第三話 鬱展開は勘弁お
「ねぇねぇ、聞いてる〜?」
「はっ!!」
癒やし系の少女ボイスが聞こえてきて我に返ったあたしの目の前には、
――手を振っている我が幼馴染の姿があった――
「お、お、お――」
「お?」と可愛らしく小首を傾げる幼馴染のゆいゆい。
その姿を頭から順に、頭一つ分あたしよりゆいゆいの背が高い所為で、若干見上げるように見ていく。
ゆいゆいの肩までかかった緩やかなカールのかかった茶色がかった髪、ちょっとたれ目で、いつもニコニコとしているためか――笑いえくぼがとても愛らしい。
これはいい。
だが――首より下にあるゆいゆいの格好は、
……いかにも中世っぽい淡い水色のドレスである。
(「どう考えても――無理ぽ」
普通の生活でこんな服は着ない。
ついで、あたしの目は捉えてしまった。
どこかの貴賓室のような中世ヨーロッパのような部屋に――積んだと思った。
「はぁ……現実かくも厳しいものお」
「うんうん、現実を見据えてくれて助かるよ」とこんな異常事態でもいつものニコニコフェイスを崩さない幼馴染――無駄なので突っ込みはやめよう。
「その――お姫さまはどうなったお?」と不安げにあたしは問う。
いや、ゆいゆいが知っているはずない――
「……死んだよ」と笑顔はそのままだが、若干声を落としてゆいゆいが教えてくれる。
「そ、そうかお……」とあたしの声は沈む。
軽く鬱になる――両親が事故で死んだときはどこか宙に浮いたような感覚で、死に際をみたわけではなかったわけで……。
でも、今回目の前で――たぶん死んだかと思うと……、
「ゆきちゃん……わたしがいるから元気だして、ね?」と健気にいってくれるマイ幼馴染。
(「こんないい幼馴染を巻き添えにする奴は最低だお!!
ってあたしかーーー!!」と心の中で突っ込みを入れて心の平静を保つ。
「そうだ……手紙」
”ぽん”と手を叩いてゆいゆいが机の上に置いてあった手紙らしきものをあたしに手渡してくれる。
別に拒否る必要がないので、そのまま受け取り、四つ折りにされていた手紙を広げて読む。
(「おお、見たことない文字だけど、読めるお」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・
この手紙を読んでいるということは、わたくしはこの世にはもういないことでしょう。
言えたかわかりませんので最初に言わせて頂きます。
国の大事に巻き込んでしまい、申し訳ありません。
詳しくは国の重鎮たちが説明してくださると思いますので詳細な説明はその者からお聞き下さい。
わたくしからは、一点……どうか以前と変わらずに過ごしてください。
勝手に召喚して何を言うかと思われるかもしれません。
上手く言葉にも出来ません。
ただそれでも……そう思わずに入られませんでした。
どうか――この世界を嫌わないください。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・
どこか――あたしを気遣っての手紙に思えた。
正直、文句の一つも言いたい。
(「でも、死んだ人には何も言えないお――言葉通りいつもどおりに過ごしますかのう」
濃い化粧をしていたのも、たぶん、あたしに気遣わせないためのものだったのだろう。
あたしはジャージのポケットに手紙を仕舞ってから、
「さて、ゆいゆい。この国の重鎮に会いにいくお」と部屋から一緒に出ようとニヒルな笑みを浮かべて促す。
「ああ、もう一つ言い忘れていたよ。
わたしたちこの国の王子さまと結婚しなきゃいけないみたいだよ?」となんかとんでもない爆弾発言がゆいゆいから飛び出す。
扉のノブに手をかけたままあたしはまるで石像のように硬直して――思考停止してしまった。