第73話 ポメラニアイドルの実力
六太がドヤ顔でこっちを見ている。
『おほん! 三日月人君、この手を離してオイラを解放したまえ』
なんとも言えない悔しさと驚きで混乱する月人はとりあえず六太をミーティングテーブルにゆっくり下ろした。
『……ったく。これだから野蛮アイドルは困るぜ』
『くっ……どういうことだ?……まさかマジで回復したのか?』
六太がものすごいドヤ顔で、しかもいつもの2倍の大きさの顔になっている。
それを意識してシカトする太地たちは千鶴のところへ集まる。
「なんていうか……目の中にあった重苦しい圧力のようなものが無くなってスッキリした感覚だわ……むっちゃん、あなたって一体何者なの?」
『ふっ、オイラはただの黒ポメラニアイドルさ。ただちょっとそこら辺のポメたちよりもイケポメなだけよ』
茶色のカウボーイハットにポンチョをかぶってオモチャの銃を腰のベルトに引っ掛けている。どうやらウエスタンな雰囲気を演出したいらしい。
『じゃあな、千鶴。ポ目薬は用法用量をちゃんと守って使うんだぞ。オイラはそろそろ寝る』
そう言って犬小屋に帰っていった。
「なんだったんだ? 六太ってそんなことできるの?」
『おい、千鶴。本当に目はなんともないのか?』
月人はまだ信じられない。
「えぇ、使用前と比べたら……かなり良くなったみたい。信じられないわ……」
「六太さんから受け取った怪しい液体をなんの迷いもなく点眼する天月さんの行動にも驚きですわ」
「天月さん、さっき六太が言っていた用法って、その入れ物に書かれているんですか?」
天月がポ目薬の容器を確認して、驚きの表情をみせる。
「……『ポ』って書いてあるわ」
「「「……」」」
なぜかそのまま六太は犬小屋から出てこなかった。
その後、天月はGSD本部に用事があるとのことでGGラインで向かった。
「そう言えば太地さん、大きなチェーンの首輪、別のものにしてはいかがですわ?」
成美の進言で大事なことを思い出す太地。
「そうなんですよ! これをレザーに変えたいなって思っていて。これのおかげで首輪って言われるし、ものすごくダサいし」
「では一緒に外へ買い出しに行くのですわ!」
「「え? 今から?」」
* * *
そして定番の胴長リムジンに乗っている太地と月人、更にクルミと爺やもセットだ。
「どんなレザーがよろしいのですわ?」
「特に要望はないので、お店で見て決めようかなと思っていました。成美先輩どこかお勧めのお店があればそこへ向かってください。」
「了解ですわ! 爺や、青川区表参道のあのお店へ」
「承知しました。お嬢様」
「太地! 六太と遊びたいのですわ」
クルミが六太をご所望だ。笑って六太を呼び出す太地。
「六太! 出てきて」
エンドサーフェイスからゆっくり出てくる六太。
『しようがねぇなぁ。オイラは寝てたんだぞ。全く……これで貸し6だからな!』
(貸しって何? いつの間に6つも? いや君は僕のアイドルでしょ……)
しぶしぶ出てきたが、クルミと楽しそうに遊んでいる六太。
『さっきのあの薬、なんだったんだろうな?』
「六太が作ったんでしょ? すごいよね」
「すごいというレベルではありませんわ! 回復薬を作れるならかなりの戦力ですわ」
三人が疑いの目で六太を見ている。そんな六太は今クルミとあっち向いてホイに夢中だ。
『おい、クルミ! これじゃぁ、オイラ絶対にパーしか出せないだろ。勝てね〜よ。オイラの脚見てみろよ』
「だからいいのですわ! クルミは負けたくないのですわ」
『いやいや、それ面白くないだろ! そうだ。これやろうぜ! オイラが作った黒ポメ危機六発っていうゲームだ。 この穴の中に骨を刺していって……』
『おい、あいつゲームまで作ってるぞ。 太地のいらないところを吸収したな』
「要らないところって言うなよ。素晴らしい技能だろ」
「犬がやるには素晴らしすぎて逆にドン引きですわ」
六太に関してはまだまだ謎が多いが、本当にローダーに有効なものを作ってくれるなら大きな戦力だ。太地は焦らずゆっくり見守ることにした。
「お嬢様、到着しました」
権田令嬢御用達のお店で太地は首輪候補を探した。そして月人と成美オススメのレザー素材のものを購入し、それに雫型のエンドサーフェイスを取り付けて、立派なネックレスに生まれ変わった。
「いいですね! かっこよくなった。やっとあの鎖の首輪生活からおさらばだ」
「太地さんにとても似合っていますわ!」
「ありがとうございます! 」
『これでいじれなくなったか。ちょっとつまんねーな』
「いや、いじらなくていいって」
その後、家まではトレーニングを兼ねて走って帰ることに。もはや走るというより、飛ぶと表現した方が正しいように思えほどにビルからビルへジャンプして移動している。
『大分、possession type “leg”も扱えるようになってきたな』
「そうだね。ストレスなく自由に移動できるよ。蹴り攻撃もね」
移動しながら話す二人。太地がふと疑問をぶつける。
「これさ、部分的に憑依している時って、月人の身体はどうなっているんだっけ? 例えば腕を借りている時は月人は腕を使えないわけ?」
『いや、俺も腕使えるぞ。その分太地が2倍しんどいってことだな。脚でも同じことだな』
「なるほど。だからpossession 使った後は結構疲れるわけだ。疲労感にはもう慣れたけど……ん? てことは同時に手脚両方をpossessionすることも理論上できるってことだね」
『できるぜ。なんせ全身憑依できるんだからな。もちろん疲労感はヤベェぞ』
「……じゃぁさ、月人の身体も維持しつつ、全身憑依することもできるってこと?」
『いや、それは不可能だ。セカンドブレイン、つまり脳みそはどちらか一方のみだ』
「なるほど」
渋谷駅を通過して更にダッシュする太地。スピードが尋常ではない。
「じゃあ、単純な質問だけど、全身憑依するメリットって何かな?」
太地の意図は、possession type all <全身憑依>で一人の最強人間になることと、手脚をpossessionしてた月人と二人で戦うのとでは、二人の方が強そうだということだ。
『possession type all の一番のメリットはステータスが大幅に増えるってことだな。今の太地だと、単純に説明するなら俺たちそれぞれのステータスを足してその1.5倍くらいにしたものと考えていいと思うぜ。つまり、数では当然負けるが、ステータスは大幅にアップするってことだ。』
「なるほど……最強の戦士になれるのか。敵が強ければそうすればいいね」
月人には太地が色々と覚悟を決めたように感じだ。
『だったらよ。今から家に帰るまでの間、練習してみるか?』




