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最高に幸せな人

作者: 嘉川 綾人

私は会社員だ。

特に金持ちというわけでもなければ、貧しい生活を営んでるわけでもない。

なかなか平均的な暮らしができていると思う。


しかし、毎日が楽しいというわけではない。

上司ともいまいち噛み合わず、そのせいで同僚の友達も少ない。


私はその日もなんとなく会社に行き、なんとなく働いて、

そしてなんとなく帰宅した。


自宅は一軒家。家の前にマンションがあるため日当たりが良くないけれど、

どうせ帰ってくるのは夜だし一人暮らしなので、料金も安かったここにした。


いつもなら夕飯を食べシャワーを浴びて、0時までには寝てしまうが、

この日は帰り際に見た夜空が綺麗だったので寝室の窓から覗いてみようと考えた。


思ったより眺めはよくない。それも目の前のマンションに邪魔されて。

反対の部屋の窓から覗いてもいいのだが、わざわざ移動するのも面倒なのでそのまま鑑賞を続けた。


マンションは5階建ての作りだ。そこのマンションには仕事の関係や個人的な用事で度々足を運ぶので、住人のことはある程度知っている。


例えば、最上階5階の一番端っこの部屋に住んでいるのは20代前半の青年だ。彼は一人暮らしでコンピュータ関連の仕事についている。

このご時世にもかかわらず商売がうまくいっているようで、中々の金持ちだ。恐らく私より裕福な生活を楽しんでいるのだろう。

しかし、彼が外に遊びに出て行ったり戻ってくる様は見たことがない。私がマンションを訪れる時も、毎回部屋にこもっている様子だ。

人それぞれ「幸福」というものはあるだろうが、それが彼なりの幸せなのだろう。


1階の真ん中の部屋に住んでいる家族は、子どもが3人いる。だがやはり、遊ぶほどのお金はなく、生活費と学費を稼ぐので手一杯になっているらしい。しかし、帰ってきて家の玄関を開ける時には必ず笑い声が聞こえる。それだけ仲がいい証拠だろう。「笑う門には福来る」というが、あの家族は少し羨ましい。私が思うに幸せそうなのだ。


3階の右から二番目の部屋に住むカップルはかなりお熱いようだ。出かける姿を見かけるときはいつもふたり一緒だし、喧嘩をしているのも見たことがない。しかし、彼女の方は身体的な理由で子どもが生めないそうだ。

そういった事柄は女性にとって大きな問題であり、自信すら失ってしまう。それでも彼女が笑顔でいられるのは、彼氏の心遣いと優しさのお陰なんだろう。


3階の一番左の部屋には40代前半くらいの夫婦が住んでいる。彼らは外では「仲のいい夫婦」と見られているが、人から見られない処では、会話が一切ないらしい。つまり相当冷め切ってしまっているようなのだ。共働きで中々会う機会がないとはいえ、顔を合わせた時ぐらい話をしてみてもいいんじゃないんだろうか…

彼らの場合は外での自分たちの評判が良いことこそが至上の幸福なのだろうか。


住人はそれぞれ悩むべき所を持ちながらも幸せそうだ。

それがどんな形であろうと、彼らにとっての「幸福」は揺るがないだろう。

私は寝室のベッドに倒れ込んだ。

「幸福」…私には一体何がある?朝起きて働いて寝て、また起きる。

このサイクルにいくらほどの意味があるというのだ。

多彩な趣味もなく、時折車でドライブに出かけるのが幸せといった程度だ。


ふとネクタイをきつめに締めてみた。

当たり前のことだが首が絞まり、息苦しくなる。

まだ私は死んでいない。

それでも、生きてもいないんじゃあないだろうか…

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