやら睡眠すら必要としていないようだった。何をすることもないのに、起きて何をしているのか、少女の疑問はつきない。

 もしかしたら、起きているのに、なにもしていないのかもしれなかった。

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