第31話 永遠の東京都知事
――10月21日――
太地と青一高のメンバーが権田邸の作戦会議室に集まった。
「で……お嬢今回の打ち合わせはどういう話かな? 確かゲームの試作版は30日に確認の予定だったよね?」
「えぇ、そうですわ。今回は六条太地さんの呼びかけですわ」
「「「 え⁈ 」」」
「六ちゃん意外にやる気や〜ん。どうしたん?」
「……嫌な予感がするな」
東雲あかりが笑い、鏡慎二がメガネフレームのブリッジをクイっとあげる。
「単刀直入に話します。今回の色祭りでテロが起こると考えているんです」
サラッといきなり話してみた太地。当然困惑するメンバー。権田成美は事前に太地から話を聞かされていたため、今は冷静だ。
「はぁ〜? それ笑えん冗談やわ〜」
「ちょっと……いきなりすぎて追いつけないんだけど……」
メンバーが動揺している。他でもない、「六条太地」が言っているからだ。普通なら軽く流す話題だが、今回はそうもいかない。
「どうしてそう考えたか理由を聞いていいかい?」
葛城聖司が落ち着こうとしているのが太地にも伝わる。
「もちろんです」
太地は自分の考えを話す。都庁テロからの経緯と今回のイベントに都知事が来ること、防衛というテーマなど、断片的な推測を繋ぎ合わせて一つの最悪なシナリオをメンバーに話した。
「う〜ん、確かに一理あるとは思うんだけど、根拠が弱い気がするなぁ。みんなはどう思う?」
「確かに都知事はここ十数年、公の場に立っていない。俺たちはメディアを通して顔を見るだけだった。しかしそれは――」
「アンドロイドだからですわ」
鏡が言いかけたところを権田成美がかぶせる形で言う。
* * *
2040年の都庁倒壊は経済的ダメージや死傷者数など、史上最悪のテロ事件と言われている。その影響は目に見える数字だけではなく、人々の精神に深刻なダメージを刻み込んだ。
それはシンプルに【恐怖】だ。
まだ捕まっていないNFNF、その後何度も襲撃される日本政府。東京都で暮らす人々はテロへの恐怖心をズルズルと引きずって、ここまで過ごしてきたのであった。当時都庁の立て直しは最優先事項ではあったが、またテロを企てるという可能性が残っていただけあって、誰も都知事選に立候補しなかったのだ。
そんな中、開発されたアンドロイド都知事「アズマミヤコ」。
当時最先端のAI技術を用いて作られたアズマミヤコは人以上に優秀とまで言われている。そして彼女はどれだけテロ組織に狙われ殺されても、バックアップデータから情報を共有し、数日後には新しい「アズマミヤコ」として復活できるという理由から「永遠の都知事」と呼ばれる様になったのだ。
そして、テロに屈しない完全防衛をコンセプトにした行政特別防衛区域を黄山区日の出町に新たに設け、永田町を中心とする政府機関及び、新東京都庁はここに移ったのだった。
その後、東京都の西側へ企業が次々移転し地域が発展を遂げるなか、商業における一極集中の図式が崩壊し始める。旧中心地域である23区と新しい西側の発展地域の対立が顕著となったところで、その緩和を狙いとして都と政府は新たな行政区画を制定した。
それが現在の特別9区である。23区を解体し、市町村はできる限り残す形で新たに東京都全体を九色で区分けしたこの制度は抽象的な色のイメージと地域性を重ね合わせられた秀逸なエリア分けとだと一定の評価を得て現在に至る。
<元23区エリア>
黒川区(旧新宿区、旧港区、旧千代田区、旧中央区、旧文京区、旧豊島区)
赤川区(旧墨田区、旧江東区、旧江戸川区、旧台東区、旧葛飾区、旧足立区、旧荒川区)
橙川区(旧練馬区、旧北区、旧板橋区)
青川区(旧世田谷区、旧渋谷区、旧杉並区、旧中野区、旧目黒区)
紫川区(旧品川区、旧太田区)
この五つの区は旧23区であり、通称「川区」と呼ばれている。
桃山区(八王子市、昭島市、日野市、多摩市、町田市)
黄山区(日の出町、あきる野市、青梅市、羽村市、瑞穂町、福生市)
茶山区(奥多摩町、檜原村)
この三つの区は通称「山区」と呼ばれている。
緑野区(国立市、国分寺市、府中市、三鷹市、調布市など17の市)
山区と合わせた四つの区を「野山区」と呼ぶこともある。政府としては地域の対立を避けるために「色」をテーマに九つに分けたものの、未だ地域住民の差別意識や対立意識は根強く残っている。
* * *
「しかし永遠の都知事を狙うことになんの意味があるんだ? 何度も復活するんだからテロのターゲットにするのはあまり意味がなさそうに思えるが」
鏡慎二が疑問に思う。
「都知事が公の場に姿を表すこと自体が珍しいということも一つの理由なんですが、僕は今回、NFNFがある種のパフォーマンスとして事件を起こすのではないかと考えています」
「パフォーマンスか……色祭りという知名度が高くて学生が中心のイベント。その若い命を一気に消滅させて世界を震撼させるとか?」
「ちょっと! そんなやばい想像すんのやめてよ! 怖なるやん!」
葛城に怒る東雲あかり。
「今回、僕からみなさんにお願いしたいことがありまして。それはテロを一緒に防いでほしいということではなくて、僕が大会の最中にテロに対する動きをする可能性があるという点をご理解いただきたくて」
「権田財閥は六条太地さんの話を聞いて、警備体制をより強くする方向で調整をすることにしたのですわ。青川区で開催の色祭り、しかも開催地はゴンダブルースタジアムですわ。権田財閥の威厳に関わる大問題ですわ。たとえ可能性が低くても万全の対策で進める意向なのですわ!」
「なので皆さんには僕が競技中に突然いなくなった際に、フォローに入っていただければ嬉しいのですが……よろしいですかね?」
「そういうことね。りょ〜かい! 安心してくれて構わないよ」
「あぁ、俺たちに任せておけ。たとえそれが競技で大きく評価を落とす原因になったとしても、テロを防ぐことの方が大事だ。六条は何も気にする必要はない」
葛城の爽やかな笑顔と鏡のキラリと光るシルバーのメガネフレーム 。
どちらも太地には眩しく見える。
「ありがとうございます!」
「六ちゃん、テロリスト捕まえたら私んとこにおいでや!テロップかましてやりたいから」
東雲あかりがお尻を叩いて笑っている。
深刻な相談は無事にまとまった。意外にも最後全員で笑いながら。




