第49話 編入とダブル飛び級?
「それでは試験のほう、始めて下さい」
太地がものすごい集中力で問題を解き始める。青一高の教室に試験監督2名と噂を聞きつけて集まってきた教員20名ほどが受験者である太地に注目している。
何と言っても色祭りを制覇しMVPとなった六条太地だ。新聞にも載り、その地名度が一気に上がった今、教師たちの注目度は高かった。
そして校内VIPラウンジでは葛城聖司、鏡慎二、東雲あかり、そして権田成美の青川区チームメンバーが太地のダブル飛び級及び編入試験の合格を待っていた。
当然だが、彼らは落ちることを全く心配していない。
「なぁ、編入試験の後に3年級に上がるための飛び級試験、さらに卒業のための飛び級試験ってあっていいのか?」
鏡が戸惑っている。
「なにそれ! てことは……六ちゃんはとりあえず形だけ青一高の三年に一瞬入って、登校ぜずに卒業するってこと?」
東雲が目を丸くする。
「極端に言うとそういうことですわ。ただ、青一高からの要請で、書類上は卒業扱いで構わないが、表面的は来年の3月まで卒業を遅らせてほしいと政府に掛け合ったそうですわ」
「なるほど。六条ブランドをできる限り利用したいって事ね」
「川区内の青川の印象が落ちていただけに、この六条の人気と実力で一気に黒川区を抜き去りたいって魂胆がありそうだな」
「太地さんが卒業した後も、そのまま卒業生として利用し続けるのですわ。羞恥心のカケラもない……面の皮が厚すぎですわ」
ケニア産の豆を焙煎したスペシャリティコーヒーを味わいながら、在校生が母校へ容赦ない物言い……やはり第一高はレベルが違う。
「六ちゃんは何組に入るの?」
「もちろん青一高の中でも優等生が集まった一組ですわ」
「だろうな。」
「つまり、俺たちと同じだね」
思わず笑みがこぼれる四人だった。
* * *
試験終了後、採点を行なっていた教員たちがざわついている。
「信じられない……100点です」
「数学も……100点です」
「語学も……」
太地の100点パレードが始まった。答案に「バツ」が示されることは無い。丸と100しかないのだ。
「あれだけの量を一切休まずに? 私は正直舐めていましたよ。彼のことを」
「まさに神童ですね。扱いには注意しないと」
「あの権田や葛城が試験するだけ時間の無駄だと言っていた理由がわかりましたね」
「いやしかし――」
こうして無事に試験は終了した。
「六条君!お疲れ様!」
「あ、葛城先輩!みなさんも!こんにちは!」
伝説のメンバーが再び揃った。
「六ちゃ〜ん、私たち同じクラスだからよろしくね〜」
「まさか六条が青一高に来るとはな。残りの高校生活が楽しくなりそうだ」
皆の歓迎にホッとする太地。
「ありがとうございます! ちょっと緊張していたのですが、先輩方と同じクラスなら安心です!」
成美が歩み寄って太地に手を差し出す。
「青一高への編入といきなりの卒業、おめでとうですわ。そして見せ掛けの青一高生活の始まり。これからもよろしくお願いしますわ!」
「はい! こちらこそよろしくお願いします」
ガッチリと握手を交わしながらニコッと笑う太地と成美であった。
* * *
次の日、太地は成美とともにリムジンで黄山区へ向かっていた。いよいよGSD訪問だ。
国家機密ということもあって、一般的には何も明かされていないが、権田財閥は少し状況が違うようだ。今回、成美は上層部へ提案する案件があるとのことで到着後は太地と別行動の予定だ。
リムジンは要塞都市に到着し、そのままゲートをくぐって中へ進む。前方の中央ゲートに警備兵と制服を着た女性が立っている。
「太地さん、あちらの女性がおそらく案内人ですわ」
「え、ここからですか? まだ建物にも入っていないのに」
「セキュリティが厳重ですわ」
そういって、成美と太地がリムジンを降りて、女性に向かって会釈をする。女性が笑顔で近づいてくる。
「権田成美さまと六条太地さまですね。 政府特務機関、総務課の加藤木あやかです」
「初めまして。六条太地です」
「権田成美ですわ」
「本日はアズマ都知事より機関内を案内する旨の言伝を預かっております。権田様は今から司令室の方へ直接伺われるとお聞きしております。こちらの施設内カートでご案内いたしますね。」
加藤木が前方に停車している四人用カートをさす。
「こちらへどうぞ」
カート後方へ乗り込む成美と執事の爺や。そして運転手が会釈して乗り込む。
「それでは太地さん、後ほど!」
電動カートが音を立てずに静かに去っていく。ちょっと成美には似合わないと思う太地。
「それでは六条様、どうぞこちらへ。我々も早速各部署や施設へ向かいましょう!」
別のカートの後部座席に乗り込む加藤木と太地。そして運転手が乗り込んでカートが動き出す。
「こちらの要塞都市は初めてですか?」
「いえ、先日都知事と話をしに来ました。地下の庭園には入ったのですが他は特に」
「え? あのアズマ都知事のプライベートルームにですか? すごい! 羨ましいです! 私たちGSDの職員や都庁の職員ですら入れない場所なんですよ」
「え? そうなんですか? なんか、あっさり歓迎してくださったようでしたが……」
「それだけ六条様の事を気に入られていたのですね」
「あの……その六条様っていうのやめてください。なんかくすぐったいので。ただの17歳の高校生ですから丁寧すぎるのも変ですし」
照れ臭そうにする太地。
クスクスと上品に笑う加藤木。
「わかりました。それでは六条さんとお呼びしますね」
「はい。それでお願いします」
笑顔を返す太地。
そうしている間にカートが建物メインエントランス手前で停車する。
「着きました。ここはGSDの特殊防衛部の施設、ファシリティ『ignis』です」




