第25話 お泊まりでゲーム製作
「先日の概要に沿って話を進めますわ。第三回、東京都区別対抗学戦祭の開催日時は11月11日……
約一ヶ月後となるのですわ」
(11月11日。あの都庁爆破テロと同じ日……)
先日の月人が話してくれたテロの事を思い出す太地。
『今は余計なこと考えるのはやめようぜ』
月人が太地に釘を刺す。
「そうだね」
「場所は我が権田財閥が誇る最高の競技場『ゴンダブルースタジアム』ですわ。規模も国内最大、設備も最新鋭の投影システムや空調––」
「お嬢、一応確認なんだけどさ、ホームでやる利点として事前に主催側が行おうとしている競技の具体的な内容とか情報あったりしないの?」
スタジアムの自慢話を完全スルーして葛城聖司が確認する。
「青川区代表としてのプライドもありますわ!現場やエンジニアは主催側と話を進めていますが、そんな卑怯なことはしないのですわ!」
「はいはい〜すみません〜」
かる〜く謝る葛城。
「これまでの二大会とは違って、今回は防衛というかなり重いテーマですわ。政府がどういう意図でこのテーマにしたのかは不明ですわ。ただ、競技の内容がシリアスなものになることは間違いないですわ」
「間違いないわ〜。東京のイベントで爆破テロの日と同じって。絶対やばいやん」
東雲あかりが同調する。
「まず、団体課題Aの避難シミュレーションに関してですわ。
課題内容は競技開始時に発表なので今は詳細を検討しようがありませんわ。ただ、テロ、火災、地震といった予期せぬ災害や事件に巻き込まれたときの対応力を審査する課題、と想定できますわ」
「僕もそう思います」
「そうだな……今はそういった災害に対する避難から対策までの知識を備えておこう」
鏡慎二も概ね同じ考えのようだ。
「団体課題B、これが今回集まった一番の目的ですわ。」
「課題内容は10月10日に各区担当者に通達、ってあるからね」
葛城が補足を加える。
「これですわ。爺や、みなさんにお渡しして」
「かしこまりました。お嬢様」
執事が資料を配る。
「お嬢……後ろにある立派なモニターやプロジェクターは使わないのかな?」
『葛城!よく言った!』
月人が合いの手を入れる。相当気になっているみたいだ。
「資料にある通り、団体課題Bの戦術シミュレーションは当日イベントに参加する学生や一般客に体験してもらうゲームの制作ですわ。ある程度は想定内ですわね」
鮮やかに葛城の問いをスルーする権田。
みんなが頷く。
「そうやな〜。結構楽しそうやん」
東雲が興味を示す。
五人で主催者から送られてきた資料に目を通す。
* * *
団体課題B:戦術シミュレーション
【課題背景】
我が国の近年における大小様々なテロ、窃盗や傷害暴行事件等の発生率は非常に高くなっている。もはや一般の市民も自衛が必要な社会となりつつある。
【課題内容】
自衛隊や特殊部隊の隊員だけでなく、一般の市民も活用できるような訓練用プログラム(以降「ゲーム」)を提案すること。提案するゲームのシチュエーションに制限はない。
(例:護衛用としての一対一訓練、狙撃訓練、格闘訓練、チーム戦もしくはそれ以上の規模の戦闘を想定した訓練など)
【提出物】
各ゲームの内容を基本的な図面や画像及び文章によって説明された資料を提出。技術詳細図は必要ない。提出資料にフォーマットは特にないが、PDFデータにて提出すること。またファイルサイズの規定もない。
注1)実現可能かどうかを技術的に考える必要はない。
注2)資料をもとに主催者側の技術チームでゲーム化する。
注3)実現する際に実体化、VR及びVRMMO化等の判断に関しては各チームで希望を出しても良いが、最終的には主催側で決定する
各チーム、必ず二種類のゲームを提出すること。
【提出期限】
2057年10月11日 23:59までに主催事務局へメールで提出すること。
提出期限を守れなかったチームが本大会失格になることはないが、得点は獲得できない。
【開催日までのスケジュール】
10月11日
ゲーム資料2点を提出
10月13日
主催エンジニアからの質疑及び製作の方向性確認
10月30日
ゲーム試作版の確認と改良検討
11月05日
ゲーム制作完了とその内容確認
11月06日
主催エンジニアより運営局へ提出。
11月07日〜10日
会場での各ゲームのレイアウトと機材設置及び最終調整
注1)会場でのレイアウトは運営局の方で決める。チームの要望は受け取らない。
【採点方法】
審査委員と採点に参加する観客が2時間以内で視聴、体験した内容をもとに採点する。
【得点形式】
それぞれのゲーム単体での評価をするものとし、審査員採点と観客投票の合計を得点とみなす。
審査員採点:
各ゲーム50点満点(審査委員10名が各自5点満点で評価する)
観客投票:
1位 50点
2位 20点
3位 10点
注1)観客投票の4位以下は得点なし。
注2)観客は1人1票の投票権を持つ。
注3)参加者もゲーム体験は可能だが投票権はない
本要項に記載されていない部分に関しては各チームの判断で進めるものとする。
* * *
「なるほどなぁ〜。2種類のゲームを作るのか。これはどのチームも方向性が被っちゃいそうな気もするね……」
「そうだな。観客参加による得点も少なくないから無視できないだろう。そうなると一般受けしそうなVR系のゲームがいいのか?」
葛城と鏡が意見を言う。
うんうん、と頷く周りのメンバー。
『お前はどう思うんだよ。太地』
月人が問う。
「特にまだこれっていう意見はないかなぁ。とりあえず先輩の意見を聞こうと思う」
太地には、この要項が示す真の意図が何かを理解できていないように感じていた。
それはなんとなく奇妙というか、違和感のような何か……
「これ提出期限厳しくない? 間違いじゃない? 今10日の16時半やし……明日提出ってありえる?」
東雲が疑問を抱く。その表情を見て権田成美がリーダーとして意見を言う。
「そうなのですわ。すごくタイトなスケジュールですわ。 そこで皆さんに提案ですわ。
今からこの部屋で明日まで資料作成の準備を行う、というのはいかがですわ?」
「「「 ハァ⁈ 」」」
当然驚くメンバー。
「青一校と青三高にはすでに連絡を入れましたわ。欠席にはなりません。お食事や寝室、着替えなどは人数分準備してありますわ!みなさんのご両親にもすでに連絡済みですわ。なので安心して欲しいのですわ」
「「「……」」」
ドヤ顔で安心しろと言う権田ではあるが、メンバーが拒絶しているのはそこではなかった。この権田邸に一泊……なぜか嫌だ。メンバー全員がそう思っていた。
しかし、NOとは言えない外堀を綺麗に埋められたこの感覚……
「お嬢……やり過ぎなんじゃ……」
「……俺もそう思うんだが……リーダーの決定だ……」
「鏡っち、どこまでストイックなん? 意味わからんわ。まぁ、成美ちゃんの家にお泊りっていうのも面白そうではあるけど……やっぱり家には帰りたいわ」
『さすがは権田成美だな。やることが全部一線を超えてて引いちまうぜ』
「……正直、僕は今帰りたいよ。絶対母さん喜んでOKしたんだろうなぁ」
皆が愚痴る。
それぞれが不満を一通り軽くぶつけてみたが、権田スマイルで完全スルーされるメンバー四人であった。




