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Bloody Code  作者: 大森六
第二章 東京都区別対抗学戦祭編

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第7話 初めての学校

 東京都青川(あおかわ)区立第三高校は通称で「青三高」と呼ばれている。

 太地が通っている都内の高校だ。


「久々の登校でちょっと緊張するなぁ」


『俺はかなり楽しみにしてぜ!

 学校って場所がどんなところか実際に見てみたいしさ』


 2057年9月1日、()()()()月人つきとにとっては全てが「初めて」となる。貴重なスクールライフのスタートとなる日だった。セカンドブレインによる膨大な知識に対して、()()()を通して答え合わせができると月人は考えているのだろう。


「そっかぁ。月人にとっては全てが初めての体験か……」


 急いで歩く太地たいち。角を曲がって校門が見えそうなところまで来た。


月人つきと、そろそろリングに戻って。万が一バレたらやばいし!」


『そうだな。最初だし中に入るか』


 月人がフワッと消えるようにエンドサーフェイスに入る。



 校門を抜けて二年二組の教室へ。青三高はそれほど大きな規模の高校ではない。

 一学年で四クラス程度だ。




 キーンコーン、カーンコーン……


 学校のチャイムが鳴り響く。


(やばい〜)


 ギリギリ教室へ滑り込んで遅刻はなんとか逃れた。


「ふ〜危なかった〜」


 太地は教室最後列の窓側の自分の席に座る。


 そして落ち着く間もなく、ボワっと月人が出てくる。


(おいおい!出てくるのかよ!やばいって!)


『ロード』という掛け声でアイドルを呼び出す形式を変えた太地。

 それは月人の判断で動いてもらったほうがいいと考えたからだ。


(いきなり後悔だよ!)


 声に出せないあせる太地をよそに余裕の表情でふわふわ浮いている月人。


『大丈夫だって。この中にローダーはいね〜よ。』


 月人は太地の左肩に座って足を組む。太地の頭はちょっと低めの()()()だ。


 誰も月人の偉そうな態度に気がついていない。



「太地おはよう!ギリギリじゃん」


 同級生の片桐慶太かたぎりけいたが話しかける。


「おはよ~。遅刻しそうで焦ったわ〜」


「まぁ、いつもの太地たいちだけどな」


 慶太は高校からの友人だ。一年と半年の付き合いだが太地にとってそれなりに心地よく接することができる数少ない存在の一人である。



 ガラガラ!



「席について〜。授業始めるぞ〜」


 扉を開けながらしゃべり始める先生。休み明けだろうと関係ない。いつもの口調、いつもの授業の始まり方……これが日常だった。


 周囲はすでに普段の生活に戻っている。太地だけが()()()()への一歩を踏み出しているのだ。


(悪くない感覚だな……これからが楽しみだ)



 * * *


 キーンコーン、カーンコーン……


 昼休みのチャイムだ。


 購買部へパンを買いに行く生徒と食堂へ行く生徒が一斉いっせいに走り出す。太地はゆっくりと階段室を上がって屋上へ向かう。夏は日差しが厳しい。とはいえ、塔屋とうやの扉上部にある小さなひさしがほんの少し影をつくってくれていることを太地は知っているのだ。


『お前こんな夏の暑い日も外で食べたいわけ?』


 月人の真っ当な問いに太地は笑顔で答える。


「暑いけど気持ちいいから!」


 早紀子さきこ特製弁当を出しながら嬉しそうに話す太地。


「そして暑いほど誰もいないから最高なんだよ!」


『……あぁ、だから太地には友達がいないんだな……』


 グサッと何かが胸に刺さる感覚。図星というやつだ。

 そしてその感情の変化も月人には見抜かれている。


「おいおい!ちゃんといるって」


『ハイハイ。きっといるよ。物好きがね』


 箸でコロッケを綺麗に二分割。お米と一緒にコロッケを頰張ほおばる。

 コロッケの量が2倍に感じる。


(お米とは偉大だ……)


 満足そうに食べている太地を見ながら月人が口を開く。


『この青三高にはローダーはいなそうだな。』


「はんへははふほ? (なんでわかるの?)」


『俺がすごいからだ』


「……」


『いや、冗談とかじゃなくてだな……』


 モグモグと聞こえてきそうな咀嚼そしゃくを終えて、ゴクンと飲み込む。


 お茶を飲み終えた太地。


「いやでも、アイドルがロードさている状態となって初めて認識できるわけでしょ? エンドサーフェイスに取り込まれた状態なら判断できないんじゃないの?」


『普通はそうだな。でも俺は特殊なアイドルなんだよ。なんというか、アイドルそのものの能力が高いって表現するのが正しいかな。もちろん、太地のBloody Codeのおかげでもあるわけだが……まぁ、これに関しては後々説明するって』


「わかった。まだ知らないことばかりだな……少しずつ理解していかないとダメだね」


「あとさ……ずっと気になってたんだけど、月人は現実世界にロードして顕在化けんざいかされた状態の時に、どんなに頑張っても人や物に()()()ことはできないの?僕の身体カラダも当然ながらすり抜けているしね。何かをつかんだり投げたりとかできないのかなって」


 太地の周りを常にフワリと浮いていて、いつでも自由に姿を消せる。まるで幽霊のような存在だ。アイドルが単にエンドサーフェイスから投影された単なる映像とも考えにくい。


 シンプルな疑問を月人にぶつける太地。


『……そうだな。おそらく、できるようになる』


「えっ!本当に!できるようになるってことは、今は無理だけど将来できるってことだよね?」


『そうだな。それも太地の頑張り次第ってところかな。』


「ステータスアップする必要があるってこと?」


『それも勿論大切なことだが、ローダーとアイドルとのシンクロ率を上げることが重要だと思う』


「シンクロ率か……今は20%だったね」


『まぁ、数値の変化はその時の状況によって変わるけどな。シンクロ率は単純に考えるなら、ローダーとアイドルの意思共有の高さ、理解度みたいな指標って認識でいいと思う。その指標が高いということは俺たちお互いの感覚や意思が自然と伝わるってイメージかな』


 月人は更に説明を続ける。それはセカンドブレインの知識をフル活用して導いた回答であって、経験を元にした回答ではない。


「アイドルがローダー(人間)の感覚を共有するってこと。つまり物体に触れる感覚についても、アイドル自身の物体化に関する可能性もシンクロ率を高めることが重要だと思うぜ。太地の意識を通して実現できるはずだ。」


「すげ〜!そうなるように頑張るよ!」


 太地のモチベーションが更に高まる。そんな太地の感情を理解する月人。太地の表情から読み取るだけでなく、20%のシンクロ率から伝わる何かを感じて。




「ちなみにBloody Codeを持っている生徒がいるかどうかは今わかるの?」


 時間の経過と共に庇の影が逃げていく。強い日差しが太地のキラキラした表情を照らす。


『前も言ったが人間なら皆持ってるぜ。Bloody Code』


「そうなんだけどね。もうちょっと詳しく教えてくれない?」


 太地が何に興味を持っているか理解する月人。


『様々な種類があるんだよ。優劣ではないと俺は考えているけどな。

 わかりやすく言うと個性のようなものかな……AIがBloody Codeを読み解いて、その人間がもつ能力をアイドルへ共有するって感じ。例えば戦闘タイプの能力もあれば知性が秀でているタイプの能力もある。当然それらの能力値の大小もあるから素質という表現も正しいだろうな。きっと……』


「格好いいな〜! じゃぁ、僕のはどういうタイプなの?」


 前のめりになる太地。ひたいは汗でべドベとだ……


『近いって……暑いって(そこまで暑さ感じてないけどなんとなく)』


『太地のタイプかぁ……今の読み込んだ状態を表現するなら……』


 胸が高鳴る。これは新しいヒーロー誕生の予感が……



『弱すぎるオールマイティ』


「……」


 セミの音がよりはっきりと聞こえてくる……


「……よ、弱すぎって」


 お弁当を食べきって弁当箱の蓋をパチンと閉める太地。


「ごちそうさま!」


『あっ……逃げたな』 


 月人は一切フォローを入れない。


 その時太地は見ていなかったが、月人の表情は自信と期待が溢れる笑顔だった。


(他のローダーはその弱すぎる能力すら無いんだぜ……アイツらはこれからどれだけ努力したって無理なんだ。お前の境地に辿り着くのは……さらにお前の場合は「今は」まだ弱いんだ……)


 キーンコーンカーンコーン……


 ()()()()()屋上の昼休みが終わりを告げる。


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