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Bloody Code  作者: 大森六
第二章 東京都区別対抗学戦祭編

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第43話 黒の衝撃

 ――VIP ルーム――


「部長、面白い子がでてきましたね。六条太地ろくじょうたいち……まだ高校2年生です」


「あぁ。そうだな」


「かなり強いですね。羽生姉妹が相手になりませんでした。

 もしかするとNFNF(エヌフ)のメンバーでしょうか?」


「エヌフ? ガッハッハ! そんなわけねーだろ。あいつはそんな()()じゃねえ。」


「そんなタマではない……と言いますと?」


「まぁ、あいつはこちら側の人間だから安心しろってことだ」


「こちら側というとつまり我々GSD(ジスド)の……ということですか?」



「あぁそうだ。『未来の』な」



 部長と呼ばれる男が立ち上がる。



「よっしゃ、宝生! 俺たちは今、お忍びで来てるから堂々と動けねぇ。機動課の馬鹿どもにわかるように伝えてやれ。あの最初にぶっ飛んだグレー3人はNFNF(エヌフ)だってな。身柄を引き取って事情聴取だ。表彰式の時間も20分ほど遅らせて、その間、観客席に配置した隊員を都知事の近辺護衛にまわせ!って一応連絡してやれ。 奴は必ず都知事を狙ってくるってな。」


「はい。了解しました」



「さて、宍土将臣ししどしょうじん……お前、一体何をするつもりなんだ?」



 * * *


 《ただいまより、最終順位発表ならびに表彰式を行います――》


 アナウンスが流れる。準備が整ったようだ。


『ディスプレイに最終順位が発表されました! 1位は青川区チーム! 2位に黄山区チーム、3位になんと緑野区チームが初の表彰台! さらに4位に茶山区チーム、5位に黒川区チーム、6位に桃山区チームが入りました〜』


『優勝候補の黒川区と桃山区がまさかの5位、6位という波乱の結果ですね! 

 川区が全体的に下位に沈み、山区が上位へ大躍進。そんな中で緑野区チームが3位に入っていることが個人的には嬉しいですね〜。団体課題でコツコツ点を稼いだことがこの結果に繋がったのでしょう』


『一方、黒川区、桃山区チームは最初の課題の減点が大きく響いたということでしょうか?』


『まぁ、そうなりますね。両チームとも個人競技でもっと点を取れる予定だったのでしょうが、とんでもないバケモノが隠れていましたからね。正に新星(あらわ)るって感じで』


『六条太地選手ですね! MVPも間違い無いでしょうね! 私の推しである羽生姉妹を破った闘いはしびれましたよ〜。個人的に私の新しい推しになりそうです』



「さやか〜わたしら人気まで奪われてるって〜」


「……悔しいけど仕方ないわ。それより六条太地を勧誘しないと」


「勧誘って……GSD(ジスド)に?」


「えぇ。もちろん」



 そして黄山区と緑野区チームが表彰台に上がり、最後に青川区チームが歓声を受けて台に上がる。リーダーの権田成美(ごんだなるみ)をはじめ、メンバー5人が満遍の笑みで両手を振って歓声に応える。


「最高だな……」


 鏡慎二かがみしんじがメガネを曇らせてボソッと呟く。


「ん〜? 鏡っち、泣いてるの?」


「馬鹿! 泣いているわけないだろ! ちょっと目から汗が出ただけだ」


「いやそれ泣いてるやん。 ハハハ」


 青一高のメンバーの嬉しそうな顔を見て、多少実感が湧いてくる太地。それでも頭の中がテロのことで埋め尽くされているせいか、緊張感が拭えない。


『太地、すでに観客に紛れていたローダーが全員都知事の護衛に加わったみたいだ。 アイツらは、さっきのイエローの双子姉妹より強い。だから太地は危険を犯して守る必要はないかもしれないぜ。しかも護衛対象はアンドロイドだ。最悪やられても次が――』


 月人の話を遮るように太地が言う。


「月人。アンドロイドかどうかは僕には関係ないんだ……月人と出会ってなかったら、考えは違っていたいと思う。でも今は()()()A()I()()ではなくて『僕が助けたいかどうか』で判断したいんだ」


『……お前』



 太地の言葉が月人に刺さる。そして見えてはいないが笑顔で納得してくれたことも太地には伝わっていた。



 そしてメダル授与を無事に終えて、いよいよ優勝チームのトロフィー授与が始まる。壇上にアズマミヤコ都知事と青川区チームのメンバーが上がったところで、輝くゴールドトロフィーを運営局事務員が都知事に渡す。


 アズマ都知事が両手で抱えたトロフィーを青川区リーダーの権田成美(ごんだなるみ)が受け取る。権田がそのトロフィーを天に掲げ、会場が観客の声援で包まれている。


 GSD(ジスド)のローダーたちの緊張感がピークに達する。



 しかし……動きがない……



 ふと、太地はある異変に気がつく。

 青川区チームへの割れんばかりの歓声がローダー達にはとどいていないのか、ピクリとも動いていないように見える。


 奇妙な静けさ、まるで時が止まったかのような。冷たい汗が太地のほほをゆっくりとつたい顎先あごさきでなんとかとどまる。


 その一滴が地面にポツリと落ちた瞬間、中央広場正面の大型ディスプレイの映像が突如切り替わる。


 ヴン――


「おい、なんだあれ!」


 観客の一人が指をさして騒ぎ出す。


 真っ黒な背景、その中央に一人何者かが右手で日本刀を持ち、うつむいた顔に左手を添えて突っ立っている。そして左手をゆっくり離して顔をあげる。


「キャァー!!」


 観客の叫び声とともにその怒りの表情が映し出される。



 こちらを(にら)みつけている……いや、あれは……黒般若くろはんにゃの能面だ。

 深く沈んだ重い空気が会場全体に広がる。


「うっ!……なんだ……動けない」


 ローダーたちが金縛りに掛かったように固まってしまった。表彰台に上がった青川区チームも全く動けない。



『太地!表彰台の下に俺をロードしろ! 固まっちまうぞ!』


「ぐっ……わかった!」



 黒般若くろはんにゃが口を開く。


『前途ある学生諸君、そして私のためにこの素晴らしい茶番劇を準備してくださった()()()()()()()()の諸君、ごきげんよう』



「……現れたな」



 VIPルームから不敵な笑みを浮かべる者。恐怖を感じて動けない者……その視線の先ある脅威……



『私が 宍土将臣ししどしょうじんだ』



「なっ……なんだって!」


「うわぁ〜! 逃げろ!」


 会場が一瞬でパニックに(おちい)る。


『貴殿からの熱烈な招待、感謝申し上げる。ささやかではあるが、お礼に我が傀儡かいらいつかわすことにした。楽しんでいただけると幸いだ……』





 黒般若が日本刀に左手を添えてた。そしてこちらに狙いを定めるように構える。


「おい……あいつ何をするつもりだ?」


「……単なる映像……だよな?」




『太地! 今すぐ台の後ろへ全員つき下とせ!! 』



「!!」


「先輩方すみません!」


 太地が動けない青川区メンバーを台の後ろへ蹴り落とす。しかし都知事がまだ残っている。横っ飛びで都知事にタックルする太地。


 シュパッ!


 黒般若くろはんにゃが放った高速の抜刀術ばっとうじゅつ。表彰台ごと真っ二つに割れる斬撃は後方にあったメインスタンド解説席まで届く。



「ッッ!!!」



 かすった程度だったが右足を深く切られた太地。


「知事! 大丈夫ですか⁈」


「はい。私は大丈夫です。しかしあなた……足から血が……」



 ディスプレイから飛び出した斬撃……理解が追いつかないがそれどころではない。


「六条君! 大丈夫か⁈」


 どうやら青川区チームの金縛りは解けたようだ。ローダー達は未だに動けない。


葛城かつらぎ先輩! かがんで客席側へ避難してください! 急いで!」


「わ、わかった!」



 黒般若が再び構える……深く……静かに……そして次が来る。



 シュバババッ!!



(ダメだ……動けない! やられる!!!)


「月人!!!!」



 太地が叫んだその刹那せつな、月人が姿を現す。そして右手を前に出し瞬時に斬撃をかき消す。


 その衝撃によって爆風が起こり、ステージ全体に粉塵(ふんじん)が舞う。




『お前……ちょっとやり過ぎたな』



 月人が右手を黒般若へかざす。


 ピクリと反応した黒般若……動けない。今度は黒般若が一歩も動けない……



『そっくり返してやるよ。お前のくだらない技をな』



 動けない黒般若に向かって開いていた右手をグッと強く握りしめる月人。



 ズババ!



 都知事に覆い被さっている太地。すでに体力は限界に近い。


(ダメだ……次が来たら、かわせない)


 朦朧とする意識の中でディスプレイを見上げる太地の目に映ったのは、八つ裂きになった黒般若の姿だった。


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