1話 私はただただ微睡んでいた
ソコはとても安心できる場所だった。
優しい暖かさはぴったりと寄り添っていて私は常に微睡んでいた。母に叩き起こされる前の毛布の中の緩やかな一時がずっと続いている...そんな感じだった。
『あ、今この子ーーたわ...』
『ああ、ーーまれてくるのが待ち遠しいな...』
最初の頃はただ静かで、優しさだけが溢れていたソコに最近言葉が聴こえるようになった。
なぜか何を言っているのかわからなかったが、心地のいい響きだった。
ふわふわと微睡み、少しずつ理解出来始めた言葉が聴こえる。私の日々はこうして過ぎていっていた。
そんなある日。
なんだかいつもとソコの様子が違った。なにかに急かされるような不安感が徐々に増し、聴こえてくる言葉も逼迫しているようだった。
『ーーた、ーーれそう...!』
『なんーーって!待ってろすぐにーーー』
慌てた言葉に不安はさらに募った。
そこからは怒濤の如く全てが過ぎ去った。
私は押し出されるようにこの世界に生を受けた。
「ーーぁ、うぎゃぁあ。あぎゃぁぁあ!」
押し止まることを知らない不安に私の口からは叫びのような産声が上がった。
「ーーーふぅ、産まれたよ。元気な男の子さね」
薄く膜を張った瞳から世界が見える。私を抱き寄せる金髪の女性に感極まったように泣いている茶髪の男性。そんな小さな世界が。
「ああ...私の赤ちゃん...」
その胸に抱かれるうちに私の不安は溶けるように消えていった。ただ漠然とした安心感だけが残った。
「リリア...やったな...!」
男性ががばりと私と女性を抱き締めた。少し窮屈で、でも頬に当たる雫がなぜか優しくて、徐々に瞼が降りてしまった。
私は今、此処に生を受けたのだ。