2話 母と父そして理解
ぱちりと目を開けた先にぼやけた天井が映った。
あれ?私の部屋のって茶系だったっけ?ていうか、なんでぼやけてんだろ?
自慢だが、生まれてこのかた2.0から下がったことがない。散々な酷使にも眼球は耐えきっていたのだ。なのにぼやけた茶色は一向にすっきりした様子を見せない。不思議だ...
だが、それよりも
「あ~~~」
何故か異様にお腹が減っている。我慢が...ん?
「あ、ぅーーー?!」
声は出るけど言葉が喋れない。
いやそもそもこの独特の、高い声質って赤ちゃんみたい?
「あら、ルートもう起きたの?」
自分が出した声に戸惑っている暇もなくひょいと抱かれ、眼前に金色が零れ落ちた。
翠の瞳が優しげに細められ、小さめの唇が弧を描く。私をくすぐるような長い金髪が日を浴びてキラキラと輝き、とてもきれいだ。
ぽけーっと女性を見上げているとクゥ、と子犬の鳴くような音がした。
「...お腹が減って、目が覚めちゃったのね」
一度瞬き、可愛くてしょうがないとばかりに笑まれ、自分のお腹が鳴ったのだと気づいた。
あ、そういや私、自分で思考を打ちきる位お腹減ってるんだった。
あまりどころか、全く見かけることのない金髪碧眼の女性に見とれて、少しの間思考停止してた。...自分が抱き上げられたことも含めて。
うん、これ、あれだね。私転生しちゃってるね。
凪いだ心のままにすぱっと事実を理解する。伊達に漫画や小説を読み漁っている訳じゃない。成人した大人な自分に、慈しみを込めた笑みを向けて、抱き上げられるような外人女性に知り合いはいない。それに、そう、そうだ自分はトラックにはねられたのだ。
思い出せたことにスッキリしていると女性ーーいや母に呼ばれた。
「ルート、おっぱい飲まないの?」
片方の乳房をさらし此方を見る母に、羞恥など全く感じることもなく乳首に吸い付いた。
お腹を満たすととても眠くなってきた。抱かれたままうつらうつらとしていると、母が寝台に寝かせようとしているのがわかった。
離れようとしている温かさに少し不満が生まれるが、そっと押し当てられた掌のものに意識が移り、難なく私は寝台の友となった。
何度か目が覚めてはおしめのような布を変えられ、お腹を満たし、私は何の不都合もなく健やかに眠る。
「ルートは起きないのか」
「さっき寝たばかりだから...後何時かは起きないと思うわ」
声が聞こえた気がして私が微睡みから浮上すると会話する男女がいるようだった。そわそわしている男の声に、ああ、父か、と納得する。そういえばまだしっかりと会っていない。
顔を見てみたいと思い寝返りをうとうとして失敗した。...まだうまく寝返りをうてないようだ。
少しがっかりして、手の中にまだあった硬質の物に目を向ける。
「明日はお昼に一度帰ってきたら?あの子お昼は大分起きてたし...」
キラキラした粒子を内包した大きめの宝石だった。
「昼か...気をつけてみる」
赤や青や緑や茶色、黒や金や白...いろとりどりの色が淡く発行しながらまるで銀河の様に緩かに回っている。
「ふふ...あなた、猟に出ると時間を忘れるものね」
透明さが際立つ赤めの宝石が、ぐるぐる回る色に染まるように縁が色んな色になっている。
「あの子の瞳、基本は私と同じ緑系なんだけど、よく見るとあなたの朱もちゃんとあるのよ。それでじーっと見てくるの。ほっぺなんてぷにぷにでもうっ!」
ほう、私は赤系緑な目なのか。ちょっと、こうイタイ心が騒ぐな...!
ぎゅっと握った手のなかでぐるぐるが少し加速する。速すぎて弾かれたのか、中から光がちょろちょろ溢れた。
「...俺もその瞳に早く見つめられたいな...」
ラメが落ちるようにハラハラ舞うのかと思いきや、それぞれの粒子がひらりはらりと好きな方向に回りながら消えていく。
なにそれ、やばいきれい...
二親の愛を声から感じながら私は何度目かの眠りに落ちていった。
......ちなみに父には3日後の昼に会えた。目が覚めたら目の前に、ほんとすれすれにいてびっくりした。
肩に着かないくらいの茶色の髪を後ろで軽く結ってる、赤い瞳のイケメンだった。
目が合うとそれまでの無表情が嘘みたいに弛んで神々しいまでの笑顔で「ルート...お父さんだよ~」って言われた。
がばっと抱こうとして「まだ首据わってないから優しくゆっくり!」と母に叱られてた。
うん...愛されてるのがよくわかった。嬉しいけどちょっと照れる...かも。
まだ2話目なのにずいぶんかかってしまった...
誰か読んで貰えればとても嬉しいです。