第33話 控え室にて
フィールドの丘の上で楽しげに飲み会を開いているグループがいる。
太地の母親、早紀子とその愉快な仲間たちだ。
レジャーシートを敷いて4人でビール片手に陽気なテンションで盛り上がっている。
「いや〜 ドームの中だから屋外ではないし桜もないけど、外で飲んるみたいでなんか楽しいね〜!」
「しかも太地君が出るんでしょ? すごいじゃない! 応援しないとね!」
「みんなよろしく〜」
早紀子が仕事仲間と盛り上がっていた頃、太地たちは――
* * *
――選手合同控え室――
青川区チームのメンバーが集まって話をしている。
「お嬢〜、ゴンスタの企画最高だな〜。俺も行きたいわ〜」
「私も行きたい! 鏡っち、ちょっとお好み焼き買ってきて! ソース多めで」
「やかましいわ! お前ら少しは緊張しろ! もうすぐ開幕式ですぐ競技が始まるぞ! 権田、リーダーなんだからこいつらをなんとかしろ!」
鏡慎二のフリを無視するように一点を見つめながら厳しい表情をする権田成美。
「……おい、権田。聞こえているのか?」
「……あ、何ですわ?」
「……」
太地は太地で集中していた。
「月人……どうだ? 何人くらいいる?」
『ザッと見る限り、20人程度だな。ローダーは』
「そのうち、学生チームの中にはいるか?」
『あぁ、いるな。太地以外に5人だ』
太地の顔が緊張で強張る。
(テロなのか……それとも……)
『観客の中に10人程度、VIP席に4名か5名かって感じだな』
「了解」
念話で話す月人。今はエンドサーフェイスの中で状況を探っている。
『おい! あんまり今から固くなるなよ! 気が持たねえぞ』
「確かにそうだね」
念話をやめて青川区メンバーの様子を見る太地。はっきりいって見た感じバラバラの状態だが、リーダーの権田以外はみんな落ち着いているようだ。いつものボケ、いつものツッコミ。なかなか悪くない。
「成美先輩大丈夫ですか?」
太地の声にハッとする権田。
「大丈夫なのですわ。ちょ、ちょ、ちょっと緊張しているだけですわ」
『おい、お嬢ダメだな。ガチガチだぞ。実は本番に弱いのか? らしくねーな』
月人のツッコミと同時に何人か近寄ってきた。
「おい、青一高!」
(ん? 誰だこの人たち……黒のユニフォームってことは黒川区か)
「黒一高三年で黒川区チームのリーダーでもある新田政次だ」
すごく賢くて体格も良くスポーツ万能そうだが、残念ながらイケメンではない、なんか偉そうで性格悪そうな人。それが太地の第一印象だった。そして太地の苦手なキャラでもある。
「ご機嫌よろしゅう。新田さん。何かご用ですわ?」
「よう〜権田。青一高はまた弱っちいチーム組んだんだな。こんなメンツで上位に入れるのかよ? 去年よりやばそうだな」
権田成美を挑発する新田政次。ニヤニヤしている。その存在だけで相手を不快にさせるタイプだ。後ろの黒川区メンバーの中に太地に視線を向ける女性がいる。
「権田、同じ川区でしかも俺たち黒川区の隣に位置しているからよ、忠告というか……当たり前のことを言っておくけど、お前らほんと弱すぎ! 正直棄権して欲しいんだけど」
「棄権はしませんわ。今年優勝するのは青川区なのですわ」
「ハァ? 冗談だろ? 去年6位だった青川区が?」
いちいち腹が立つ顔でリアクションする新田。しかし意外にも権田は冷静に対応している。
「去年は去年、今年は今年ですわ。今年のチームはワタクシ権田成美にとって最高のメンバーを選んだつもりですわ。どのチームにも負けませんわ」
「ヘェ〜。なんかよ〜。今回青川区だけが唯一第三高から一人メンバー補充してるんだってな? 笑っちまうよな。第三高なんてクズの集まりじゃねーか。そのクズを入れるってことは青一高はもっとクズってことだろ?」
ものすごい上から目線だ。世の中にこれほどまで人を不快にさせる顔があるのかと感心するくらいの悪人面だ。
『こいつぶん殴ったほうがいいか?』
月人もイラついているらしい。
「いや、放っておこうよ。そのほうが進めやすいし」
太地はいつも通り冷静だ。
「第三高がクズというなら、もしあなたが第三高のメンバーに負けたら、あなたはクズ以下ということになりますわね」
「そんなことあり得るわけね〜だろ。ていうかどいつだ? その第三高のクズってのは?」
仕方なく、太地が前に出て行く。
「あの〜、そのクズって僕のことです。六条太地と言います。黒川区チームのみなさん、よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる太地。新田以外の黒川区メンバーが会釈して反応する。どうやら礼儀は正しい人たちのようだ。新田政次以外。
「あなただったのね……お久しぶりね。六条太地君、とても気になるわ」
「あっ。あの時ポメラにいた……」
新田を無視して出てきた女性、それは「カフェ・ポメラ」で会った女性だ。
「黒一高三年の天月千早です。よろしくね。」
「あ、……はい」
「六ちゃん知り合いなん? 天月さんって黒川区のエースでマドンナやで〜」
「お前も隅に置けないな」
東雲と鏡がツッコむ。
「ちょ、ちょっと! なんですの? お二人仲がよろしいようで?」
急に焦る権田成美。それを見てニヤリと笑ってなだめる葛城聖司。
「おい!俺を無視して話をするなお前ら! いいか!お前たち青川区は雑魚チームなんだ。俺たち川区の足を引っ張るなよ!雑魚はでしゃばるな!」
暴言を吐いて立ち去って行く黒川区リーダーの新田。そして誰も後をついていかないメンバー。
「聖司、久しぶりだな! いきなり新田が失礼なことばかり言って申し訳ない。あいつのことは無視してくれ。青川区の活躍、期待しているから!」
黒川区チームの永井みなとが青川区チームに謝罪する。
「いいってあんなの。何も気にしてないからさ。みなと元気そうだな。お互い頑張ろうぜ!」
葛城聖司と永井みなとは知り合いのようだ。
「あと、忠告ってわけではないんだけど……六条君がもしクズなら俺たち青一高の全生徒は生きる価値のないゴミって感じだわ」
「え……?」
「まぁ、一応それだけは伝えておくわ。新田君、この大会終わった後大変だろうなぁ……」
青一高のメンバーが大きく頷く。
「青川区チーム……六条太地……気になるわ……」
「じゃぁ、またあとでな!」
そういって黒川区チームは去って行った。
勝たなければならないというホーム開催の重圧で緊張していた権田成美がやっと本調子に戻ってすごい勢いで太地に突っ掛かる。
「六条太地さん!あれはどういうことですわ!」
「え? あれってどれのことですわ?」
ププッ。メンバーが軽く笑う。
「だから! どうしてよりによって天月千早さんと知り合いなのですわ⁈」
「あ〜、あれは偶然カフェで会ったんですよ。それでちょっと話をしただけです。特に何も情報提供していませんから」
「カ、カフェ! カフェですわ!」
「ん? 何か?」
『そういうことじゃね〜よ。クズではないが鈍感だな……』
「まぁ、これでいつもの青川区チームに戻せたし良かった!」




