第二話 王女さま(推定)
眼を覚ますと――今度は化粧が濃い少女の顔がドアップで視界に入る。
「のわっ!!」と驚いたあたしは飛びのいて、「いたー!!」と後頭部を床にぶつけてしまう。
「大丈夫ですか?!」と化粧が濃い少女があたしに駆け寄る。
「だ、だいじょくないけど……命には別状ないお」とあたしは床に座ったまま右手で頭をさする。
ここは石造りのいかにも召喚儀式をするような場所であたしのいた場所には魔法陣があり、人はこの少女しかいないようだ。
二度目のドアップでのエンカウントとなった化粧が濃い少女――別に化粧が下手という感じはしないがくどいくらいに塗りたくられている顔にほどこされた化粧。
顔立ちを見る限り、そんな化粧が必要ないと思うくらい――おそらく素の顔は綺麗だろう。
背丈などから年は十代半ばくらいにみえ、純白のドレスに身を包まれ、――美しく長い波を打つ金髪がいろんな意味で眩しい。
「手をお取りくださいませ」と化粧が濃い少女――お姫さま(推定)が手を差し伸ばしてくる。
「……ありがとお」とお姫様(推定)の手をとったのだが――
「きゃぁっ!!」
「うわあ!!」
お姫様(推定)はあたしを立たせるどころか――あたしの方に倒れてしまう。
(「ぐぬぬ……もう後頭部からは床に衝突しないお」とばかりに踏ん張ってなんとかお姫さま(推定)のそこそこあるお胸を顔で受け止める。
「も、申し訳ありません」とツラそうな声が上から聞こえてくる。
(「胸押しつぶされたらツラいに決まってるおって――あたしにはわからんがな!!」とセルフ突っ込みを心の中でしつつ――結局徐々にささえられなくなって、床に軟着陸で尻もちをついてしまう。
「ほ、本当に申し訳ありません」と腕立て伏せの要領でお姫さま(ほぼ確定)が腕をぷるぷるしながらあたしの顔に押し付けていた柔らかな胸を離す。
――外からみれば、あたしはまるでお姫様に押し倒されているようにみえるだろう――
「その――望みは何かないですか?」とあたしを押し倒した体勢で、丁寧であるがまるで鬼気迫るような声でそんなことを聞いてくる。
こんな今にも唇と唇がくっつきそうな体勢で――
「お、おう」と気落とされながら、思案する。
(「イケメンからは元の世界に帰れないと言われ、世界を救うのが使命っぽい。
誰かに助けて欲しいお――マジで」
だからあたしは自然に、
「せめて、ゆいゆいもここに呼んでほしいお」
「ゆいゆいさんですか?」
ゆいゆいとは――あたしの親戚の同い年の女の子で食事の世話や、洗濯などなどの家事に、果てはあたしの着替えに、入浴まで面倒みてくれるスーパー幼馴染。
(「ゆいゆいなら――ゆいゆいならきっと異世界にくるのに巻き込んでも怒らないはずお」
「……わかりました。このままの姿勢で失礼しますね。
頭の中でその方を思い浮かべてくださいませ」
とお姫さまはこのままの姿勢で目を閉じ、あたしの額に自分の額をくっつけた。
「わ、わかったお」
あたしはゆいゆいを思い浮かべる。
肩にかかるくらいで緩やかなカールのかかった茶色がかった髪の毛。
いつも笑顔で文句も言わずにあたしの面倒みてくれるいまどき絶滅危惧種の女の子。
お姫様は――厳かに詠唱をはじめた。
『礎は水。
流転の如く礎は回り廻り続ける』
(「あ、あの――せめて、立ち上がってほしいお」と床に倒れたままでお尻が痛くなってきた。
『途切れることなく、
礎は全てを映し、写し――移す』
あたしが最初にいた場所にあった魔法陣が透き通った水色の輝きを放つ。
(「おお、透明な人の輪郭が出てきているお。
これ……魔法?」
『我が切なる願いを――架け橋に――リンク!!』
「まぶしっ!?」と眼をあけたままのあたしの眼にまるで太陽を直接みたような光を感じ――目が痛くて眼を開けてられず、思わず閉じてしまう!!
「……巻き込んで申し訳ありません。この国をおねが……ぃ」
「え?」
眼を開けたあたしはゆいゆいがここに来るか確認することは出来ず――あたしの顔に鮮やかな血を吐いた王女さまが横に倒れている姿をみることしかできなかった。