第63話 GSDに潜むスパイ
「「GSDにスパイだって⁈ 」」
ゆっくり頷く成美。
「不破総司令と二人でお話をしましたわ。ワタクシはGSD外部の存在というよりは権田財閥というGSDにとって最も信頼できる存在、そのようにご理解いただけましたの。 総司令には入隊の件だけでなく、権田財閥中心でGSDの特別支部を設立する提案を持ちかけましたわ。
交渉は難航すると思いましたが、意外にも総司令は即OKとおっしゃいましたの。総司令の意図がまさにソレですわ」
『総司令もすでに気付いているってことか……』
「……」
太地は状況を把握するため、まずは成美の話を聞くことにする。
「色祭りでの騒動で回収した三つのエンドサーフェイス、あれはGSDの技術を応用したものだったそうですわ。 GSD発足後、過去に永田町テロを始め、何度かNFNFの襲撃を受けましたわ。ただ、エンドサーフェイスを始め、技術が流出したことはなかったそうですわ」
『なのになぜか今回、奴らが技術を応用していたってわけか。襲撃時に回収されたわけではないなら……まぁ、何者かが手回しした可能性が高いということだな』
「不破総司令は……幹部の人間も含めて全隊員を警戒していますわ」
「幹部って、部長たちですか⁈ 」
戸惑う太地をみて頷くことしかできない。
「ただ、探索課はスパイではないと断言できるそうですわ。小松部長と総司令は旧知の仲と話していましたわ。そしてその小松部長自身が身元や当人の背景を徹底的に調べ上げた上で、今の探索課のメンバーを見つけだして立派なローダーに育てたらしいですわ。もちろん、司令室も改めて五人の隊員全ての過去を調べましたわ。完全に白でしたの。つまりスパイの息が掛かっていないと断定できた唯一の存在、それが探索課なのですわ」
「そういうことだったのか……。だから特別支部を探索課に。あの会議室での小松部長への適当な丸投げ感は見えない相手に悟られないための演技だったのか」
『だとしたら、スパイが複数いるとしても、主犯は研究課の羽生部長がもっとも怪しいじゃねーか……それこそ技術を盗みやすいぜ』
「同様に、機動課の獅子王部長だってエンドサーフェイスを持ち出しやすいポジションですわ。事務作業に追われている総務課が逆に怪しくも見えてきたり……今はわからないことだらけですわ」
「……いや、おそらく羽生部長は白だ。父さんが失踪する前に手紙を渡しているくらいに信用していたんだ。父さんが同じ研究者をスパイかどうか見抜けないとは考えにくいよ」
『確かにな。だとすると貴船か獅子王か、あの時いなかった調査部の部長か』
「もしくは僕たちが裏をかかれている可能性も捨てきれない 」
『そんなの千鶴のスキル使ったら一発解決だろ』
六太が飛び出しながらツッコミを入れる。目が点になる成美。それに気づいて成美の方へクルッとターンしてぺこりとお辞儀する六太。
『お初にお目にかかります、黒ポメラニアイドルの六太です。以後お見知りおきを』
「は、初めまして……ですわ」
呆れた顔をしながら月人が六太に聞き返す。
『千鶴って天月のことか? どんなスキルなんだ?』
『なんでも見えるらしいぜ。千里眼みたいに遠いところがみえたり、人の心の中もみえるらしいぜ。それが嫌だからいつも周りのことを気にしないようにグラサンかけてるってよ〜。ひどい時は目を開けないって言ってたぜ。ちなみに、そうちゃんがもうすぐ彼女と分かれそうだってことも当ててたぜ。』
「くだらないことに有能なスキルを使うんだな。探索課って普段何を探索しているんだろう……」
『いや、このバカラニアンがそうさせただけだろ』
「……なんですの。このムッタさんって?」
太地が事情を話して新しい相棒ができたことを伝える。状況に納得はしたが、出てきたモノに納得していない成美が六太をジロジロと眺めている。それに気づいた六太が成美にキュートなウインクをする。
「とても太地さんの相棒とは思えない……とんでんもないアイドルですわ」
『……ふっ、オイラのすごさに早くも気付いてしまったか、お嬢さん』
『いや、貶されてんだよ』
* * *
日が沈み、夜が始まる。
三人のスパイ探しの議論は一先ず終わらせることにした。そして太地は成美に確認する。
「成美先輩、ここの地下にはGSDと同じレベルの設備がすでに整っているんですよね? 地下階に。権田建設が秘密裏に準備したと僕は予想しているのですが」
トレーニングルームなどのスペースはないが、設備等はしっかりと整っていると答える成美。なんでそんなことまでわかるんだという疑問の顔になっている。
「成美先輩、ここの設備のことは他の誰にも伝えていませんよね?」
「えぇ、知っているのは不破総司令とあなた方二人だけですわ」
「でしたら、しばらくこの事は小松部長以外には伏せましょう。タイミングをみて部長をここへ呼び出しますので、その時に話しましょう」
「そうですわね。まずは私たちだけで特別支部を整えますわ! よろしくですわ! 太地支部長!」
「あの……支部長呼びはやめてください」
* * *
「ただいま〜!」
「おかえり〜。ご飯できてるよ〜」
早紀子特製きりたんぽ鍋の準備を終えたところだったようだ。
もうすっかり鍋の季節だ。
「ちょうどよかったわ。太地は何飲む?」
「炭酸水!」
冷蔵庫から取り出して、ダイニングテーブルの上にペットボトルごと置く。リビングと廊下には所狭しとダンボール箱が山積みになっている。色祭りの賞金で新たに炭酸水が加わったのだ。
「「「いただきます!」」」
『なんかすげーいい匂いだな〜』
六太もエンドサーフェイスから出てきた。
『きりたんぽってウメ〜な〜。要するに米だろ? 味が違う気がするな!』
「もちもちして美味しいよね」
『オイラこのスープが最高だわ〜。鶏ガラか? うまいぞ!』
二人の食卓だが実は四人というこの状況。とても賑やかだ。
プシュッ!
そしてハイボールの缶が開く。
「父さんがGSDで働いていたって前言ったでしょ?」
太地が早紀子にGSDの話をする。
「うん、言ってたね。研究していたんでしょ? どうしたの急に?」
「いや、なんかスパイがいるかもとか 、身の危険をGSD内で感じたりとか、それが理由で失踪したのかなって……」
「あの父さんが? う〜ん、どうだろうね……」
あまりその辺気になっていないような早紀子の返事。違うと感じているようだ。
「スパイがいるかどうかはわからないけど、危険から逃げるためにどっかに隠れるような人ではないね。あの人結構負けず嫌いだし、何かの危機に直面しても戦うことを選びそうじゃない? もちろん、私ら二人の身に危険が迫らないように、黙ってどっかいったと思うよ」
グイッと一缶目を飲み干す早紀子。そして鍋の中の鶏肉を探しながら、話を続ける。
「あと、スパイの存在とかすぐ気づきそうじゃない? 同じ部署にいたとしたらさ。父さんだったらね」
「確かにね……父さんが開発した技術がなぜかテロリストの武器に使用されていたんだ。それで今、GSD内でスパイを疑っていてね」
鶏肉を食べながら、早紀子も考える。
「その技術、父さん自身がテロリストに提供したとか?」
「え⁈ なんで? そんなわけないでしょ〜」
「そっか」
美味しそうに鶏肉を食べながらハイボールを飲む早紀子。この時太地の中に大きな疑念が浮かんでしまった。
「まさか……そんなわけ……ない……よな?」
『確かに……無くはないよな』
(父さんはNFNFにいるのか?)




