第94話 解き明かされる謎
『同心円状のって……東京を中心にか?』
「うん、その通り。成美先輩、大きめのコンパスとかありますか? なければ画鋲と糸とペンでも構いません」
「わかりましたわ。爺や! 急いで準備を」
「承知しました。お嬢様」
太地は地図の上に3つの円を描く。その描かれた円を見て、成美と月人は一瞬で状況を把握する。
「な、なんてことですわ!」
『こんなシンプルなことだったのか……』
一番外側の円は東京の千代田区あたりを中心に半径がいわき市くらいまでの大きな円だ。そしていわき市と長野市に貼られた赤いシールの上を円弧が通過している。
「これが11月30日の爆破テロ二箇所です」
次に太地派二番目に大きな円を指す。正確性はそこまで高くないが、十分に納得できる範囲で赤いシール三箇所を円弧が通過している。
「そしてこの円が12月7日の爆破テロ三箇所です」
「藤枝市、諏訪市……那須町。ほんとですわ。この一本の円弧上に3つの街が位置していますわ」
三番目に描いた円は同じように軽井沢町と矢板市と河津町に貼られたシールの上を通過していた。
『間違いねぇな……市役所から市役所への移動の事ではなく、爆破テロを起こした日から次のテロを起こした日までを「一歩」と表現していたのか。進撃とはそういう意味だったのか……クソ! 全く気付かなかった』
「ではあの意味有りげな犯行予告で表示されていた時刻には何か意味があるということなのですわ?」
「それに関しても説明できます」
太地がまたペンを取る。そして一番大きな円のすぐ外側に数字を加えていく。円弧に沿って上から12、1、2、3、4……そして11を書いて再び12に戻ってきた。
「「 ッッ!!!! 」」
「これは……時計の文字盤ですわ!」
月人と成美の表情が大きく変わる。どうやら理解したようだ。太地はとりあえず解読を続ける。
「爆破テロの標的となった場所は指定時刻の短針が指す方向に延長した線上にあるという意味だったんです。
例えば東京を中心に時計の針があるとして、1:10の時の短針の指す方向へ線を引っ張ってみると、大体いわき市辺りを通過します。長野県諏訪市は9:30の短針の線上とほぼぴったりです」
『細かい時刻表記になっていたのはできるだけ正確に伝えるという意味と、この時刻表記が重要だということを伝えるメッセージだったのか』
「うん。そうだね。腹が立つけど、宍土将臣からのヒントだったんだよ」
太地はさらに考察を続ける。
「NFNFの標的はもともと日本政府だった。しかし今回の関東大一揆においてはその被害が地方自治体にまで及んでいる。その真意としては多少は自治体への怒りもあるのかもしれないが、主に政府へ恐怖を植え付けるためのメッセージなんじゃないかと僕は感じている」
「一見無差別に役所を狙っているようにも感じますわ。犯行予告の意図がわからなくてもそれはそれで効果は絶大ですわ。今まさに住民が怯えて政府は混乱していて……そこから東京へ進撃していくという予告の意図がわかったとしても当然恐怖心は消えるどころか増大しますわ。都心で生活をしている一般市民にとっても」
頷きながら補足する太地。
「宍土の行いを肯定するつもりは全くないけれど、11月30日の爆破はどちらも夜の時間帯だった。つまり、宍土にとってこの二箇所の爆破はルール説明みたいなものだったんじゃないかな。人的被害を出さないために夜を狙ったかもしれない」
『……時間帯は2択。深夜の1時か昼間の13時かで、人的被害状況は大分変わるからな。犯行予告を出す前のいわき市と、予告を出して一発目の長野市は言わば予告文解読のために俺たちへ与えた猶予ってことか……』
「二箇所だけ例を示してやるから解けるなら解いてみろということですわ」
「そうだろうね。宍土自身も関東大一揆に対するためらいが多少はあってのことだったと祈りたいけど。まっとうな人間としての一面くらいほしいって意味でね」
「一回目、11月30日のテロが終わって、犯行予告が『一歩洛中へと進撃する』でしたわ。そして一回り小さくなった円に重なる3つの都市が襲撃を受けたのですわ。朝からお昼の時間帯に。そのあと更に進撃して一回り小さくなった円……時間帯も……ここまでは太地さんの推理通りですわ」
ここでクルミと遊んでいた六太がテーブルに飛び乗って、地図の方へ向かってペタペタ歩いていく。
『なぁ、なんでこの河津町だけNFNFのローダーがいなかったんだ?』
『……ポメ公はたまに真面目な顔つきで話に入ってきて、こういう鋭いツッコミするよな』
「NFNFの人員が足りなかったとか? 明確な理由はわからないのですわ」
「おそらく、【爆破のみ】という選択肢もあるぞとGSDに示したかったんじゃないかな。今後の進行でGSDの戦力を分散させるための措置としてね」
『逆に考えたら、宍土が俺たちシーカーの存在を脅威と認識したってことだな』
「そうそう。多分想定していた以上の存在だったはずだよ。軽井沢なんか完全に阻止したし、諏訪市と矢板市は負傷者はいたけど死者を出さなかった。このことが宍土の判断になんらかの影響を与えたはずだよ」
全員が概ね納得といったところだ。そして月人が最も重要な点に話をふる。
『……それでよ。ここまでの推理から、次回の爆破テロの標的がどこかってことだよな?』
「うん。それに関しても今話しながら考えていたけど、大体わかってきたよ」
「それはほんとですわ⁈ どこですわ!」
太地は順を追って説明する。まず、一回目の円と二回目の円との間隔、二回目と三回目の円との間隔。もちろん大きさは違うがこの間隔はある程度参考にできるということ。更にこれまで通り県庁、市役所、町役場等が狙われるという前提。そして今回の犯行予告文の【御土居】だ。
「御土居っていう表現からこれまでとは違うってニュアンスも含まれていると考えてみてはどうかな?
洛外から洛中へと切り替わる境界でもあり、外部からの侵略を防ぐための防壁でもある。これを現代社会に強引に当てはめてストーリーを考えると……ある程度発展している都市が幾つも重なるような円ってことかなって。ちょっと待ってね、今描いてみようか……」
そして、コンパスを持つ前に定規とペンを持って地図の前に立つ太地。
「まずは犯行予告の時刻だ。えっと……最初が7:12で次が7:42か」
予告の時刻の短針の方向に向かって円の中心、つまり東京から線を引く。同様に7本の放射線をひいた後、過去の円と円の距離感を参考に一つの円を描く。
「この円で概ね合っていると思うんだけど、みんなはどう思う?」
そう問いかけて、それぞれの放射線と円とが交差するポイントに赤ペンで丸を書いて印をつける。
07:12 伊東市
07:42 三島市もしくは沼津市
08:56 甲府市
10:44 前橋市
12:16 宇都宮市
13:21 水戸市
14:54 銚子市
「……と、まぁ、こんな感じかな。もう少し検討の余地はありそうだけどね」
と、言って振り返って皆の反応を見る。
「「「……完璧だ」」」
「え?」
「太地さん、本当に完璧過ぎてちょっと怖いですわ……」
「六条太地様……不肖ながら、わたくし爺やも思わず感動いたしました」
『爺や……ずっとここにいたのかよ』




