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光の中で 敏也 16

学校の裏庭に、吹く風はどんな風だろう。敏也はそこで何を思うのだろう。

昼休みは妙にのんびり過ぎてゆく。

暖かい日差しと冷たい風。

「ひょ~~、さっわやか~~」

美奈香が両手を上げて、校舎の裏庭に走って来る。

「うっひゃ~~」

花壇の端につまずいて転びそうになったところで、二本の木の間に吊るしてあるハンモックを掴んで止まった。

「お前、すっげ~変なかっこう!笑える」

翔が手を叩いて笑う。

「俺の昼寝の場所、壊すなよなぁ~」

熊が歩いてきて、美奈香の腰のところを掴んで引っ張り上げる。

「サンキュー!熊ちゃん。みなか軽いでしょ?へへへ、女の子だもんね、だからこけちゃうんだなぁ~~」

新城陽介が風に吹かれてなびく髪をかき上げながら首を傾げる。

「意味がわからない」

四人の後ろから、小さな影がついてくる。

敏也だ。手に単語カードをいくつか持って笑顔。

熊五郎はハンモックに横になる。

他の二人はその横の木の陰に腰を下ろす。

美奈香だけ、大きな植木鉢を逆さにして椅子に座るように腰掛ける。

「女の子はね、いつだって上品にしてるのよね!」

長いスカートのプリーツを整えながら薄笑いを浮かべ、貴族にでもなったつもりなのか。

「気色わりぃ~~、いつもあぐらかいてんじゃんね?」

翔が横を向いて舌をだす。


日差しは強くて暑いけれど、それを感じるより先に風が吹き抜けてゆく。

「こ、これ、良かったら」

敏也は四人に単語カードを渡した。

翔が真っ先に口をとがらせてつぶやいた。

「こんな気持ちいい時に勉強なんて、する気がしねぇよ~!」

陽介が苦笑いをする。

「まあね、でもまあ、敏也の気持ちだからね。あれ、これって」

陽介が手に持った単語カードをパラパラさせてメガネに手を当てる。

その単語カードは、端をボンドで固めて本のようにしてある。

顔を上げて敏也を見つめるとほほ笑んだ。

「パラパラ漫画なんだ」

「え~~~~、みなかのは?みなかのは?」

慌てて美奈香が自分の手の中の単語カードをパラパラとしごいてみる。

「きゃあ~~、みなかだ~~、かっわいいじゃ~ん、感激感激。うっほっほ~い」

急に下品になる美奈香。覗き込む三人。

美奈香の手の中のカードに描かれているのは、吸血鬼の女の子。


頭に大きなリボンをつけてパッチリお目目のニカッと笑った牙をもつ女子。

パラパラすると吸血鬼は怪しい笑いを振りまいて大きな口を開ける。

きらりと光る吸血鬼の牙。

キャアという悲鳴が聞こえる中、吸血鬼は突然オチョボ口になって口紅を出して塗り始める。

さらに付けまつげを片方に付けるとにっこり笑う。

もう一つを付けようとしたところで、ふと見るとそれは毛虫だった。

ぎゃあ~という悲鳴を上げて白目をむいてひっくり返る吸血女子。


というパラパラ。

「おっもしれ~~」

熊が美奈香の手からカードを取り上げてパラパラする。

翔が感心する。

「美奈香、ほんとに吸血鬼だろ?」

陽介もうなる。

「こっちも、見てよ」

陽介の手の中でカードの中のストーリーが動き出す。


メガネを光らせて風にたなびくサラサラの髪の毛。

遠くの方でたくさんの女子が、憧れたハートマークの目で見つめる。

ふっと片方の口元を引き上げて笑い、女子たちに向かって手を振ると更に空にハートマークが飛ぶ。

そこに強い風が吹いて、葉の付いた枝が飛んできて陽介の頭を直撃する。

カーンと音を立てて口元が大きく開かれる。

次の瞬間、陽介のメガネが頭の上の方に外れ飛ぶ。

メガネには大きくてぱっちりした目が描いてあり、陽介の本当の顔が現れた。

小さなたれ目の悲しい表情。

メガネをへっぴり腰で追い求める陽介。取り巻きの女子がみんな後姿で去ってゆく。


というパラパラ。

「へ~~、陽ちゃん、メガネないとこんな変な顔だったんだ~~、おっもしろ~~」

美奈香が陽介のメガネを、スイッとはずして覗き込む。

「漫画だろ、ちゃんとイケメンの目ですが?」

メガネを外した陽介の瞳は、キラキラ輝いて笑う。

「でも、おもしれぇ~~」

翔が自分の手の中を見つめてしごいてみる。

単語カードの中には高松翔がいた。


ピカピカ光るロゴの入った長袖ティーシャツで、ぺしゃんこの鞄を肩にかけて

ヨッと手を振り歩いてくる翔。

北風が吹き抜ける。

大きなエンブレムの半そでティーシャツで、肩に鞄をかけて歩く翔。

日の光に照らされて、汗を拭きながら舌をだす。

腕まくりをして胸に大きな葉の刺繍のティーシャツ。

気持ちよさそうに落ち葉降る中を走って来る翔。

突然場面が変わり、部屋の中で後ろ向きに丸くなり背中を見せる翔。

窓の外には激しい雨。

翔の姿が後ろ向きから横向きになり正面の姿に。

その手元には、針と刺繍糸でティーシャツに刺繍している。

ニッと笑い顔を上げた翔が「できた!」と言って手を上げる。


というパラパラだ。

「うひゃひゃひゃ~、翔ちゃんってオトメンだったんだ~~」

笑いながら美奈香。

「ちげぇ~わ!でも、これよくできてんな~~」

翔が感心してパラパラする。

「へ~~、しかも似てるしな!」

熊五郎がハンモックから降りてきていた。

座り込んで、自分の手の中の物を皆に見えるようにパラパラする。


両手を腰に当てて笹塚熊五郎が立っている。

たっぱがあり胸を張っている。

正面から熊五郎を中心にぐるっとカメラが回るように横からのアングル。

横向きでこちらに向かって親指を立てて不敵な笑みを浮かべる。

後姿から反対の横向きの姿。

あごに手を当てたピースサインに、周りからキャーキャーいう声。

場面変わって扉を開いて入って来る熊五郎。

張っていた胸から息を吐いて猫背になる。

後姿の首あたりからスッと切れ目ができると、真っ直ぐ下に切り開かれてゆく。

ジッパーを開けて中から出てきたのは、か細くて小さな男子だった。

可愛い顔をしてニッと笑う本当の熊五郎。


というパラパラ漫画だった。

「熊ちゃんったら、こ~んな可愛い男の子だったのかぁ~~、ジッパーどこ~~?」

熊の後ろ側に回って首あたりを美奈香が探す。

「ば~か!熊の着ぐるみか?オレは」

美奈香を手で払いながら熊五郎は

「おまえ、才能あるのな?」

感心している。

敏也は頬を上気させて、嬉しそうに頭をかく。

「ほんと」

「すごいじゃん」

陽介と翔。

日差しは明るく、さわやかな風はみんなをなでてゆく。


遠くの方で昼休みが終わるメロディーが聞こえてくる。

「さってと、行きますか」

新城陽介がわざとメガネをずらしてかけなおすと、皆を見回した。

「しゃ~ね~な!」

高松翔がティーシャツの裾をピンと引っ張って立ち上がる。

「美奈香、飴一つ入れちゃお~~っと」

ポケットから一つ飴を取り出すと口の中に放り込んで、ぴょんと美奈香はジャンプした。

「サンキューな、敏也!」

それだけ言うと、背の高い笹塚熊五郎は敏也を見下ろして笑った。

敏也は

「うん」

と声に出して頷いた。

何かが広がってゆく。暖かくて柔らかくてさわやかで、大切な何かだ。

僕はきっと、大丈夫だ。

父さんの事も母さんの事も、そして僕自身の事だって。

敏也は皆の後から駆け出した。

走れば、風が身体を通り抜ける。

走ろうと思えば、風は自分で起こす事ができるんだ。


振り返ると、風にハンモックが揺れて楽しそうに見えた。

どんな場所だって、自分次第で変われるのかもしれないな。

敏也は最初この場所に連れてこられた時を、思い返していた。

あの時のびくびくした僕は、今の僕の事想像もしていなかったよな。


風は走る五人の背中を、気まぐれに追い風になって吹いてゆく。

時に向かい風になり、時につむじ風になり。

それでも、見守るように。


               おわり

ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。

また、熊五郎たちは動き出す事でしょう。

その時、またお会いしましょう。

ありがとうございました。

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