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光の中で 敏也 12

敏也の目の前に展開するのは思いもよらない事だった!

赤いベゴニア、アザレア。

この時期は花の色が多彩になる。

紫色のシラン、黄色のチューリップ。

毎朝、敏也との会話もそこそこに母は庭の手入れに忙しい。

「もうすぐ、バラが咲くわ」

「スズランが咲き始めたの」

勉強の話の他は、そんな話題しか口にしない母。

だから、慌てた風で心配を絵に描いたような表情の母は、まるで別人のように見えた。


「としちゃん、心配したのよ」

心配なんてしてないかと思ったのに。

しいて言うなら、勉強する時間が無くなっちゃうじゃないの、とか。

叱られるかもしれないとは思っていた。

目の下にクマができている。

寝てないんだ。

「ごめん」

母は目に涙をためていた。

「母さんこそ、慌てちゃって電話しちゃったんだけど、どうしようかしら」

電話、誰に?

敏也はいつになく、そわそわして落ち着きのない母に不安を感じた。

あ、もしかしたら父さんに電話したのかな。

そうか、知らせるのが遅かったんだ。

あんな、いざこざがあったから知らせるのが遅くなって母さんは慌てちゃったんだ。

正直そんなに心配されるなんて、思ってなかったしな。

母さんがそんな事で父さんに連絡するなんて、意外だ。

母はおろおろして、いつも勉強しなさいと叱る人とは別人だ。


「みなさんには、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんね」

それでも、きちんとした普通の母親の顔がそこにはある。

「いえいえ、それじゃオレらはこれで」

「お邪魔しました」

「としちゃんのママ、バイバ~イ!」

「失礼します」

皆が帰ろうと玄関のドアに向きを変えた時だった。

ガチャっとドアノブが回って、ドアが開いた。

「あ」

敏也は声が出た。

そこに立っているのは、父だった。


そのとたんだ。

「あなた、ごめんなさい。敏也、今帰ったの。電話なんかしてしまってごめんなさい」

急に母の目に膨れ上がった涙がこぼれ落ちる。

「お前なんかに敏也を任せておいたのが、間違いだった!」

母の顔をにらんだ様な形相でいきなり、父がどなった。


電話したからってなんだ?

お前なんかに任せておいたのが間違い、ってなんだ?

ひと月に一度帰るか帰らないかの父の態度に敏也は怒りを覚えた。

僕がどんなひどい事をしたというのだ?

変な奴らに絡まれただけだ。

それに僕の事を心配してくれた友だちが一晩付き合ってくれただけの事に、なんの問題があるっているんだ。

母さんがどんな悪い事をしたっていうんだ。

父に対して湧いてくる怒りに、お腹の底が締め付けられるような気がした。


「敏也はわたしが連れて行く。それがいやだったら、この家から出て行け!」

そういうと父は、母と敏也の脇を通り抜けて奥の部屋に入ってゆく。


母は、いやいやをするように泣き崩れた。

肩を抱いて熊五郎が母を居間に連れてゆく。

どうしたものかと、不安な表情で皆も後をついて居間に入った。

ソファーにどっかりと腰を下ろして、怒りを身体中にまとっている父がいる。

そして、今気がついたという風に、敏也の顔をみて怪訝そうな表情を作ると

「なんだ、その顔は!それに、お前たちはなんだ」

最後は、熊五郎たちを見ながら吐き捨てるように言った。

敏也は、熊五郎たちを傷つけた気がして震える声で叫んだ。

「友だちだよ!僕が殴られたのを助けてくれたんだよ!なんで、そんな言い方するんだ!」

熊がボソッと呟いた。

「言い過ぎじゃねぇの?おっさん」

ふんという風に息を吐き出すと父は

「だいたいだな。敏也が受験に失敗したのだって、管理していたこいつのせいだったんだ」

「勉強だって、最近偏差値も上がらないし、たまに机の上を覗いてみると訳のわからない絵なんか描いていて、このまま任せておいていいものか考えていたんだ」

「忙しい最中に電話してきて敏也が帰ってこないだのなんだって。いい加減にして欲しいな」

「帰ってくれば、敏也は顔に不良のようなあざなんか作っていて、不良たちと遊び歩いているなんて、どうなっているんだ」

そこまで、一気にまくしたてると息を大きく吐き出しながらもう一言。

「もう、別れる事は決まった事なのに。敏也が大きくなるまで待ってというから待ってやってるというのに」

敏也の中で何かが壊れる音がした。

ガラガラと崩れ落ちる積み上げられた何か。

尊敬していた父の大きな背中。






次話6月3日(水)1時 アップします

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