第69話 支部の扱い
「え! 天月さんですわ!」
「ん? 御令嬢、何か不都合でもあるのか、ですわ?」
「何もありませんわ。か、構わないのですわ!」
明らかに動揺している成美。どうやら、天月千早と勘違いしているようだ。
「まぁ、臨機応変にって感じだな」
「ま、まずは状況の整理ですわ。犯行予告を信じるなら、次は7日。まだ時間はありますわ。爺や、お二人にGSDとの交渉の進捗状況の説明を!」
「はい。お嬢様。GSD本部の司令室より、正式にGSDの支部として活動する許可をすでにいただきました。これにより、GSDに敵対する武装集団やテロに対して、支部独断での武力制圧やその他軍事行動を許可されている状況です。その際、GSD探索課の司令という扱いで処理されるとのことです」
「あの不破のクソババめ……」
「また、支給された備品と人材に関しましては、GSD開発のエンドサーフェイスを50点、研究課より若干名ローダースタッフを派遣していただきました。探索課と繋がりが深い練馬志の輔様を中心とした人員でございます」
(なるほど。志の輔さんか。だとしたら武器を作れるかも。)
「また、BCデータに関しては特例で閲覧許可をいただきました。これに関しては直接研究課に伺ってのみ対応可、とのことでした」
「BCデータって、もしかしてGSDは高校生のBloody Codeの情報を知っているってことですか?」
「高校生だけじゃねーよ。全国民のBloody Codeを把握している。それがGSDだ」
小松部長によると、2019年に発生し、世界中を震撼させた感染症のワクチン摂取を促した際に、政府を通してGSDの前身となる不破総司令の組織が、秘密裏にBCデータの検査も行なっていたとのことだ。
それ以降は定期的に学校の健康診断や企業の健康診断などからデータを採取し、今日においてGSDは全国民の7割以上のBloody Codeのデータを保持する大きな組織となった。
つまりGSDは毎年有望なローダーの卵に当たりをつけておき、さらに第一高出身というライン設定をすることで、素質としてはほぼ間違いのない新人を入隊させていたということだ。
『つまり、そんな機密事項まで支部のお嬢に公開するってことは、徹底的にGSD内部のことも調べろって意味だろ?』
「その通りですわ。小松部長にも話しましたが、ワタクシはGSD内にスパイがいるという前提で調査しているのですわ。本来それが主な目的……しかし突然迫られる関東大一揆を無視して調査を進めるというのは難しいですわ」
「御令嬢、あんたの主張はわかった。俺は特に反論も無いし、今の立場を利用して自由に調べたらいいと思うぜ。 それは一旦置いとくぞ。今はNFNFの話をまとめるべきだ。人命がかかっているからな」
熱くなるお嬢に対し、小松部長が冷静に場をおさめる。
「まず、御令嬢の手元にあるエンドサーフェイスはどう使う予定なんだ? 使えるローダーはいるのか?」
「はっきり申し上げて、一からローダーを鍛える予定ですわ。
つまり、今回のテロにおける戦闘の局面では何の戦力にもなりませんわ。そこで、筋力を強化するスキルに特化したものをローダーの卵たちに装備させて、いざテロが始まって被害が出た場所へ向かう、臨時サポート部隊を担えればと考えていますわ。例えば救援課が救助する際の瓦礫の撤去や負傷者の救出補助などですわ」
小松部長が何度も頷く。
「いいじゃねぇか。しかも、今回の場所は三箇所。全ての場所に救援課が対応できるとは俺は思えねぇ。あらかじめ救援課の部隊と連携を取れるようにしておくといいかもな。なんせ、昨日の2回とは違って、今回は間違いなく負傷者が出る」
「了解しましたわ。ただ、流石に今回は間に合いませんわ。できることを考えますわ」
「おう。それでいいと思うぞ。今、不破のババアが政府のお偉いさんと対策会議を行っているところだが、おそらく何の進展もないだろう。公安や自衛隊は積極的に参加してこない。あの犯行予告では場所が特定できないからな。
かと言ってその時間、役所の人間を休ませろと迫っても拒否されるだろう。日本てのはそういう平和ボケ国家だからな」
「小松部長は日本以外の国で暮らしたことがあるんですか?」
太地が軽い興味で質問する。
「ん? あぁ、以前中国に住んでたぞ。実はお前の親父さんと出会ったのも中国だ」
「えぇ⁈ そうなんですね……中国かぁ……」
「話戻すが、太地はここ数日でなんとか予告文を解読しろ。月人もいるんだからなんとかなるだろ」
『無茶振りだな』
「頑張りますけど、皆さんもお願いしますよ。僕だけというのは、ちょっとプレッシャーがすごいです」
小松部長が笑う。そして次の話に入る。
「そんじゃあ次に調査課と研究課より得られた情報を伝えるぞ」
小松部長は九番隊の伍長が着けていた能面を取り出す。
「回収した白鬼の能面だ。こいつはNFNFで開発されたエンドサーフェイスだということがわかった」
「NFNFのエンドサーフェイス⁈ この能面が?」
「あぁ、何でもこの能面、ローダーのBloody Codeの質の変化で面の形状や色が変わるらしい」
「……般若へ変貌する女性の生き様と似ている……いや、そのものだ。鬼へと生まれ変わる、その糧となるものがまさに【怒り】だ」
『十番隊伍長が【泥眼】、九番隊伍長が【橋姫】だったな……NFNFにとっての政府への怒りと、能面般若の怒りとの重なりか……』
太地の言葉を月人の言葉が更に重みを持たせる。
「これってつまり、上位の伍長クラスはもっとやばいってことかな?」
『【真蛇】クラスが出てくるだろうな』
「そして色も更に変わっていくわけか……。じゃぁ、あの黒鬼般若は相当だね」
『そうだな』
「何言ってんだ? デイガンってなんだ? おい太地、わかんねーからちゃんと説明しろ」
太地は小松部長と成美に能面とNFNFに関する独自の解釈について話す。そしてここにもう一つの要素が加わることになる。
「あと……あの十番隊とか羽織とか伍長達の名前もね……」
「……【新撰組】へのオマージュか」




