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光の中で 敏也 2

人との関わり方を知らない敏也が遭遇する生徒会の面々。彼らは何を目的に近づいてきたのだろうか

今日はこれで最後の授業だし。

さてと、今書いているのは長編だったな。

これからラストに向けて、戦いの火ぶたが落とされるのだ。


敏也の頭の中では、父の敵を討とうとする王女と隣国の戦いが巡っていた。


「ねえ!パンツ見たでしょ?」

不意に敏也の机の端に金髪に近いパーマのかかった頭がゆれた。

「別にいいけどさぁ~内緒にしといてあげるけど!」

もしゃもしゃした茶髪をゆるゆるの三つ編みで片側に下ろしている。

大きな瞳が敏也を見上げる。

女子の顔をこんなに至近距離で見た事がないので、のけぞってしまう。


「え?え?」

言葉につまる。


ええと、誰だったかな。

有名な女子だった。

美奈香といったっけ。

生徒会の副会長だ。


すると美奈香は教室の入口付近に目をやると

「ここ、ここ!くまちゃ~ん!こっちこっち」

大きく手を振って招いている。

ピンクのマニキュアにキラキラした小花が光る。


「な、な、なに?」

敏也は生徒会長がこちらに向かって歩いてくるのを見て焦った。

「ぼ、ぼくはみ、見てないよ!本をよ、読むのに忙しくて、えっと」

心臓がバクバクいう。


パンツが見えたのは、僕が悪いんじゃない。

僕がいる事を、見てないからじゃないか。

こっちの方が迷惑だ。

僕がいるのを知ってれば、僕だって見たくもない物を見なくても良かったんだから。

必死で言い訳を考えるが、足元ががくがくする。


第一、生徒会長の熊五郎とかいうふざけた名前の男子は最近転校してきたばかりだというのに、

いきなり生徒会活動を活発にして学校の雰囲気さえ、変わりつつある。


敏也はどの授業も興味もなく

友だちなどというくだらない者にも関心は無かったのだ。

それより、受験の勉強をしてとにかく東大に入らなければ。


敏也の父は東大を卒業して官僚のポストにいる。

東大こそ、学歴として認められる唯一の重要ポイントだと思っている。

『東大以外は学校じゃない』

小さいころから、耳にタコができるくらい言われ続けてきた。


しかしその第一歩である受験に失敗した敏也だ。

父に認められるのは、東大に合格すること一点しかありえないのだ。

故に、敏也は毎日の授業などほうっておいて

受験対策の勉強ばかりを優先して生きてきた。


幸いというかなんというか、この学校は生徒が何をしようと教師は見て見ぬふり。

注意もしなければ、聞かせようともしない。

受験勉強にはうってつけだった。


ところが最近、先生の様子が違う。

端から順に教科書なんかを読ませたり、問題を出題して黒板で解かせたりすることがあるのだ。

面倒臭いな、そう思っていた。


そんな中

今目の前に副会長がいて、敏也に向かって歩いてくるのは生徒会長だ。

よく見ると遅れて教室に入って来るのは、書記と会計だ。

だらしないTシャツがズボンのポケットに手を入れて歩いてくる。書記だ。

眼鏡の奥の鋭い眼光は、どんな言い訳も聞いてくれなそうに見える。会計。


「どいつよ?」

生徒会長の熊五郎が美奈香に訪ねる。

どうする、敏也。

自問自答するが、逃げ出そうにも足ががくがくして動きそうもない。

「敏也って言うんだよね?」

美奈香がにっこり笑う。八重歯がのぞいて吸血鬼のように思える。

絶体絶命だ。

吸血鬼に血を吸われて、熊に食べられて眼鏡に身体中を切り刻まれて終わるのか。

ヨレヨレのTシャツが高らかに笑っている顔が目に浮かぶ。

敏也は目の前が真っ暗になった。


「あれぇ~~どうしちゃったのよ~~」

遠くの方で吸血鬼の声がする。

目の前が暗くなっているのは、もう血を吸われたからなのか?

僕の血、美味しいんだろうか。

野菜は嫌いだし、お菓子は大好きだが規則正しい生活もしていない。

日の光に当たっていないし、スポーツはできないので筋肉はほぼ無い。

あ、飼育している家畜は運動なんかさせてないな。

僕の肉は柔らかくて美味しいのかもしれない。

せめて、東大に受かってからこの世とさよならをしたかったな。

「おい!なに白目になってんだ!しっかりしろ!」

遠くの方で誰かの声が聞こえている。

それもだんだん遠くの方に消えていった。


小さい頃、父に肩車してもらっている敏也が笑っている。

そんな映像がくるくる回って小さくなってプツンとテレビのスイッチが切れるように消えた。


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