第4話 謎解き
『わたしは あなたの アイドルです』
……
沈黙が数秒続く。
「え?」
「君が僕のアイドル?」
困惑する太地。
(こいつ……あれか……頭イタイ系の人なのか?
確かに頭が割れてはいるけど……
僕は君のアイドルさ〜ってイケメン100%でもなかなか言えないセリフだぞ)
冷静に言葉を選ぶ太地。
「僕は推しのアイドルとか特にいなくて……というより、あまりJ-POPとか詳しく無いから好きなアイドルとかもいなくて。 JAZZが好きなんだよね……」
『……』
「そもそも君が僕のアイドルって――」
その時、階段をのぼる音がする。
「太地〜。あなた何してるの? ドンドン響いてるわよ」
(やばい!母さんだ)
みられたら何故やばいのかはわからないが、よろしくないと本能が囁く。
「ちょっと、君! もう一度このリングに戻って!」
「母さんに見つかるとまずいから!」
反応はない。
風に吹き飛ばされた教科書やノート、筆記用具……
片付ける時間がない。 階段をのぼる音が大きくなってきた。
彼は動かない。
「ちょっと、頼むよ! 一旦戻ってくれ!」
やはり彼は動かない。そして一言。
『問題ありません』
……
トントン、 「太地〜入るよ〜」
……ガチャ!
扉が開く。
顔面蒼白の太地。
「なんでこんなに散らかってるの? 台風でも来たみたい。」
脇から冷や汗、額から脂汗が出る。なんせ母親の目の前に「彼」が浮いているからだ。
「ちゃんと片付けしなさいよ! 気になってテレビ観れないからドタバタしないでね〜」
「は、はい……気をつけます……」
「何それ?よそよそしくて気持ち悪いな。」
「いやいや、気にしないで! ごめんごめん。ちょっと散らかしてしまって。片付けておくね」
母親が階段を降りてリビングに戻る。
……
「母さんには見えなかった?」
「どうして……」
(こんな6畳半程度の大きさしかない部屋で、気が付かないなんてありえない……)
太地の不思議そうな表情を見て彼が答える。
『アイドルの存在はローダー本人及び他のエンドサーフェイスを使用しているローダーにしか認知できません』
(またアイドルか……)
「……ん?」
ふと、思いつく。
「あの〜。君の言う「アイドル」のことをもう少し説明してもらえるかな?」
彼は無表情で回答する。
『【アイドル】とはエンドサーフェイスによって読み込まれたローダーのBloody Codeを特殊生成AI 「セカンドブレイン」によって、3Dドールへ反映させ、可視化させた像のことをいいます。
AIによって生成されたdoll(人物像)からAI-doll、そこから転じてアイドルと呼ばれています。
アイドルは研究者六条勝規によって発明された生成――』
「ちょっ、ちょっと待て〜!」
「ストップ!ストップ!」
今年一番の太地の大きなリアクション。
相変わらず、彼は無表情である。
「気になる情報からわからないワードまで詰め込み過ぎだよ。吸収しきれない」
時計の針はすでに午前0時をまわっている。疲れているが睡魔0%だ。
(……とりあえず、父さんのことは後にしよう。今は目の前にある状況を整理したい)
目をそらしてブツブツ言いながら考え込む太地。これは太地の癖だ。
(キーワードが出て来てたな……)
セカンドブレイン、 ローダー、 Bloody Code ……
「あと、ちょいちょい話に出てくる『エンドサーフェイス』か」
彼に聞かずに考え込む太地。これも太地の癖である。
……
「大体整理できた……」
「エンドサーフェイスっていうのは、このリングのこと?」
『はい。そうです。しかし、リングタイプの他に、シールタイプやイヤホンタイプなど、数種類開発されています。』
「なるほど」
「ローダーというのは読み込む者で【loader】という意味で合ってる?」
『はい。その通りです』
「もしかして、君を呼び出すのは 『load』 という掛け声が必要?」
『初期設定時のみ必要となるロック解除パスワードです。ローダーの情報をアップデートした後のエンドサーフェイス起動は任意のワードに変更可能です。また、声に出さずに思念伝達で起動することも可能です』
(なるほど……だからボソッと口にしたroadという言葉に反応したのか……)
「呆れたけど、『道(road)で切り拓け』か。父さんらしいや」
思わず笑みがこぼれる。
(えっと、それから……)
「セカンドブレインという生成AIも六条勝規がつくったの」
『はい。そうです』
「うん。なるほど。わかってきたぞ」
「最後にもう一つだけ。『Bloody Code』 とは何?」
太地は深く考えずに聞いてみた。
『申し訳ございません。Bloody Codeに関する情報開示は許可されておりません』
(父さんが情報規制をかけたのか。漏洩を避ける必要があるということか)
やはり母親にも気軽に相談はできないと太地は改めて思う。
「あ、そうそう。君のことをなんて呼べばいい?名前とかあるの?」
(流石にずっと君と呼ぶのは心理的な距離が縮まらないしね)
『ローダーより設定してください。現在はチュートリアルのガイドモードでお話をしています。名前が設定された時点から、アイドルに個性が生まれます。
そこからが、ローダーとアイドルとの共存関係の本格的なスタートとなります』
(チュートリアル版まで用意するとか……芸が細かいな。父さん……)
「名前かぁ」
「今決めた方がいいの?」
『いつでも構いませんが、チュートリアル版のアイドルは機能制限がかかるため、あまりオススメは致しません。』
「そっか。なるほどね。」
「どうして君は見た目がそんなに非人間的なの?」
『Broody Codeを読み取ってローダーのプロフィールやスキルデータ等の能力値などを反映したのが現在のアイドルです』
(それって、僕が宇宙人っぽいということなのか?)
「頭の中に銀河が見えていて左腕が存在しない。このビジュアルイメージが僕の血から算出された結果ってこと?」
『そうですね。まぁそういうことです』
(なんか答え方が雑になってるような……)
自分の存在を疑う太地。
「ちょっと……心に闇があるみたいで嫌だなぁ。ビジュアルはかっこいいけど」
無表情を崩さないチュートリアルガイドのアイドル。
「今日はもう寝よう。頭がこれ以上働かないから」
『了解しました』
「どうすれば君をエンドサーフェイスに収納できるの?」
『エンドサーフェイスにアイドルが取り込まれるイメージを持ちながら、closeと言ってください』
太地はアラジンと魔法のランプのジーニーがランプに入るシーンを参考にイメージして言葉を発した。
「close」
シュ〜と空気が抜けるような音とともに、アイドルは一瞬でエンドサーフェイスの中に吸い込まれていった。
(疲れた……)
重い足取りで3歩前進し、ベッドへそのまま倒れ込む。
両腕を下ろしてうつ伏せのまま、小さく聞こえてくる寝息。
スー、ス〜……
睡魔は100%だった。
ネットで改めて調べた限りですが、「idol」とは 信仰の対象としての偶像、神像の意 。 崇拝される人、物。とあり、現在では熱狂的なファンを持つ歌手、俳優、タレントなどを表す言葉。 とありました。
これからキャラクターを想像するにあたり、「アイドル AI-doll」は個人的には素敵な表現だと感じています。
ちょっとここまでの話は重めの説明的文章になってしまったかもですが、こういうのが好きだ!という方には今後も楽しんでもらえそうかな……と思っています!
この後の太地に起こる展開にもご期待ください!




