第55話 プロファイリング
「宍土将臣?」
頷く太地。
「そんな深い意味はなくて、ちょっと調べてみようと思っただけです。 あまり彼のことを知らなかったので」
「なるほどね。相変わらず真面目だね。でも時には気晴らしもしたほうがいいよ。あまりナーバスにならないようにね!」
葛城の言葉に癒される。確かに最近ずっと走り続けている気もするな。
「……今度カフェに行ってゆっくりしようかな」
ボソって太地が言ったその一言を聞き逃さない権田成美。
「いつ行くのですわ?」
「え?」
「カフェにいつ行くのですわ?」
「お嬢、ちょっと圧がやばいって」
「そうだぞ。カフェくらい一人でいかせてやったほうが……」
ギロリと鏡慎二を睨みつけるリーダー権田成美。目を逸らす鏡。
「成美ちゃん、それ一歩間違ったらストーカーやで」
「私も一緒に行くのですわ!」
「う〜ん、じゃぁ俺たちも行こうか!」
「そうしよ!」
『こいつら仲良すぎだろ』
(ハァ〜。これじゃぁ、楽しいかもしれないけど休まらないな。ハハハ)
* * *
メディアセンターの閲覧エリアに何冊か新聞や書籍を持ち込む。広いテーブルの端の席に座る太地。読まなくても月人に聞けば簡単に知りたいことがわかってしまうかもしれない。しかしできるだけそれは止めると自分に言い聞かせている。「面倒くさがらない」と約束したからだ。
『宍土将臣のことって言っても一般メディアに公開されている情報なんてお前も知ってるだろ?』
「いや、そこまで知らないよ。最近テロ事件なかったし。まぁ表沙汰になってないだけかもしれないけれど。どんな情報でもいいんだよ。もっと宍土の事を知るべきかなって。
なんていうか……プロファイリングとまではいかなくても、自分なりに宍土のことを理解すれば次の一手が見えてくるかと思って」
そして、太地はニュース記事の中から宍土の略歴が掲載されているのを見つける。
《2013年生まれ。2035年、東京第一大学を卒業後、大和農業技術開発研究所に入社。2年目でAI技術開発部の部長に就任。全日本未来農業組合の執行役員にも就任する》
「とんでもないエリートじゃないか!」
『そうだな。それだけじゃないぜ。大和農業ってあのシステムを開発した企業だ』
「……まさかAI Farming system 【NOUKA】のこと?」
『あぁ、そうだ。宍土はこのシステムの責任者だったんだ。そして国内の農業経営をより良くしようと尽力していたんだろうな』
太地がブツブツ言いながら頭の中を整理していく。
「もしかして……宍土が研究を重ねて……いや、心血を注いで作り上げたAI農業システムと実際に政府から販売されたものとは全く異なるモノだった。おそらく政府側の人間が利を得るために直前で他社のAIシステムを組み込んで販売した。そしてそれに気づいたときはもう遅かった……」
『俺も太地と同じ考えだ。だが証拠となるものは残されていない。全て政府が回収したからな。それも宍土にとって納得できない状況だったろうよ』
「ずっと気になっていたんだ。色祭りに現れた時の宍土の言葉、あれは明らかにGSDの作戦をわかっていたような喋り方だったから。
その上であえてその誘いに乗って現れたように感じたんだよ」
『絶対に捕まらない自信があったんだろうな。そして現れることになんらかの狙いがあった』
「おそらく、宣戦布告だな。あの『関東大一揆を止めてみろ』って言葉がそうだろうね」
『想像以上に大ごとになるって事だな』
沈黙する二人。メディアセンターがより静寂になったかのように感じてしまう。
そして太地が別の新聞記事を漁り始める。
「都庁倒壊テロの後、宍土は計二回、永田町を襲撃しているね。その時は都庁ほどの大した被害にはなっていないみたいだね。これはどういうことか月人はわかる?」
『まず、手口は明らかに変わっているよな。多くの同志が自己犠牲のもと実行された都庁倒壊と、銃乱射による永田町襲撃とではな……』
「そうだね。もしかしたら宍土自身も二度と自爆テロを実行したくないという気持ちだったのかもしれないね。その結果、大した脅威にはならなかった。そして長い沈黙が続き、今回の色祭りで宍土は再度現れた」
『あぁ、しかもヤバい力を手に入れてな。あれはかなり強いアイドルだった。人型だったし……
ん? 待てよ? 人型だと……それってつまり……』
「ん? どうしたの? 何?」
太地の質問に対して少し間を置いて答える月人。
『太地、俺が知っている情報の全てを仮にお前が今知ることになったとして、それが必ずしも良い結果に結びつくとは俺は思わない。だから、開示すべき情報は慎重に時とタイミングをみて話すつもりだ。そもそも開示不可の内容もあるから全てではないが』
ゆっくりと頷く太地。
『今ここで、太地が知っても目の前にある重要な問題から逸れる可能性がある。それを避けるためにってことなんだが……わかってくれるか?』
「もちろんだよ。そこは月人を信頼しているから大丈夫」
太地は即答した。安心したのか、笑顔を見せる月人。そして話を続ける。
『おそらく、色祭り前までの数年間で宍土はアイドルの力を手に入れて、それを使いこなすために時間を費やしたんだ。そして今回戻ってきた』
「つまり政府は……いやGSDは数年前の宍土の力を想定して今回の色祭りの作戦を遂行した。あの弱いローダーたちの意味はそれだ! GSDは想定できなかったんだ……宍土があそこまで強くなっていることを」
『仕方がねぇと言えばそれまでだが、いきなり強力なアイドルを手に入れているとは流石に想像できなかったのかもな……ただ、問題はそこじゃねぇ』
月人が一呼吸置く。
『宍土の後ろにいる組織はおそらく太地にとって大きな壁となる存在だ。
だが、今はNFNFと宍土のことだけを考えようぜ。ヤツラは今動いてくることは無いから安心しろ』
宍土の背後に存在する何か……それが太地にとっての壁……
わからないことだらけで気にはなるが、今大事なことは宍土を止めることだと太地も理解している。
「あぁ、わかった! 先ずは全力で宍土の計画を阻止しよう!」




