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光の中で 敏也 3

生徒会の連中と関わった敏也、なぜ僕に声なんかかけてきたのだろう?

やわらかい風がほほを撫でてゆく。頭のてっぺんの髪がさらさらと流れてゆく。

温かい日差しの中で、さわやかな南風の中にゆらりゆらり抱かれて子守唄が聞こえる。


「ねぇ~~むれ~~!って起きろよ!あほ!」

頭をペチンと叩かれて敏也は瞼を開けた。

ここはどこだろう?

木と木の間に自分は眠っているようだ。そして揺れている。ゆらりゆらゆら。

身体を起こそうとすると、ぐらりと地球が回った。

「おめ~~、壊すんじゃねぇぞ!」

回った地球の地面に見た顔がそろっている。

生徒会書記の高松翔とか言ったっけ。

ふわりとスカートが敏也の身体にさわってめくれ上がった。

「わぁ~~、やっぱりパンツ見たのは確信犯ってやつだったでしょ~~」

パンツは見えなかったが、バサバサやって長いスカートを押さえつけているのは教室で目の前にいた美奈香だ。

ドシンと音を立てて敏也は地面に転がった。見上げると二本の木の間にハンモックが渡してある。

「よう!寝心地良かった?」

生徒会長の熊五郎。

「そこに寝そべってする読書は最高なんだけど?」

コミックを手に髪をサラサラとなびかせているのは、新城陽介。

隣で鞄の中をがさごそかきまわしているのは、先ほどの美奈香でスカートからあぐらをかいている足が膝小僧まで見えている。色気もなにもないに等しい。

「これこれ!傑作傑作!」

よく見ると美奈香があさっているのは、敏也の鞄だ。

「な、なにし、して、してるんだ。ですか」

どもりながら敏也が美奈香の手から歴史資料の本を奪い取ろうとした。

「どれどれ?」

熊五郎が美奈香から本を受け取ると、本の端をうまい具合にパラパラとページをしごいてゆく。

「おお!すげぇーー」

敏也の描いているパラパラ漫画だ。

「うっへぇ~~、こっちはリアルゴキブリだわ~」

翔が手を叩いて科学の教科書を熊五郎に渡した。

そうだ、そこにはゴキブリがガサガサ逃げ回り最後こちらに向かって飛んでくるというパラパラだ。


落ち着いて周りを見てみると、ここは学校の校舎の裏庭で物置きの小屋がありその脇にある二本の木にハンモックがつるされている。日当たりが良く、花壇の花が色とりどりに咲いている。

花壇の前の芝生の上に四人は座り込んで、周りに敏也の鞄の中身が散乱している。


「これ、ちょー大作じゃね?」

翔が分厚い現国の教科書を指さした。

「すごい感動したわ、俺」

「でしょでしょ!面白いよね~~」

「いいね」

四人が現国の教科書を眺める。

そうだ、敏也の教科書シリーズの中では練りに練った作品だ。

美しい女性が海を見ている。こちらを振り向く彼女、にっこり笑い花が揺れる。

そして女性の表情がみるみるうちに変わってゆく。鋭い牙がはえ口は耳まで裂けそしてこちらに向かって大きな口をあけて襲いかかる。そして、元に戻ってゆく彼女の口元にはシャツの切れ端が。

最後に彼女は悲しい表情になり、大粒の涙を流して終わる。

この作品にかかった時間は丸一日だ。学校の授業中一心不乱に描いていた。


「いつも思ってたんだけどさぁ~。絵面白いよね」

よく見るとふわふわの髪は金髪に近い栗色で、ピンクの口紅から八重歯がのぞいている。

なぜだ、どうしてこいつは僕の作品の事を知っているんだろう。

教科書のほんの小さなスペースに描くのだから、誰にも気づかれない。そう自負していた。

いつも、周りを気にしながら描いている。

第一に僕の周りに人なんかいた試しがない。教室の隅っこに一人ポツンと座っているのだ。

「なんでぇ~~、よく描くの、後ろの席の椅子の上から見てたも~~ん」

「う、後ろから、な、なんで」

うろたえていると、熊五郎が笑った。

「周り気にしてても、上は気にしてなかったって訳か?美奈香、神出鬼没だからなぁ」

敏也は、今まで誰にも気づかれないで描いてきたすべてが、自分の行動さえもすべて見られていたような気分になって身体が熱くなる。

「ほらほら、赤面してるじゃないか。からかうのもその辺にしておいたら?」

メガネの奥の切れ長の瞳が敏也をみやって口元をゆがめる。

会計の新城陽介なんて、一度だって言葉を交わしたこともないのに。

何故だ?なぜ生徒会のやつらが僕の作品を見ているんだ?


敏也の鞄は概ねひっくり返されていて、中に入っているパラパラ漫画の描いてあるものは残らず読まれたようだ。


「すごいじゃん!おまえ才能あるんじゃんか!」

意外にも笑顔になると優しい表情をつくる高松翔は、現国の教科書を振って見せた。

「すごい?すごいでしょ!美奈香の事褒めて!ほめてぇ~~」

翔の手から教科書を奪い取って胸にだいてピョンピョン跳ねているたんぽぽの綿毛みたいに柔らかそうな三つ編み。


春の日差しは眩しいくらいに差し込んでいて、どこからか桜の花びらに似た欠片が風に乗ってきた。

桜はとうの昔に散っているのに。


「や、やめてくれよ。ぼ僕の許可もなしに読むなんて、ひ、ひど」

敏也が文句を言おうとした時、生徒会長と目があった。




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