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三題噺 第26話

作者: 水平斜面

三題噺 第26話

 お題 芸人、太陽、花火


   ◇


花火一輪


「見ていろ、世界一、いや宇宙一大きな花火を打ち上げて目に物見せてやる!」

 そう言い捨てて、一人の芸人がモニタの中の世界から姿を消した。


 芸能界。そこは、数多の芸人たちがしのぎを削る戦場。ある者は身体を張って、またある者は知恵を絞って、渾身の芸でお茶の間に笑いと驚きを送り届ける。ヒットを飛ばした者は引く手が絶えず、日夜画面の中で踊り続ける。だが、ひとたび人気を失えば、磐石だったはずの足元は儚くも崩れ落ち、わらを掴んで糊口を凌ぐ日々が訪れる。そんな世界で、ほんの一時、名が売れて、そして忘れ去られようとしていた芸人が残した悲痛な叫びは、しかし、誰にも顧みられることなくバラエティの渦に呑まれて消えた。


 月日は巡り、春と夏と秋と冬が幾度となく過ぎ去ったある日、動画投稿サイトにひっそりと残存していた芸人のアカウントに一本の動画がアップされた。生放送のタグがついたその動画は、放送開始当初から変わることなく、ひとつの光を映し出していた。真っ暗な背景に赤い褐色でぽつりと浮かぶその光点は、周囲にちらちらと明るい輝きをまとわせながら、ぼんやりと佇んでいた。

 それが何であるのか。気付いた一人のアマチュア天文学者が、コメントと共に張ったリンクを皮切りに、その動画に対するアクセスとコメントは瞬く間に増大していった。


『さぁ、画面の前のオーディエンスの諸君お立会い!』

 ちらつく光のほかに動くもののなかった画面に、異様な出で立ちの男の姿が入り込んだ。顔はアカウントの紹介写真に写っている芸人の輪郭をかろうじて維持していたが、脳や視力の劣化を補うヘッドギアが頭部を飾り、前時代的なサイボーグの様相を呈していた。

『ようやくお披露目できる日がやってきた。ずいぶんお待たせしちまったが、俺の人生を賭けた、一世一代の大舞台だ』

 身体だけは、それでも小綺麗な生体部品を揃えたらしく、一般的な若い男性の肉体に見え、それだけに頭部のメカニカルな姿がいっそう奇異に映る。

『うはは! コメントが流れるのが早すぎて追えねーが、そうだ、大体合ってる、ご明察、ご指摘のとおり……』

 芸人が、もったいぶった間をあけて、神妙な口調で居場所を明かす。

『我ら人類のご先祖様が生まれ育った母なる星、太陽さ』

 芸人の言葉に、コメント欄がさらに過熱する。

『ご先祖様の地球が使えてた時代はまだ若い主系列星だったらしいが、いまやご覧のとおりの赤色巨星。ここはかつての土星軌道のあたりだが、随分大きく見えるもんだぜ。色も赤黒いし、母っつーより婆さんだな』

 画面の隅に、警告音と共にポップアップが立ち上がった。

『おっと、誰だぁ通報しちゃったの。保存宙域で立入禁止だなんて分かってるって。けどまーもう遅い。警察が飛んでくる頃には全部終わってるからな。さぁて、そいじゃ、メインイベント行ってみようか!』

 そう言って芸人が取り出したのは、いかにもといった形の押しボタンスイッチ。黄色と黒の太縞で彩られたボックスからぴょこんと飛び出た赤い丸ボタン。

『こいつが花火の起爆ボタン。宇宙一大きな、ね。皆もご先祖様の母なる星がこうやってぼんやりと老いぼれていくのは見たくないだろ? そこでコイツの出番だ。コイツは反重力装置を応用した時空の加速装置。本体はもう赤道上に配置済み。あとはこのスイッチを押せば時が加速する。狙うは、そう……超新星爆発だ。せっかくの太陽花火だが、皆の住んでるその星に届くのは大分先になるだろう。だけど、心配は要らない。俺が、太陽のすぐ近くから超光速通信で、きっちりお届けするぜ! そいじゃ、とくとご覧あれ──』

 コメント欄がオーバーフローする勢いで非難が集中する中、オーバーアクションで振り下ろされた芸人の指が、赤いボタンをぽちりと押した。

『さぁ、皆もカウントダウンしてくれよ!』

 巻き込まれないように、星系辺縁へ全速後退を開始しながらも、太陽をしっかりと捉えたままのカメラの中で、時間を加速された太陽がぐいぐい膨張していく。そして、膨張がピークに至り──

『あ……、あれ?』

 呆気にとられる芸人の前で、膨らみきった太陽は、ガスを撒き散らしながらしゅるしゅるとしぼみ始めた。

『え? お、おいおいおいおーい!?』

 宇宙船の窓に額を押しつけ、中途半端な不発に終わった花火に叫んでいる芸人の目前で、空間が歪み、警察の宇宙船が姿を現したところで通信が切断された。


 生中継が中断された画面を切り替えながら、嘆息する。

「阿呆が…、太陽の質量では、超新星爆発など起こさずにしぼんで惑星状星雲となるだけじゃ。まぁ、花火ならぬ花と咲いたのじゃし、ギリギリ及第点、かな。芸人としてではなく、どちらかといえば芸術家の仕事じゃろうが……」

 弟子の不出来を嘆く老爺の視線の先には、アルファ・ケンタウリからの太陽観測カメラが撮影した、美しい宇宙の花が咲いていた。


Fin.

太陽がガスを吹き散らして惑星状星雲になったところで、その姿がアルファケンタウリで見えるようになるにはやっぱり数年かかるよね、という点は目をつぶって頂きたく。

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