第35話 団体課題A 避難シミュレーション01
実況の掛け声と共に、係員が各チームに五つ分のヘッドセットを渡す。そして各メンバーに行き渡ったところで指示がでる。
《選手の皆様はヘッドセットを装着して正面メインゲート右手側に配置された指定のカプセルへお入りください》
各チームごとに一人用のカプセル型シートが5台準備されている。選手全員がゆっくりと係員の指示に従って設備を装着する。
「月人、今から会場裏側にロードするね。僕はしばらくVRMMOで競技に集中することになるから後は任せたよ」
『おう! 任せろ。計画通りに進めておくから安心しろ』
《それでは今からプログラムを起動します。選手の皆さんは自身のアバターと意識との動作確認を行ってください》
ビュッとどこかに飛ばされた感覚になり、真っ白な背景の空間が現れる。一体のナビゲーターが中央に現れて、選手全員がチームごとに集まってナビゲーターを中心に輪を形成する。
動作確認をしてみたが、不思議なくらいアバターの動きに違和感がない。現実世界の自分自身としか思えないクオリティだ。
《これから、設定課題のサイトに転送しますが、その前に参加同意書にサインをお願いします》
「なんだこれ、目の前に紙とペンが出てきたぞ」
「――これってどういうことだ? 痛みを感じることは無いが精神が崩壊する可能性も多少はあるって……」
「問題なければサインって」
何人かの選手に動揺が見られる。ただ、チーム戦ということもあり、拒否してリタイアするものはいないようだ。
《採点基準は明かせません。サイトに転送後に具体的な課題説明をさせていただきます》
「私は参加しますわ。みなさんはどうされます? これは個人の意思を尊重しますわ」
権田成美がリーダーとしてチームに確認を取る。
「お嬢、俺たちもやる気だから安心しろって」
葛城聖司の言葉に鏡慎二と東雲あかりが頷く。太地も笑顔で応える。
「それでは全員で行くのですわ!」
――ヴン
全員が転送された。
同時に課題概要ウインドウが各プレイヤーの前に表示される。
* * *
課題:高層ビル最上階から無事に地上へ脱出せよ!
制限時間は開始ブザーが鳴ってから1時間。地上へ脱出した選手からオートログアウトされる。
<ルール>
現実世界で事件に巻き込まれたと想定し、行動せよ。その際のチーム行動、個人行動は各チームの方針に委ねる。
<基本的な評価基準>
・生存者が多いほど好評価を獲得できる
・脱出時間が早いほど、高評価を獲得できる
・死亡認定を受けたアバターは強制ログアウトされ、それまでの評価が最終得点となる
* * *
《5秒前、4、3、2、1……スタート!》
けたたましいブザーの音がなる。いよいよ競技が始まった。高層ビルの最上階、優雅なレストランフロアのようだ。そこに選手全員が転送されている。
「行くぞ!」
掛け声とともに一斉に各チームが動き出す。青川区チームは権田を中心に輪を作り、その場にとどまる。緑野区、茶山区も同じ考えのようだ。
「おい! お前ら早く行くぞ!」
黒川区リーダーの新田政次が声を張り上げる。しかし、他のメンバーはそれに従わない。
「新田、今は状況把握と方針を決めるほうが先だ」
永井みなとが冷静に話しかけるが、聞く耳を持たない新田。
「勝手にしろ! 俺は先に行くからな! 誰よりも早く地上へ出ないと負けちまうだろ! お前らも急げよ!」
新田が走って行く。いきなり分裂する黒川区チーム。しかし残ったメンバーはいたって冷静な様子だ。
「まずは課題内容を3分で見直すぞ。見た感じシンプルだな。疑問に思った箇所があれば挙手!」
葛城がうまく仕切る。
「はい! これ、死亡リスクをわざわざ明記してあるってことは災害以外に犯人立てこもり系もあるってこと?」
「俺もそう思う」
「私も思いますわ」
「よし、そうだと仮定して進めるぞ。次!」
葛城が効率よく意見をまとめていく。
「次に課題クリアまでの進め方や作戦について意見を言ってくれ」
「他のチームとの共同作戦は有か無しかどっちですか?」
「俺は有りだ。みんなは?」
「状況に応じて有りですわ。今は単独で進むべきですわ」
「うん。それがいいと思う!」
「俺もだ」
「エレベーターは使わないで避難用階段だ」
「できる限りチームで動くという方針がいいですわ」
「同意!」
「さらにバディを組むぞ!お嬢と俺、鏡と東雲、六条君は怪物だから一人だ! さらに六条君は途中で何か思いついたらすぐに誰かに知らせるんだ!」
「りょ、了解です!」
青川区チームの作戦がまとまる。
「よし! それでは行きますわ!」
ダッシュで階段室へ向かう。途中で見つけたフロアマップには33階と記載されている。
「マジかよ。超高層だな」
鏡慎二が曇った眼鏡レンズを拭きながらぼやく。ワンフロアの面積も大きなホテル建築だ。
しばらくひたすら階段を降りながら時間を確認する。現在なんと11階、残り時間は45分だ。ダッシュで降りて来たからか、時間に余裕がある。
(おかしい。これならどのチームも30分程度であっさり地上へ出れるはず。何か仕掛けがあるのか?)
「キャー!!!」
10階で悲鳴が聞こえる。立ち止まる青川区チーム。階段室の扉をゆっくりと静かに開いて鏡慎二が状況を確認する。
「喋るな! 両手を頭の後ろにあてろ! 抵抗するなら撃つぞ!」
女性客2人にハンドガンを向ける一人の武装した兵士。
「立てこもり犯のようだ。どうする?」
鏡の質問の意図を理解するメンバー。放置して下の階に向かうか、助けるか……
「勿論助けますわ。犯人の動きをみて、六条太地さんのバズーガーでぶっ飛ばすのですわ」
権田が無茶な指示を出す。
「いやいや、無理です!(ていうか、月人がいないからposessionは本当に無理だという理由を説明できない!)」
「相手はハンドガンだ。この扉を開けたら見つかって打たれるぞ」
葛城が冷静に突っ込む。
「わかった。私がやるわ」
東雲が前に出てくる。
武装兵は銃を向けて女性客を脅しながらゆっくり階段室へ近づいてくる。そして残り3メートルのところで、階段室の扉がゆっくり開く。
「誰だ!」
銃口を向けて警戒する兵士の前に東雲がゆっくり倒れこむ。
「た、助けて……」
「なんだ……下の階から逃げてきたのか? まぁ、助けが来るかもしれないが、どのみちお前も人質――」
バン!
扉が再度開く。
油断した武装兵の動きがワンテンポ遅れたその隙に、太地が素早く武装兵のハンドガンを蹴り上げる。そして葛城と鏡がタックルで兵士を吹っ飛ばし馬乗りで制圧した。
「東雲さん、大丈夫ですわ?」
囮役となった東雲に権田が駆け寄る。
「大丈夫やで〜。作戦成功やね」
「助けてくださり、本当にありがとうございます!」
女性客2人が礼を言う。
武装兵を拘束して客室の中へ入って再度状況整理をすることにした。
そして間髪入れずに太地が話す。
「もしかして、課題概要にあった『生存者』とは選手のことだけでなく、ホテル内にいる一般客のことも含んでいるのではないでしょうか?」




