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光の中で 敏也 14

敏也の家の中に強い風が吹いてゆく

広いリビングに笑いが起きる。

「でさぁ~としちゃんったら、スプラッシュマウンテンで、最後滝から落ちるところで大声アンド涙目なの~~、みなかなんか、両手上げて楽しんでるのに~~かよわいのよね~~」

両手を上げて、スプラッシュに乗って滝から落ちるところをジェスチャーで表現している美奈香。


リビングのテーブルの上には七つのティーカップ。

風が色とりどりの花を抜けて窓から入ってどこかに抜けてゆく。

心地よい香りを乗せて通り過ぎてゆく。

美奈香の身振り手振りに、楽しそうに聞き入っている敏也の母。


あれから、敏也の父は立ち上がると真っ直ぐに玄関に向かいそのまま帰って行った。

どこへ?

どこへ、帰ってゆくのだろう?

敏也はその後姿を見送った。

母を小ばかにした発言に、敏也は父とではなく母と生きることを選んだ。

けれど、自分を愛してくれている父のことは忘れない、忘れられない。

いつの頃からか、この家は冷たくなってしまった。

だけど暖かかったことを僕は覚えている。

大人の事情だ。

そう思って自分の気持ちにふたをして生きてきた。

父の望みの東大に合格さえすれば、また暖かい時間が戻って来る。

そんな風に希望を抱いていたのかもしれない。


「お前さぁ、ちゃんと言いたい事言えたじゃん!」

テーブルの上の煎餅をバリバリ音させて食べながら熊五郎。

「いつも、そうできればいいんじゃね?」

紅茶をおかわりして高松翔。

「みなか、いつも言いたい事云うよ~~」

クッキーを頬張る美奈香。

「お前は言いたい事言う前に、少し考えてからにしたら?」

優雅にミルクティーをすする新城陽介がメガネを押し上げて、美奈香をみる。


さっきまで泣いていた敏也の母は、うそのように笑顔を振りまいている。

テーブルの上にはこれでもかという量の菓子が並ぶ。

「あ、そうだわ、お団子もあったかもしれないわ。出してくるわね」

「いいよ、みんなもう帰らなくちゃいけないだろうし。スミレさんは笹塚くんの家に用事があるんだろうし」

敏也が、喜んでいる母に手で座るように言った。

「だって、としちゃんがお友だちを連れてくるなんて、もうお母さん嬉しくて嬉しくて」

僕だって、正直なところ嬉しいんだ。

友だち、仲間、そんなもの無縁だって思っていた。

だけど、なんの垣根もなく彼らは僕の目の前にいる。

僕の人生にこんな交友関係が生まれる事なんて、想像もしてなかったから。

本当に、嬉しい。

父との場面でさえ、もし自分一人ならば父と行動を共にしていたかもしれないし。

自分の気持ちさえ、気づいていないかもしれないのだから。

自分がどうしたいのか。

自分に問う事さえ、頭に浮かばなかった、きっと。


帰り際に熊五郎がつぶやいた。

「これからの事って、敏也にかかってんじゃねぇの?」

隣で翔がニッと笑いながら

「だね」

陽介が反射で見えないメガネのまま言う。

「お父さんは彼なりに息子の事思ってるんだろうからね。今日の事はきっと多少の打撃になってると思うな」

風がさらりと陽介の髪をなびかせる。

「美奈香もお父さん悪い人じゃないとおもう~~~」

わかっているんだか、わかってないんだか美奈香が手を上げる。

玄関で靴を履きながら、最後に敏也の肩をたたいたスミレさん。

「今日は修羅場にい合わせちゃってバツが悪いだろうけど、またわたしのところにも遊びにいらっしゃいね。あなたがお母さんを支えてあげてね」

優しい微笑みは、とても暖かい。


手を振って友だちたちを見送る。

この二日間、なんていろんな事が起こったのだろう。

僕は、何かが変わったかな。


ふと思いついて

敏也は部屋に行くと暗記単語カードを取り出した。

手のひらに収まるカードには何も書いていなかった。まだ、真新しい。

敏也はそれを見つめると、ほほ笑んで鉛筆を握った。







次話6月11日1時 アップします

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