第39話 団体課題A 結果発表
「月人、そっちはどう?」
チームから一旦離れ、自販機付近で炭酸水を飲みながら月人と連絡をとる太地。
『あぁ、とりあえずスタジアム全体はバレない様に見回ったぜ。お嬢の警備体制強化が効いたのか、爆弾は見つからなかった。念のため、地下も調べたが何も出てこなかったな』
「すでに入場者数は想定した満席に近い状況、観客もろとも爆破って感じのテロではなさそうだね……」
『あぁ、ターゲット、つまりアズマミヤコ都知事を狙って殺害するテロ……』
「ただ、突然露骨に都知事が公の場に現れてパフォーマンスしていることや、少な過ぎるSPの人数。この状況を見る限り……」
『政府が張った罠だろうな』
「……うん」
『そしてそれに勘付かない組織でもね〜だろうな』
「つまりGSD側が二重にトラップを仕掛けている可能性があるんだね」
月人は観客に紛れ込んだローダー数名と出場選手内にいるローダー5名の動きがなんらかのトリガーとなって事件が起こると推測していた。
『黄山区の羽生姉妹はGSDの人間で間違いない。アバターとはいえ、政府が見ている前で装備をロードして迎撃していたんだからな。お咎め無しの時点であいつらは【白】だ。』
「そして、人質を監視していた武装兵をやっつける様子を見ていたグレーチームの3人の表情、観客側の巨大ディスプレイに映ってないかもだけど……凝視していたよ。明らかにグレーの3人には見えていたんだ。あの装備したものが」
「月人以外はロードした状態でない限り、ローダーとは気づかれないということでいいんだよね? つまり黄山区の姉妹や観客に紛れ込んでいるローダーはグレーチームのローダー3人には気づいていないってことだよね?」
『そうだ。間違いない』
炭酸水を片手に俯いて念話する太地。課題Aの映像を観ていた大勢の観客や学生は太地の行動に対し憧憬の念を抱いていた。
しかし何故か競技後の休憩中でも真剣な表情を浮かべているので周りからは少し声を掛けづらい。
そんな中、アナウンスが流れる。
『皆様〜!大変長らくお待たせしました! それでは今から団体課題A結果発表を行います!中央広場正面にある巨大ディスプレイをご覧ください!』
ディスプレイに評価方法が開示される。
【団体課題A 評価方法】
1)審査員採点
審査員10名が10点満点で各チームを評価する。
<評価基準>
1)課題クリア時間
2)困難な状況下での冷静さ、対応力、発想力
3)強大な敵に対する突破力
4)チーム生存者数
5)他のチームへのサポートの有無
6)宿泊客(NPC)の救助人数
7)他チームへの妨害、意見不一致によるチーム分裂(減点対象 -5点 / 回)
8)チームメンバーの死亡(減点対象 -10点 / 人)
2)観客投票
各チームの応援団ではない、一般招待の観客による投票。
1位 50点
2位 20点
3位 10点
『審査方法が開示されましたが、河村さんこちらの内容に関していかがでしょうか?』
『う〜ん、そうですね。特に違和感はありませんね。審査員評価基準に宿泊客の救助人数が入っているのが面白いですね。要項にあった「生存者」というのがチームメイトだけを指すのではなかったということですね』
『その観点から言うと他のチームへのサポートという点もなかなか考えつかないかと思うのですが、いかがでしょうか?』
『そうですね。そこで「現実世界を想定する」という条件を加えたのでしょう。まぁ、実際それを実現できたチームはほんの僅かでしたけれど』
『観客投票はおそらく自分がその場にいたら、どのチームに助けてもらいたいか、どのチームと共に行動したいか、といった感情で評価されて、1票が入ると思います。 うん、これはなかなか面白い方法ですね。専門家ではなく、むしろ一般人の方がリアルな評価に繋がると思います!』
『なるほど〜。さすがとしか言えない素晴らしい解説、ありがとうございます!』
『さ〜! 続きまして〜! 結果発表です!』
ディスプレイに結果が一気に掲示される。
【採点結果】
1位 青川区チーム 145点(審査員:95点 観客投票:50点)
2位 黄山区チーム 88点(審査員:68点 観客投票:20点)
3位 緑野区チーム 54点(審査員:44点 観客投票:10点)
4位 茶山区チーム 20点(審査員:20点 観客投票: 0点)
5位 黒川区チーム 5点(審査員:45点 観客投票: 0点 減点40点)
6位 その他のチーム -60点(審査員及び観客投票: 0点 減点60点)
会場がどよめく。順位は予想できたものの、青川がダントツの1位で黒川区が5位という状況、6位いかがマイナス点という前代未聞の採点形式だったことがその理由だろうか。
『なんと!!! 1位青川区チームが圧倒的な点差で145点でトップです!』
「やったぞー! 1位だ!」
「やりましたわ! 狙い通りなのですわ!」
「いえ〜い!」
喜びを爆発させる葛城と権田、マイペースな東雲と静かに拳を握って喜ぶ鏡。そして嬉しそうな先輩を見て、嬉しくなる太地。
『ダントツだな。太地も頑張ったな』
月人がエンドサーフェイスの中から太地を褒める。
「月人のおかげだよ。あの役に立たないと思っていたウエポンドールの訓練、ものすごく役に立ったよ」
『……お前な、一言多いんだよ』
「六ちゃんの活躍があったから、あれだけ点差が広がったんだよ〜」
「その通りだな!六条のおかげだ!」
「ありがとうございます! でも僕だけではなく、チームみんなの勝利ですから!」
「いいこと言うね! アハハ」
青川区チームの雰囲気は最高だ。
『さぁ、河村さん。この点数結果をご覧になられていかがでしょうか? 一見すると点差が開きすぎのような気もしますが……』
『う〜ん、どうですかね。私は正当な評価がされたと思っています。まず、今回点数アップが期待される場面は二つありました。一つ目は1階から3階の攻防と脱出、二つ目は上層階での攻防と脱出。 青川区チームは唯一このどちらの場面でも大活躍だったチームなんですよね』
『上層階側では他に緑野区と黒川区、それから何もせず屋上にいた茶山区がきっちり点数を稼いでいますね。低層側では他に黄色区が稼いでいますね……』
『そうなんです。茶山区は別として、上層階では青川区が指揮をとって他の2チームを率いて生存者を増やしている点、武装兵と出くわした際の処理を青川区が対応している点などを考えると相応の得点かと。 さらに下層での攻防でも黄山区の行動を活かせるキッカケとなる動き、敵の上官を制圧、率先して地雷や爆弾のトラップを見抜いて処理した点など、その評価は他チームとは比較にならないものでしょう』
『なるほど〜。実際に審査員採点では平均すると各審査員が9.5点の評価を出していますからね。逆に気になるのですが満点ではないポイントはどのあたりでしょうか?』
『審査員の皆様それぞれ評価のポイントが違うと思いますので断言はできませんが、チームが分かれて行動をとったことや銃を取って戦うという危険な行動を多少マイナスとしたのかもしれませんね。 まぁ、それでも色祭りの競技でこれだけ高得点を叩き出すのは奇跡ですよ。お見事です!』
「河村さんに褒められるってやばいな……」
葛城と鏡が感動している。
「当然ですわ!我々青川区チームの力はこんなものではありませんわ!」
権田もすごく嬉しそうだ。
『河村さん、他に気になったポイントはございますか?』
『そうですね。茶山区はずっと33階から動かずに賭けてましたね。ヘリが屋上ヘリポートに到着するのを。そして【-60】という採点となったチームに共通して言える【全員が死亡した】という状況、五人全員死亡で-50点、残りの-10点の意味は……他チームとの争いですかね。もしくは「現実世界でも本当にその決断ができるのか」と審査員は問いかけているのではないでしょうか?』
観客を含め全ての生徒が静かに聞いている。解説の河村は更に続ける。
『災害に遭った時の人間の思考なんて冷静でいられる方がおかしいですからね。どう行動すれば点数がもらえるかという考えは捨てきれないのは仕方ありません。
しかし、それありきで「待ち」を選ぶ、「何も考えずにダッシュで特攻する」という行為を選ぶのはその時点で現実世界として動けていませんよね。
それは審査基準から大きく外れてしまう行為です。そこがこの辛口な評価に繋がったのかなと思います』
『なるほど! お話を聞いて私もこの得点差が大きく出た結果に納得できました!』
ニコッと笑う河村。
『ちょっと、個人的な意見になってしまうのですが、黒川区チームリーダーの新田君の動きと言動には失望しました。どうして黒川区が順位を落としたか。それは彼一人が足を引っ張ったからです。しかも他のチームにも迷惑ばかりかけている。
我先に助かろうとする精神や暴言ばかり吐き捨てるあの態度はリーダー失格どころか、代表チームに入る資格さえないでしょう。
ハッキリ言いますが、この黒川区チームの代表選考に彼が選ばれ、ましてやリーダーになるなんて。他所の力が働いた不平等なものとしか思えませんね』
『これはかなり辛辣なご意見をいただきました。愛の鞭……ではなく、完全に一線を引いた立場での個人とチームの裏側を全否定! さすが黒川第一高の最強世代のリーダーを務めただけありますね!』
「あんなこと言う解説者初めて見たよ……」
『おもしれー奴だな。的を得た意見だと思うぜ』
月人が関心している。同時に人間失格の烙印を大衆の面前で押された新田政次は赤面してうつむきながら怒りを押し殺す。
『競技中、観客からもかなりのブーイングでした。黒川区の応援団もブーイングでしたからね』
『永井ファンと天月ファンですね。あははは。まぁ、あと競技は2種目ありますから。リーダーを永井君に変えて新田君は退場でいいかと思います』
ドッと沸く会場。
「河村さんこえ〜。オブラートに包むことなく直球で正論いうよなぁ」
「いいやん。あいつめっちゃムカつくし、いなくなった方がいいわ。成美ちゃんのこともいじめてたし、六ちゃんのことクズって言うてたからな」
「クソが!!!」
新田が歩いてフィールドを出て控え室へ向かう。完全アウェイの会場にこれ以上いられないのだろう。
しかし、太地はこの茶番劇を素直に笑えなかった。新田が何かをやらかしそうな気がして……




