第79話 12:26の標的
12月7日 10:30――
権田支部の臨時ローダーが諏訪市に到着し、NFNFローダーを連行する。
「ここは権田支部にお任せ頂いて大丈夫ですわ。高杉さんたちは次の対策もあるでしょうから」
「権田さん、ありがとう。お言葉に甘えて、僕らは先に本部へ帰還します」
「SOY’S FACTORY <我がものづくり>」
高杉のミニマルジェットに乗って太地たちは一旦GSD本部へ向かった。そして移動中に小松部長と話を進めることに。次のテロまで時間がない。
「お前ら、よくやった! これは大手柄だ! 本当は手放しで喜びたいところだが、次の対策を練る必要がある。新しい情報があれば教えてくれ」
「部長。正直言って、次のテロに関する手がかりは僕らも掴めていません。
諏訪市の件で頭がいっぱいでその先のことを見据える余裕はありませんでした。すみません」
だろうなというリアクションで小松部長も納得する。
「……太地、簡単に今の状況を整理してお前の考えをアウトプットしてくれ。結論が出ていなくていいから」
「はい。そうですね……ここまでの展開だと、特になんの繋がりもなく、しかも関東圏ではないその外側の地域がテロ被害に遭っていて……
単なる感ですが、次も東京やその周辺地域である可能性は低そうな気がします」
太地は一旦呼吸を整える。
「今日三カ所で起こるテロは何らかの関連性があるはずです。そこから想像すると藤枝市、諏訪市と同じくくりといいますか……近しい存在の地域が狙われるのではないかと思っています」
全員が静かに太地の話を聞いている。
「次に、ここまでの流れを都道府県別でまとめてみると、福島県、長野県、静岡県、長野県、という順序です。もしこのルールで考えるなら次は……」
「福島県ってことか⁈」
全員がハッとした表情になるが、そこは太地が冷静に釘を刺す。
「いや、待ってください。これはあくまである観点から推察すると、そうとも解釈できるというだけのことです。全く確信があるわけでも証拠があるわけでもありませんから」
「確かにそうだが、一考する価値はありそうだ」
小松部長のリアクションから、藁をも掴む思いでいるのが太地にも伝わってきた。
「ここからが僕個人の考えですが……」
前置きした上で太地が意見を述べる。
「おそらく、次の狙いは福島県か、北関東北部じゃないかと僕は考えています。根拠はありません。仮にそうだとして、そこへ探索課を出動させるとなると、東京の片瀬さんたちの部隊を今から向かわせるしかありません」
「高杉さんと天月さんは、ここまで獅子奮迅の活躍で、かなり疲労困憊でして次のテロへは参加不可能です。僕と六太はまだできる感じで、月人は何の問題もなく戦えるという状況です。
しかし、僕らが東京に戻ってそこから移動しても間に合いません。高杉さんのスキルを使えませんから。そこで、僕らは東京のGSD本部で守備にまわるのはどうかと」
太地は更に続ける。
「もしくは、我々は東京へ戻らず、もう一度御殿場に向かい、東京の部隊はそのまま待機という考えもありかと思います。正直、次のテロの場所がまた海側で起こる可能性も十分にあって、前者の作戦で進めて、万が一海側でテロが起こった場合、ほとんど対応できません。東北側に戦力を集中させていますから」
小松部長が頷きながら補足する。
「仮に探索課が西側に目を光らせた状態で、結果的に東北側でテロが起こったとしても、片瀬たちを急ぎで向かわせれば何とかなるか……」
まるで自分に言い聞かせるように小松部長が考えをまとめていく。そして高杉が口を挟む。
「部長、こういう展開はどうでしょうか? 太地君が言う海側を想定して探索課は待機するという前提ですが、僕らはやはり今から東京のGSD本部へ戻る。そして仮に東北だろうと海側だろうとテロが起こった場所へ僕が爆速で連れていく。
しかし、戦闘では僕は役に立ちませんから後方待機する。流石に戦う体力はありませんから」
「高杉、本当にそれでいけそうか?」
「大丈夫ですよ。それは小松部長が一番わかっているじゃないですか」
フッと笑って、小松部長が判断を下す。
「よし! お前ら一旦東京へ戻ってこい!」
「「「了解!」」」
* * *
12月7日 11:15―― GSD ファシリティ stella
探索課が集まった。天月と高杉は別室で休憩している。二人とも心身ともに疲れている。小松部長が改めて状況を整理する。
「12:26にどこかでテロが起こる。もう爆破テロであると断定していいだろう。我々探索課としての対策はさっきも話したが、爆破されてから爆速で動くって感じだ」
シーカー全員が頷く。
「そこで、敵の戦力を想定したいと思う。月人、今回の戦闘から感じたお前の意見を聞かせてくれないか」
「あぁ、そうだな。話すべきことが幾つかあるぜ」
月人はこれまでのNFNFの戦いと今日起こったテロでの戦いとで、レベルが全く違うことを指摘した。以前は烏合の衆だった般若が、戦略的に攻めてきたこと。下っ端の【増女】般若が自爆攻撃を集団で仕掛けてきたこと。更には白般若とはいえ、四番隊、五番隊、六番隊の伍長は段違いに強かったことなど。
「次のテロは白鬼一番隊、二番隊、三番隊が出てくるはずだ。こいつらは更に強いという事になる。片奈でも一番隊の伍長は手こずるかもしれねぇ」
「マジで? そんなに強いの? ワクワクしてきたわ」
片奈がニヤついている。
「で、俺が問題だと思うのは機動課や公安及び自衛隊のレベルがどれほどかってところだな。多分、銃とか効かねーぞ」
小松部長が渋い顔をする。
「機動課は強くねぇよ。獅子王部長くらいだ。数で制圧できればいいんだがなぁ」
「いやぁ、スキル持ちだぜ。六番隊伍長ですら、空に浮いてたぞ。一番隊の四人の部下も相当やると思うけどな。奴らの能面、つまりエンドサーフェイスも【般若】レベルだろうしな。冗談抜きで全滅も十分にありえるぜ」
「まぁ、敵の情報は全て司令室にも報告している。つまり機動課にも伝わっているはずだ。あのおっさんが簡単に死ぬとは思えねーからとりあえず信じてみるわ。ただ、シーカーに何かあるってのは看過できねぇ事態だ。悪いが月人と太地には参加してもらって片瀬のフォローを頼みたい」
「もちろんです。僕らはそのつもりですよ」
『あぁ、片奈のスキルも面白えからな! 一緒に行くぜ』
「俺もいるっスよ!」
トンボが不満そうに自身をアピールする。そこにペタペタとテーブルをゆっくり歩いて来る六太。トンボの肩をポンポンと叩いて笑顔で話す。
『オイラがいるじゃねーか! トンボ! 虫と犬で伝説つくろうぜ!』
そうして会議は終わった。
* * *
12:30――
小松部長のもとへ一報が入る。
「栃木県、那須町役場が爆破された」




