英雄の最期と覚悟
「やめろっ!!アーデルッッ!!」
王女付き護衛騎士として生きた10年間
私は、
“ありがとう、お前がいてくれて
わたくしは、幸せだった。”
私も、幸せでした。姫様。
お守りできず、申し訳ありません
今、直ぐにお側に行きましょう
「ああ、しかし私は貴女と同じ毒では
死ねんようです」
胃袋からせり上がってくる不快感を
そのまま床にぶちまける
「…ガハ…ッ!」
ビチャビチャと足元に出来るドス黒い水溜まりは
テーブルの上にある先ほど飲み干したカップの中身のせいだろう
王宮の一室。自らに与えられた部屋で
使えるべき主人を失った騎士は
喉を掻き毟りながら苦しそうに血を吐き続けた。
髪は金、彫刻のような顔立ちに海の瞳を持つ
凛々しくも雄々しい美貌の青年
今宵彼は、まだ若き自身の手で
英雄と呼ばれた栄光の人生の幕を
降ろそうとしていた
「っ…!アーデル!
お前が死んでもっ、アイツは戻ってこない!
やめろっ!思い直せ、死ぬなアーデル!」
アーデルと呼ばれた男は
ピクリと動きをとめた。
彼は主人の兄であり、幼き日には共に剣技を競いあった親友。そしてこの国の王子だ
どこから嗅ぎつけたか
アーデルの自決を知り、軍を引き連れて
力強くで彼を止めようとしてきた
しかし、現状は百人近くの男たちが皆、部屋の床に伏せていることから察せるだろう
他と同様、意識はありながらも行動不能の王子は、それでも必死で親友の自決を止めようと手を伸ばす。
「殿下」
口元の血を手で拭い
騎士は場違いなほど晴れやかに笑う
「私の主人は、姫様だけです
そして償いは、……この命を持って。」
アーデルは
帯刀していた剣を抜き
「ーーーーやめろォオ!!!!!」
その胸に押し当てた。
ああ、神よ
どうかーーーーーーー。