第81話 謎の液体M
その頃、小学校のグラウンドでは三人の伍長の正面に片瀬片奈と月人が対峙していた。ローダーの強さが【般若】の能面に反映されている。つまり鬼になった証だ。
「我が名は白鬼一番隊伍長の沖田だ」
「同じく二番隊伍長の永倉だ」
「同じく三番隊伍長の斎藤だ」
「……GSDの片瀬と月人」
『一緒にまとめんのかよ! 紹介雑だな!』
周囲を平兵士が囲んでいる。【橋姫】の能面をつけたローダーだ。つまり、間違いなく平兵士ですら弱くない。周囲には全滅した機動課のローダーたちが倒れている。NFNFのローダーも半数がやられているようだ。自爆攻撃の痕跡も何箇所か残っていることから、NFNF側も少なくない被害が出ているのだろう。
それは同時にNFNFの今回の部隊がGSD機動課よりも強いことを証明していた。まだザッと見た限り、六十人ほど残っている。
「月人、作戦変更。私三番隊伍長を先にやるわ。あなた二番隊伍長をお願い」
『いいぜ。任せろ。その後は臨機応変に自爆攻撃の餌食にならないようにだな』
「えぇ。それでいきましょう」
話はまとまった。同時に一番隊伍長の沖田が号令をかける。
「GSDのゴミを殺せ!」
周辺のローダーたちが一斉に片瀬片奈と月人に襲い掛かる。
しかし次の瞬間、月人は二番隊伍長永倉の腹に穴を開けるほどの一撃を食らわせていた。
「ガフッ! な、なんだ……と……」
崩れ落ちる伍長、そしてその反対側で片奈が三番隊伍長斎藤に斬りかかる。斎藤は片瀬の太刀を受けきり、反撃の一撃を繰り出す。しかしそれは大きく外れる。
目の前にいた片奈が消えたのだ。
ズバ!
斎藤の影から出てきた片瀬の一撃を直撃する斎藤。
「クソ……背中から切りかかるとは……卑怯……だぞ……」
もう一太刀喰らわせて、片瀬が言い返す。
「だから、テロ攻撃なんて卑怯なことしているあなたたちがそれを言うな」
そしてそのまま一番隊伍長沖田に斬りかかる片瀬。勢いのある一撃を簡単にいなして片瀬に蹴りを喰らわせる。喰らった衝撃が大きく、一旦バックステップで距離をおく片瀬。
その片瀬に数人の橋姫能面のローダーが襲い掛かるが、なんとか全てをかわしながら応戦する片瀬。
「政府のゴミはここで燃え死ね! この世の無慈悲な愚民共に惨き制裁を!」
三人のローダー同時の自爆攻撃!
すでに二十人以上のローダーを制圧していた月人が片瀬の行方を見失う。
「おい、片奈! どこだ⁈」
まさか……爆撃を食らったのか……
次の瞬間、片瀬が沖田の影から飛び出して太刀を入れようとするが、またしても沖田はこれを交わす。
片瀬は自爆攻撃の瞬間、自身の影から沖田の影に移動して自爆攻撃から逃れると同時に攻撃も仕掛けたのだが、それを読んでいたのか沖田は完璧にかわした。
間合いをとって落ち着こうとする片瀬だったが、沖田の波状攻撃を食らってしまう。
(くっ! こ、こいつ……強い)
押される片瀬を前にして、一切フォローに行かない月人。それもあって橋姫ローダーの数は残りわずかとなっていた。
「お前たちGSDはここで大人しく散れ! 総帥の邪魔はさせぬぞ!」
徐々に切り傷が増えていく片瀬。それでも助けに行かない月人が大声で叫ぶ。
『片奈! 昼間にだって「闇」の活用方法があるだろ! それにもっと頭捻って攻めろ! お前の攻撃は愚直すぎるぞ』
(……昼間の闇? 愚直すぎる? わからない。月人の言っている意味がわからないわ)
「お前の影移動の攻撃なんか、来るとわかれば怖くないわ! 死ね!」
(そうか!! 来るとわかる攻撃!)
最後の一撃とばかりに大振りになった沖田の太刀をギリギリかわして影移動に入った片瀬。
「馬鹿め! これで最後だ!」
沖田が身をねじって自身の影に向かって斬りかかる。 が、片瀬は出てこない。
「何! なぜ出てこな――」
ズバ!
片瀬が付近に倒れた機動課ローダーたちの重なった部分にできた影から勢いよく飛び出して一閃! 沖田の胴体をブッタ斬る。
「そんな……バカな……」
『片奈! やるじゃねーか!』
全ての橋姫を片付けた月人が笑顔で歩み寄る。
「月人さぁ、もう少しはっきりアドバイスしてよ!」
『いやいや、相手にバレちまうだろ 』
死んだら終わりなのにと呆れてしまう片瀬だが、嬉しそうでもある。また一歩先に進める手応えを掴んだようだ。
そして、高杉がミニマルジェットから降りてきた。すでに小松部長とも連絡して、救援課と機動課の応援部隊が10分後に到着するとのことだった。
そこへトンボがヘロヘロになりながら近づいていくる。
「いやぁ、ちょっと疲れたっスよ〜」
「私も流石に疲れたわ……」
「あれ! 片奈さん切られてるじゃないっスか! 今回のローダー相当強かったってことか……」
「うん……正直言って、これまでと全然違ったわ……」
黙り込む片瀬に月人が笑顔で励ます。
『おい片奈! 落ち込んでる場合じゃないぞ! 今度スキルも剣技も特訓するぞ!』
「それいいね! お願いするわ! もっと強くならないと……次は負ける気がする」
「それぞれがレベルアップする必要があるってことだね。僕も考えないと。今回上から見てたけど……あの白鬼レベルの橋姫が大量に襲ってきたら勝てる気がしないわぁ」
高杉の正直な感想に頷くトンボ。そこへ太地が笑顔でやって来る。
「みなさん! 無事だったんですね!」
「太地。子供達は無事っスか?」
頷いて説明する太地。子供達を安全な場所まで送って、ここへ戻ってきたようだ。
ヘロヘロになっている高杉と片瀬に六太がペタペタ歩いて近寄る。Mサイズリュックから怪しいドリンクを2本取り出して差し出す。
『オイラの特性ドリンク、【リポメタンM】をそうちゃんと片奈にやるよ。元気でるぞ。トンボの分は足りないわ。すまねぇ』
(出た! 怪しい液体……)
それは太地と月人にとっては鮮烈に残るデジャヴだった。そして天月千鶴はその怪しい液で元気になったという実証データがあるだけに否定できないでいる。
「むっちゃん、これ……何?」
高杉がかなり怪しんでいる。しかしこれこそが正常なリアクションだ。
『オイラの特性ドリンク、【リポメタンM】だって言ってるじゃねーか。元気でるぞ!』
「そ、そうなんだ……ありがとう。あとで飲むね」
『馬鹿! 今飲むから効果あるんだよ!』
「高杉さん飲むっスよ!」
そんなやりとりに構うことなく、片瀬片奈は蓋を回して開けて、ゴクゴクと飲んだ。あの怪しい液体を。 唾を飲み込んで見守る太地と月人。いや、むしろ何かすごいことを期待しているようにも見える。
「え? 片瀬さん飲んだの!」
「えぇ……何これ……力が湧き上がってきたわ」
「マジで!」
ビックリする高杉、そしてニヤッと笑う太地と月人と六太だった。




