第44話 祭りのあと
粉塵が徐々に薄れてステージが再び姿を現す。どうやら都知事は無事のようだ。
月人はすでにエンドサーフェイスに入っていた。
『これは驚いた。まさか私の傀儡を倒すとは。なかなかの実力とみた』
真っ黒なディスプレイから宍土将臣の声だけが聞こえる。
「あいつにダメージがないのか……」
出血箇所を上着でグルグル巻いて止血する太地。
『もともと警告をするためにここへ参ったのだ……ちょうど良い。そこの若造よ、できるものなら貴様の傀儡の力で防いでみせよ! 我々NFNF最後の闘争となる【関東大一揆】の進行を! 望むなら護ってみせよ、この無価値なダミーガバメントのゴミどもを!』
――プツン
ディスプレイが元の表示に戻る。
「月人! 宍土はスタジアムの外側だ! あいつはここへ来たと言った。そしてこれだけのアイドルの強大なパワー、間違いなく付近にいるはずだ。僕のことは気にしなくていいから探し出してくれ!」
『馬鹿野郎! お前の身体がもたねえよ。しかも攻撃なんてしたら余計やべーだろ』
「構わない! 見つけたら思いっきりぶん殴ってやれ!」
『……チッ! わかったよ。とっとと出せ』
「load range 50」
月人を再び遠隔でロードする。月人がゴンスタの外側に出てすぐ、それらしきローダーの存在を確認する。ただ、すでに追うことが不可能なほどに離れてしまった。
その後、青川区チームメンバーが太地を急いで病院へ運び、運営側の政府と東京都は混乱した会場の沈静化に追われた。第三回東京都区別対抗学戦祭はこうして幕を下ろした。
* * *
――翌日、昼過ぎ――
病院のベッドに横たわる太地。何針縫ったのかパッと見た限りわからない程度に大怪我を負った。医師いわく二、三日安静の後、退院できるそうだ。
早紀子が見舞いに来て着替えやお菓子などを置いていく。
「足もそうだけど身体全体が痛いわ。結構個人競技でも動いたし、月人も動きまわってくれたからその分もあるのかな……心身共にやばいよ。」
『そうだろうな。トレーニングしたとはいえ、あれだけの時間ロードした状態で動きまわったからな……ただこの経験はでかいぞ! ステータスやシンクロ率も上がったからな』
「そうだね! 退院したらじっくりステータスを研究してみよう! ここまで月人のトレーニングにガムシャラについていく事しかできなかったけど、もう少し僕が僕自身のことを理解したいからね」
『あぁ、まずはしばし休息だ』
病院の窓から心地よい風が入る。11月中旬とは思えないほど穏やかだ。白いレースのカーテンが揺らめく様子を見つめる太地。
――トントン
病室のドアをノックする音。
引き戸を開けて、黄山区の羽生姉妹が入ってくる。
「あれ! 起きてたんだ〜」
「こんにちは〜」
「えっ、あっ……こんにちは。黄山区の……」
「そうそう。羽生さやかと、こっちは羽生瑞穂ね」
「怪我はもう大丈夫なの?」
「そうですね。数日後に退院できるそうです。」
「とりあえず、これあげるよ! これ飲んだらすぐ治るから」
瑞穂からプロテインを渡される太地。
「……『プロプロプロテイン』……怪しいですね……」
(もっと筋肉つけろってことか?)
「何? 要らないの?」
瑞穂が睨みつける。
「あ、ありがとうございます! あとでいただきます!」
「タメ口でいいよ。あと、私はさやかでこっちは瑞穂でいいよ」
「ねぇ、さっきから何でこっち呼ばわりなのさ」
「じゃぁ、これ」
「おい!」
「そういえば、テヘはもう使わないの?」
「あ、すっかり忘れテヘッ!」
「だから、それ使い方が気持ち悪いって」
「そうか。じゃあ、もう少し練習する!」
仲がいい姉妹だ。双子だけあってどっちがどっちか見分けがつかない……しっかりしてそうなのがさやか、ちょっとぬけている方が瑞穂か。
場の空気が落ち着いたところで、意外にも太地のほうから話を切り出す。
「昨日は殴ってしまってすみませんでした。しかも結構本気で……」
「そんなの気にしなくっていいよ! 弱い私たちが悪いんだから」
さやかが即答する。サッパリした表情だ。
「ねぇ、あなたもローダーなんでしょ? どうやって私たちの初撃を見切ったの? しかも挟み込んでいたのに……」
瑞穂がズバッと聞く。太地もローダーであることがすでに知れ渡っていることは把握しているので、その点に焦りはない。
「そうそう。私たち、連携攻撃には結構自信があったのよね。双子っていうのもあって瑞穂とは意思疎通しやすいからさ。だからあそこまで完璧に防がれたのが結構ショックだったんだよね〜」
「……」
太地が何かを迷いながら口を開く。
「その……お二人の意思疎通、つまり刻んでいたリズムや攻撃の展開があまりにも正確で完璧だったから僕からしたら読みやすかったんです、次の攻撃が。つまり、前方の動きをみれば後方の動きがどう攻めてくるかが……」
「な……じゃぁ、あなた私たち二人を見て把握していたわけではなくて、どちらか一人をみて両方の攻撃に対処していたの?」
「はい。そうですね……」
「まじ? 信じられない……」
「でも最初からそこまで手の内を明かしていなかったはずでしょ? 最初の攻撃から完璧に読み切るのはちょっとおかしくない?」
さやかが更につっこむ。あまりにも完璧過ぎて納得できないのだ。
「いえ、個人競技が始まる前からすでにお二人の攻撃パターンは把握していました。団体競技Aの3階フロア戦闘シーンと人質救出の際の戦闘シーンで」
「ハァ⁈ あなた……あの時武装兵と戦ってたでしょ? 数名の兵士と戦いながら私たちの動きも観ていたってこと?」
「……はい。たまたまですが……生存者をできるだけ多く救出したくて、お二人の状況次第で展開が変わると思ったので視野を広げて観ていたんです。なので、その後の個人競技に活かせたのは偶然でして……」
「マジで? あの状況で私たちを観てたの?」
「ハハ……私たちが救出失敗したらって時の作戦も有ったのね。こりゃ完敗だね……」
「いや、ていうか……すご過ぎでしょ! やるね!」
バシッ! と太地の身体を叩く瑞穂。
「ウガッ! いててて!」
「はぁ? なんでそんなに痛がるの? 怪我しているのは足でしょ?」
「あはは……まぁ、そうなんですが、色々ありまして全身筋肉痛みたいな……」
会話が途切れて何となく間が空く。太地はずっと気になっていることを羽生姉妹に聞いてみた。
「あの……お二人はGSDに所属しているんですか?」




