光の中で 敏也 11
長く楽しい一日は敏也を変えてゆくのだろうか。そして何かが変わってゆく。
敏也は窓の外が見慣れた住宅街になっているのに気づいた。
「もうすぐ市内だね」
思ったことが言葉になってこぼれ落ちた。
あ、思っただけだったのに。
「としちゃん、なんかいい感じ!」
美奈香が助手席から、振り向いて笑う。
牙が八重歯に見えた。
「一泊旅行になったな」
熊五郎が、大きく伸びをすると車内が狭くなる。
「クマの親戚んちってオレ気に入ちゃったぜ~、スミレさん、また行ってもいいっすか?」
高松翔は本気の顔で運転しているスミレさんにたずねる。
「翔だけ行ってもしょうがないだろ!今度、みんなでお邪魔したいです、特に風呂がいいですよね」
新城陽介は、話の持って行き方がわかっているようだ。
「あらあら、みんなに気に入られちゃって嬉しいわ。年寄りばかりの家だもの、若者大歓迎よ」
スミレさんは嬉しそうだ。
「みなか、あの家に住みた~~い!」
美奈香の言葉にうなずく車内。
「でも、美奈香があの家から出てくると違和感、超ハンパないんっすけど!」
舌をだした翔の言葉に、みんな爆笑だ。
「僕も、一緒に行きたいです」
敏也は、夕べの家に迎えられてから出発するまでを思い出しながら言う。
腫れていた右頬のあざもかなり落ち着いて、少し青く残るだけになっていた。
確かに、昨日あのまま腫れあがった顔のまま家に帰ったら、母に問いだたされる。
自分は何も悪くはないのだが、それを母に伝えられただろうか。
そう思うと、落ち着いた青あざだけれど良かったなぁと思った。
熊五郎やみんなのお蔭だな。
僕の言い訳なんか、きっと相手に伝わるように言葉にできなかったよな。
だけど、気持ちって言葉にすると、心が一緒に伝わる事ってあるのかもしれないんだな。
もう頭の痛みも顔の痛みも、感じなかった。
天辺にたんこぶらしきものは、できてはいたけれど。
不意に美奈香が身体をこちらに向けて
「思い付いたんだけどさぁ~~、としちゃんって、まんが描けばいいんじゃ~~ん?」
敏也に向けて大きな口を開けてにぃっと笑う。お決まりの吸血鬼の牙が二本。
「え?」
何を言ってるのかな?漫画って、なんの事だろう。
「ああ、なるほどね。才能はあると思うな」
陽介が頭の回転良く答える。
「パラパラ漫画か!おお、いいんじゃね?」
翔が手を叩く。
「感動したしな、あれ」
熊も腕組をしてあごをあげた。
敏也の頭の中に、学校の裏庭で敏也が教科書に描いたパラパラ漫画をみんなが読んでいる光景が広がった。
勝手に読む事に腹立たしさと驚きがあったが、自分の描いたものを観て笑い感動している彼らに心のどこかで喜びが生まれていた事は否めない。
僕の描いた漫画、感動してくれる。
面白いと笑ってくれた。
あの時の胸の底がムズムズする感覚は、はっきり覚えている。
そうか、僕のやりたい事の一つには違いないな。
「うん、また描くよ」
言葉にするのは簡単だった。
「おお~~」
「いいね~~」
「やった!」
「待ってるから早く描いてよね~~」
車内は楽しい空気のまま、今日という昨日からの楽しい一日も終って別れていくのだろうと思われた。
けれど、それ程簡単に一日は終わらなかったのだ。
敏也がどんなパラパラ漫画を描こうかと、イメージを膨らませているところで車は緩やか住宅街を入ってスピードを落とす。
「敏也の家が一番先だったな」
スミレさんは熊五郎の家に、挨拶に行くというから敏也を先に下ろす事になっていた。
「オレら、家の人に挨拶に行った方がいいんじゃね?」
翔が気がきく発言をした。
「確かに」
陽介もそういうと、車を降りた。
敏也の家には、大きな花の色が鮮やかな庭がある。車はその前に止まった。
住宅街の裏だけれど、静かな広い道路に面している。
敏也の家の母自慢の庭に、日の光が注いでいる。
手入れの行き届いた庭に花々が咲いている。
「綺麗だね」
美奈香がおとなしい顔になって見とれている。
ただ、敏也が家の中から出ている違った匂いを感じていた。
いつもと違う。
全員が車を降りて、敏也の家の玄関に立つ。
「ただいま」
敏也がいつもより大きな声をかけて、ドアを開ける。
バタバタバタ、二階から降りてくる足音。
慌てている様子のいつもにない足音。
普通の家より広い玄関は、六人の大人が立っても余裕があった。
上がったところには、階段があり二階から降りてきた敏也の母は見た事もない表情をしていた。




