第92話 驚愕の犯行予告
12月15日 13:30―― GSDファシリティstella
帰還したシーカーたちは探索課の執務室で休息をとっていた。
意外にも権田成美がグッタリしている。今回はサポートではなく、他のシーカーたちと共に戦ったのだ。思った以上に心身の疲労が大きかったのだろう。
――ガチャ。
扉をあけてこちらへ向かってくる独特の足音。小松部長と宝生町子だ。
「よ〜し、お前ら注目。そのままのグダグダな姿勢で構わないから聞いてくれ」
「「「はぁい」」」
グダグダな返事が返ってきた。
「宝生、説明よろしく」
「承知しました……先ほど司令室へ行って不破総司令に報告してきました。結論から言いますと、本日の19:09に予告されているテロへの対策に探索課は参加しなくてよいとのお達しがありました」
「「「えぇ!」」」
「いや……それって、爆破してくださいってことですか?」
高杉が普通の反応で質問する。
「いえ、機動課が阻止するそうです」
『あのポンコツ部隊がどうやって阻止すんだ? しかも次の相手はこの流れだと赤の八番隊だぜ? もしかしたら複数部隊の可能性だってあるんだぜ』
「はい。しかし、獅子王部長が一切引かず、我々もどうしようもなくて」
「おっさんも必死なんだわ。お前らが大活躍で死傷者を最小限に抑えたからな。軽井沢で爆破すら回避できたのは出来過ぎだけどな。
それ知って、獅子王のおっさんもいよいよ焦ってきたんじゃねぇか」
太地たちにはコントロールできないところでの話だ。指示に従うしかなかった。一応本部で待機とのことで、全員が引き続き休憩することになった。
そして時間が経過し、予想通り爆発が起こる。
「19:09 河津町役場で爆発がありました! しかし死傷者ゼロです!」
司令室より連絡を受けて状況を知る太地たち。どうやら静岡県賀茂郡の河津町役場の建物だけが爆破されたようだ。職員は午後五時には帰宅していたようで、人的な被害はなかったようだが、奇妙な報告が入った。
「爆破された役場敷地内にNFNFローダーが一人もいなかったそうです」
「爆破しただけ? これまで必ずローダーを待機させていたのに? 何故……」
太地には大きく引っかかる事だった。あの宍土が意味なく何かをすることは無い。必ず「ローダーがいなかったこと」にも理由があるはずだ。
「こりゃぁ、獅子王のおっさんはキレているだろうなぁ……スカされた感じだな」
「多分、トバッチリが小松部長にくるでしょうね」
「高杉、要らんフラグを立てるな」
何かがスッキリしないまま、太地たちは帰宅した。
* * *
NFNFのアジトでは宍土将臣が15日に実行した三箇所の爆破テロに関する報告を受けていた。
「……そうか。軽井沢での爆破が失敗に終わったか。」
「はい。更には矢板市では爆破には成功したものの、死者が出なかったようです。職員が出勤しなかったというわけではなく、GSDに襲撃を阻止されたと斥候部隊から報告を受けております」
「やはり赤鬼十番隊、九番隊が一蹴されたか……」
「はい。総帥のおっしゃる通りの展開になりました」
「望んではいなかったがな……まぁ、それも悪くないだろう。次こそが我々NFNFにとって最初の一撃となる。GSDの連中がそれに気づいたとしても、対処はできまい」
「では明日、予定通り犯行予告をメディアに?」
「もちろんだ。全てが想定の範囲内だ。このまま進めろ」
「御意!」
* * *
12月16日 8:00――
早朝トレーニングを終えて、太地はダイニングで朝食を摂っていた。久々に早紀子と一緒に特製グラノーラを食べていた。
「太地さぁ、体つきが大分変わったわね。いつの間にかソフトマッチョみたいになってるわ。やるねぇ!」
「うん。それはもう、ハードなトレーニングをしていますから。毎日ね」
「それはGSDの仕事で? それとも女の子にモテるため?」
「残念ながらGSDの仕事のためです」
「あっそ。つまんない」
グラノーラを食べてバナナに手を伸ばす太地。早紀子はバナナが嫌いなため、太地のために買っている。皮を剝いてムシャムシャ食べているマッチョ化しつつある息子を見て、そのうちゴリラにでもなりそうだと心配になる。
「どうでもいいけどさぁ、筋肉ムッキムキのボディービルダーみたいになるのだけはやめてよね⁈ 」
「……いや、それは大丈夫だよ。動きが遅くなるからそれは求めていないし」
「なら安心。じゃぁ、母さん先に仕事に行くから食器とか適当においといて」
「はーい。いってらっしゃい」
『おい、太地。テレビ付けていいか? 目覚まし過ぎテレビの今日のワン公を……』
「はいはいどうぞ」
六太が嬉しそうにテレビをつけてチャンネルをかえる。
『太地は今日どうする予定なんだ?』
「権田支部に行ってトレーニングだね……なんか周りのシーカーの先輩や成美先輩が急激に成長している感じがして、ちょっと焦りも出てきたよ」
『イヤイヤ、お前も十分にステータス上がってると思うぞ。あいつらのステータスは上がっているわけではなく、スキルに頼った一撃を放っているだけだからな。あのバカポメの回復薬がなければすぐガス欠だ』
少し考えてから太地が月人に打ち明ける。
「要はそういう必殺技みたいなものが僕にも必要になってきそうだと思っている。本当は月人の存在自体がそうなるはずなんだけど、今GSDでは月人と僕はそれぞれ一人のローダーとして扱われているでしょ?」
『まぁ、小松のおっさんはそう考えて作戦たててはいるよな』
「そうなると、常に月人のそばで戦えるという保証はなくってさ。実際、昨日もそうだったしね。 そこで心配になるのが、次のNFNFの実力が今の僕とどれくらい差があるかってことだ」
「昨日の副隊長はトンボがやっつけたんだったな」
残念そうに頷く太地。部下のローダーを倒したことは自信にはなるが、渾身の一撃をかわされたこともまた事実だ。圧倒的な勝利ではなく、徐々に実力が近づきつつある。そう思わせる昨日の戦いだった。
『次までに何か習得する必要があるって思っているんだな』
「そうだね……何か考えようと思う。このままじゃまずい」
真剣な話をしている中、六太が満足そうに太地にリモコンを渡す。
『今日のパグはやばかったわ〜。オイラもそろそろ出演するべきかもなぁ』
そして、何気にチャンネルを変えた報道番組で、またしても犯行予告の動画が流されたのだった。
《政府諸君、我々の進撃をここまで防いだことは称賛に値する。
しかし誠に残念ながら、諸君の活躍もどうやらここまでのようだ。
関東大一揆は、いよいよ御土居を攻め落とす。
12月23日 07:12、07:42、08:56、10:44、12:16、13:21、14:54
この世の無慈悲な愚民共に惨き制裁を! 》
黒般若の映像が途切れる。
「「な、なんだと!!!」」
「七回もの爆破テロだなんて……防ぎようが無い」




