第67話 橋姫
「長野県庁が爆破された。機動課は東北だ。そこからの移動は時間がかかる。そこで探索課で動くことになった! 遅れて調査課も動く! それまでに全てのテロリストを蹴散らしてこい!」
「了解!」
* * *
そして、シーカー四人が長野県庁に向かう。
「さっき高崎市辺りを通過したんだが……トンボ、ここから長野県庁付近の状況はわかるか?」
高杉がミニマルジェットを操縦しながら確認する。
「やってみるっス……」
目を閉じて集中する沢田トンボ。
「whisper of insects <友の囁き>」
トンボがブツブツ呟いている。まるで何かとコミュニケーションをとっているかのように。
(トンボさんのスキル the whisper of insects は範囲内にいる虫たちと会話できるらしいけど……未だに信じられない……)
「長野県庁前の駐車場に……五人いるって。 全員お面つけてるって言ってるっス。県庁と周囲の建物から大きな音がして煙が上がってるそうっス。多分爆破されたっスね。内部に人が残されているかどうかは分からないっス」
『全員⁈ 般若の能面か』
「了解!ありがとう。そうか、みんな能面つけているのか。結構前の白般若強かったと思うんだけどなぁ。全員あれ以上のレベルってことか……参ったな」
「問題ないわ。私が全部斬る」
片瀬片奈がやる気満々だ。
「とりあえず、今回も五人ってことはやはり彼らは五人組を意識しているな。伍長もいるだろう。その伍長を……月人。君にぶっ飛ばしてもらいたいんだけどいいかい?」
高杉が作戦を練り始める。月人はもちろん二つ返事でOKだ。
「できるだけ生け捕りだけど、奴らは自爆するから気をつけて。野次馬がいるかもなぁ……」
目立たないように戦うというのは無理がある。どうするべきか。
「よし、決めた。片瀬さんこのまま上空を飛ぶから片瀬さんと月人で五人をぶっ飛ばしてきて。 太地くんとトンボで周囲の逃げ遅れた人がいないかどうかを確認。絶対に無理はするなよ! 建物の中に入らなくても構わない。できる範囲でね」
「了解!」
「わかりました!」
「僕は全員落っことした後、更に周囲を警戒しておくよ。 五人ってちょっと少な過ぎるような気がしてね」
「特に月人と片瀬さんは細心の注意を払ってね。それぞれで分かれて戦わないように。バディ組んでいるイメージでお互い意識しあってほしい! あと生け捕りにこだわると前みたいに自爆があるから、そこは月人に任せよう」
「了解! 月人、その時はお願いするね」
『おう! 安心しろ』
「後は各自任務を終えたら戦闘に加わる。そんな感じで!」
「「「了解」」」
『そうちゃん! オイラは何をすればいい⁈』
六太が出てきた。やる気は満々みたいだ。
「むっちゃんは太地君について、生存者がいないか一緒に確認してほしい。もし、発見したら、まず二人に知らせるんだ」
『オッケー任せろ!』
そして長野県庁が目の前に……煙と炎で隠れているが、倒壊はしていないようだ。更に報告通り、駐車場に五人組が立ってこちらを見ている。
「……闇夜刀」
片瀬が呟くと同時に黒い日本刀が右手に現れる。彼女のディープアマゾナイトによって生み出された名刀だ。
「私、先に一番左の一人ヤルわ。月人右側の強そうなのからお願いね」
『OK!』
「じゃぁ、また後で! ……into the backrooms<黒子の世界>」
そういって、片瀬が闇の中へ消えていく……
『もう行ったのかよ! 太地も後でな! 気合入れとけよ! 結構動くから』
そう言い残して、月人も飛んでいく……
『あいつら、カッコよすぎだろ……オイラもあれやりてえなぁ』
「僕らは僕らで集中だ!」
一方地上では、NFNFの白般若が戦闘態勢を整えていた。
「こちらへ二名来るぞ。全員戦闘準備だ」
「「「は! ロード!」」」
五人全員が日本刀をロードする。見上げた上空から月人が突っ込んで来るのを確認して構えたその瞬間、一人の足元の影から突然片瀬片奈が現れて垂直方向に強烈な一太刀!
「グハァ!」
「なんだと! どういうことだ⁈ 」
動揺するNFNF、ニヤリと笑う片瀬。
「まずは一人、完了」
「くそ、不意打ちとは卑怯な! 下がって態勢を整えろ!」
伍長らしき白般若が指示を出したその時、月人が一瞬で伍長の懐に入る。
『よそ見してんじゃねーよ』
ドドン!
ボディに強烈な二連発。アームブロックしたが、吹っ飛ぶ伍長。呆然とする他の般若たちだったが、焦りながらも片瀬に狙いを定めて刀を振り抜く。
「クソッ、一人だけでもやるぞ!」
「死んで詫びろ政府の犬が!」
一斉に襲い掛かる白般若たちに一切動じない片瀬。白般若全ての太刀をかわす片瀬、まだ表情に余裕がある。
「あなた達じゃ私を殺すことなんてできないわ」
一方、月人はたたみかけずに伍長が立ち上がるのを待っている。
『俺はGSDの月人だ。お前、伍長だな。一応死ぬ前に聞くが、名乗る名前や主張はあるか?』
これは月人なりの誘いだ。次に繋がる情報がどうしてもほしい。
「……白鬼九番隊、伍長の三木だ。お前ら政府の犬どもを抹殺しにきた。覚悟しろ!」
「月人は能面に違いがあることに気付く。伍長の能面は【橋姫】の絵柄で、周りの部下は全て【泥眼】だ」
【泥眼】怒りが少しずつ沈殿し、女性という存在を超え始めた段階。つまり鬼になる最初の段階だ。
【橋姫】目から下が赤くなり、髪が乱れて女性の凄惨な復讐心が現れる段階。つまり、鬼になる2段階目。
『三木伍長、お前はワンランク上ってことだな。しかも引き連れている連中も面持ちか……』
「その通りだ! とくと味わうがいい! 白般若、橋姫となった我が身体上昇スキルの力を!」
そう言って、羽織を脱ぎ捨てて力を込める三木伍長。身体の筋肉か異常に盛り上がっていく。月人は距離をとって様子をみる。というよりも戦闘すら情報収集と考えているようだ。
『来いよ。どれくらいやれるか見てやるから』
「くっ、舐めるのも大概にしろ!」
勢いよく突進してくる三木伍長のタックルをかわす月人、その後の単調な攻撃全てを綺麗にかわして一発顔面に抑え気味のパンチをぶち込む。
「まだだ!」
踏ん張る三木伍長。ふと他の般若達の様子を見てみたが、すでに三人とも倒れていた。深い太刀を受けて気絶しているようだ。
「私、暗殺はあなたたちよりも得意なのよ」
『容赦ねぇな。元々そっちの仕事だったのか?』
「く、くそこの世の無慈悲な愚民共に惨き……」
『させねーよ。馬鹿野郎』
自爆しようとした三木伍長のこめかみに衝撃を加えて気絶させる月人。そして素早く自爆用の爆弾を取り除く。
「お〜い! 月人、片瀬さん、大丈夫か?」
高杉が遅れてやって来た。
「無事にテロリストを確保しました!」
「お疲れさん! なんというか……さすがだね。二人とも」
ニカッと笑う月人。そしてアナウンスが太地と月人の脳内に響く。
《シンクロ率30%、 スキル 【フリーハンド】 を獲得 》




