光の中で 敏也 13
自分の気持ちはどこにあるのだろう、そんな事を考えて敏也は立っている。
何かが変わってゆくのだろうか?
不良と呼ぶには、不似合いな前生徒会長新城陽介が息を吐き出した。
日の光は暖かく広いリビングに降り注いでいる。
リビングの入口に置いてある花瓶には青く濃い紫陽花の花が、
すべてがわかっているかのように咲き誇っている。
敏也は母の悲しい気持ち、どこか逃避しているような日常を思った。
母さんは僕を育てている間だけ、昔の幸せにすがっていられたんだ。
父さんと母さんは、薄々感じていたけどやっぱりおしまいだったんだな。
悲しい気持ちと何に怒りを向けたらよいのかわからないまま、敏也は力なくソファーに腰を下ろした。
陽介が話始める。
「とりあえず、弁明だけします。敏也君は学校行事でディズニーランドに行って帰りの駅前で、不良に絡まれてお金を取られそうになりました。その時に殴られたあざが、その顔のあざです」
チラリと敏也の父をメガネの奥から眺めて、もう一度口を開く。
「帰り間際の事だったので、連絡は遅くなり申し訳ないです。しかし、昨日の状態はかなりひどいもので
そのまま帰る事をためらう気持ちがあったので、近くの生徒会長の親戚の家にご好意で泊めていただきました。なので、今は安心できる顔のあざに落ち着いていると思います」
敏也の父は、初めて陽介の顔をまじまじと眺めた。
「そ、それはどうも。母親の管理不行き届きで、君たちにも迷惑がかかったようだ。とりあえず、敏也はこれからは私の管理下に置く事になるだろうから、もうこんな事はおこらないだろう。いや、学校も変わることになるだろうから、君たちにはもう、一切迷惑もかからないと思うが」
陽介の言葉にひるんだようにも見えたが、敏也の父は話始めると、自分自身に言い聞かせるように頷いた。
「おっさん、友だちってぇのは学校が一緒だのなんだのって、関係ねぇんだよな。そこんとこわかってやれないと、可愛い息子、なくしちゃうぜ!」
熊五郎が紫陽花の花を覗き込んで、つぶやくように言う。
友だち
敏也は熊の言葉にぎゅっと胸を掴まれた気がした。
学校が変わるから、迷惑もかからなくなるという父。
学校なんか関係ないという熊五郎。
涙の止まらない母。
別れる事は決まった事だと言った父。
いやいやをした母。
僕を引き取るつもりの、たまにしか顔を見せない父親。
父の為に頑張ってきた今までの自分の姿。
僕はどうなってしまうのだろう。
僕はどうしたいんだろう。
大人の関係の狭間で、子どもは何もなす術もないのだろうか。
「としちゃ~ん、がんば!」
両手を上げて美奈香がはねた。
敏也の中で何かがはじけた。
「僕は母さんと一緒に暮らしたい。学校も変わりたくない。僕は絶対東大にも入って見せる」
敏也は足に力が入っているのを感じながら立ち上がった。
その姿を、ソファーから見上げながら
「だ、だけどこんな女と一緒じゃ、東大だって無理だろう。何をするにも間抜けで気が利かなくて、家事一つ取ったって人の何倍も時間がかかる。世の中では、こういう人間をおちこぼれというんだ。一緒にいたらお前も世の中から取り残されて置いて行かれるぞ!」
ああ、父さんは母さんの事をそんな風に思っていたんだ。
小さいころから、事あるごとに母の事を注意してどなっている映像が浮かんだ。
それでも、母はニコニコと笑い頷き敏也のそばにいてくれた。
そうだ、僕は父さんが忙しくていつも家を空けていたけれど、寂しかったことは無かったんだ。
もしかしたら、父さんが言っているのは合っているのかもしれない。
母さんは、いつも一生懸命動いてばかりだった。
器用じゃなかったのかもしれない。
それでも、敏也に愛情はかけてくれていた。
人より時間がかかる人だっているのかもしれないじゃないか。
でも、それがわかっているからその分たくさん動き回っているんだ。
僕の世話だって、ただいまと言った僕をスルーしたと思っていたけど。
精一杯頑張っていたんだ。
母さんは母さんなりに一生懸命に。
次話6月6日(土)1時 アップします




