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光の中で 敏也 10

将来の夢や希望、そんなことを考えて敏也はガツンと頭の中で音がする。

翌日の朝は目覚ましは要らなかった。

ニワトリの声が朝を告げるのは、目覚まし時計よりも強烈だったから。

朝の光が差し込む頃から庭から、大きな声が響いている。

それと同時に、お腹のどこかを刺激する匂いが漂い始める。


敏也はニワトリの声ですぐに目が覚めた。

そして、自分がどこにいるのか一瞬わからなくて慌てた。


ああ、そうだ。

昨日、へんな奴らに絡まれてお金を取られそうになって、連れ去られそうになったんだ。

思い出すとお腹のあたりが穴でもあいたようになって、力が抜ける。

あの時、僕の声を聞いてみんなが助けに来てくれたんだ。

そして、言われるままにジャンプしたら相手に頭突きをお見舞いする事ができた。

で、解放された。

小さいころからいじめられることは多かった。

弱虫なんだよな、ぼく。でも、相手をやっつける事ができるなんて思ってなかったな。

殴られたことも頭がガンガン痛んだ事も、気にならないくらい胸がスカッとした。

目の前に、いじめっ子が顔を抑えて痛がって転がっているなんて、僕の人生の中で何度あるかな。

思い出すと、胸が震える。


それから、仲間と風呂に入った。

公衆浴場さえ、入った事もない。

裸で他人と風呂に入るなんて、僕の人生で初めての事がもう一つ追加だな。

なんだか、昨日の出来事はどれもこれも夢の中の事みたい。

でも、今隣に寝ている三人を眺めて、夢じゃない事が果てしもなく嬉しい事に感じる。

熊はいびきをかいている。

ニワトリの声なんか聞こえていないらしい。

翔は布団を抱きしめて丸まっているし、陽介はメガネをかけたまま寝てしまったらしい。

三人とも、夕べは疲れたのか気がつくと寝息を立てていた。

興奮していた敏也はなかなか寝付けなかった。

それでも気がついたら、ニワトリの声が聞こえていたのだからきっと疲労はピークだったに違いない。


「やっほぉ~~、朝ごっはん~~」

障子が開いて美奈香が、三人の布団の上にダイブした。

「おっめぇ~~」

「うっは~」

「重いよぉ~」

三人ともびっくりして飛び起きる。

「何言っちゃってんの?美奈香なんか朝ごはんの支度手伝ったんだよ!どうだ、参ったか!」

エッヘンと両手を腰に当てて、仁王立ちしている。

それにしても、吸血女子はすでに、バッチリメイク済みである。

「腹減ったぁ~」

「お前が作ったの?げぇ~~」

「スミレさんの足手まといじゃなかったのかな?」

三人ともてんでに、ブツブツ言いながら起き上がる。

朝の日差しは、初夏のようにまっすぐに降りてきている。

「今日は暑くなりそうだな」

「スミレさんの朝ごはんが食べたいなぁ~」

「きちんと挨拶はしておかないと」

それぞれ、身なりを整えて顔を洗うと居間に向かう。

敏也は久しぶりに朝ごはんを美味しいと思った。

同じお米。同じような卵焼き。お漬物やら金平ごぼう。焼き海苔、に塩じゃけ。

敏也の家でも同じような物は並ぶ。

でも、なんでこんなに美味しいんだろう。

それから、楽しいんだろう。

ご飯茶碗が空っぽになり、おずおずとおかわりをする。

「おお~~、としちゃ~ん、いい食べっぷりじゃん!健康な証拠、うん美奈香もおかわり!」

どうも、吸血女子はたくさん食べても太らないのか、いつでも敏也の倍は食べている。


そうして、敏也の初めての旅は終盤に向かった。

全員で深く頭を下げると、スミレさんが送ってくれるというバンに乗り込んだ。

土曜日の朝、連休明けもあってか道は空いていた。

お腹がいっぱいになったので、みんな黙り込んでうつらうつらだ。

美奈香はスミレさんになついているので、助手席であらんことをしゃべっている。

そのうち、進路の話になった。

敏也たちの中学は、そのまま公立高校に進学するか近くにある有名私立を目指す。

目と鼻の先にある有名私立は、偏差値も高く難関校だ。

公立高校は交通の便も悪い場所にあるから、みんなできる事ならば有名私立を希望する。

敏也もその中の一人だった。

東大合格も夢じゃない。

「美奈香、やっぱ私立行きたいんだなぁ~」

薄目を開けて偏差値の高い陽介が笑う。

「物凄く頑張らないと、じゃないの?」

スミレさんが言葉を選ぶ。

「じゃ、みんな将来の夢ってあるの?」

熊五郎が、目をつぶったまま

「手に職って感じかな」

翔が両手を上げてあくびをしながら

「大学行ったら親父の会社継ぐってパターン」

陽介はメガネを拭きながら

「弁護士や検事、司法受からないとね」

美奈香が

「幼稚園の先生ってのが小さい頃の夢だったんだけど、他にもいろいろなりたいものがいっぱいありすぎて決めきれない~~」

振り向いて

「としちゃんは~?」

「と、東大」

しどろもどろで声がうわずる。

「東大行ってどうするの?」

美奈香がにっと笑って首を傾げる。

「と、東大行って、ええっと、行って」

熊が横目で敏也を見つめる。

「何のために東大?」

陽介がうなる。

「東大じゃ官僚とかになりたいのかな?ちなみにオレも東大志望だけどね」

敏也は脳みそのどこかが固まったのを感じた。

東大に行くのが目的で夢、なんだよな。でもそれって、最終目標じゃないんだ、もしかしたら。

どこかをガツンとやられた気がした。

まだ、右半分のあざが消えない顔でなんと答えたらよいか、考えながら窓の外を眺めながら自問自答していた。

流れる景色は都心から住宅地と所々の緑に変わってきていた。



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