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Bloody Code  作者: 大森六
第二章 東京都区別対抗学戦祭編

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16/121

第16話 地獄のトレーニング

「ブハァ〜〜〜〜〜ハァハァ……」


 息切れする太地。


『よし、もう一本いくぞ』


「……ハァハァ……ちょっと待って……休憩……」


『イヤイヤさっき休憩したろ。 ステータス、あんまり上がってねーぞー』


(く〜〜。ムカつくなぁ。覚えてろよ……)



 有言実行中の太地。こんなに自主練で往復ダッシュするとは想像していなかったが。



『はい! 立って! いくぞ〜 3、2、1 ダッシュ!』



 登校前の朝、お昼休み、下校時の夕方に月人考案のスペシャルトレーニングメニューを実施してから10日が過ぎた。


 当然ステータスが劇的に変化するはずも無い。





『よ〜し!夕方のメニュー終了だ! 帰って飯だな』


「……了……解……」



 3日坊主という言葉があるが、今の太地には全く問題なさそうだ。まだまだやる気がみなぎっている。


「夕食終わった後、またあれを試してみよう!」


『オッケー!いいぜ!』




 * * *



 食事を終えて部屋に戻ってきた二人。


 立った姿勢で太地が右腕を伸ばす。左手を右手肘あたりに添えて姿勢を整える。目を閉じてゆっくり集中力を高めていく。


 月人は太地と重なるほどの近い距離を保つ……


 ……


 ……


 パッと目を開けて、太地が唱える。



possession(ポゼッション) …… type(タイプ)arm(アーム)>」



 その瞬間、ブワッと月人が太地に吸い込まれる。



「……ッックソッ!落ち着け!」


 太地の身体全体がプルプルと震えだす。どうやら月人が()()()()()()()様だ。



『もう少し右腕に意識を向けてみろ! 右腕のみリンクさせるイメージだ』


「グォォ……」


『もう少し! えろ!』


 太地の意識の中で月人が叫ぶ。



 ……!!!



 ピクリと右腕が動いた。



「月人……腕を動かせるか……?」



『もう少しだ! もう少しでいける!』



 ババババッ! 


 右腕が猛烈なスピードで動き出す。



 太地の表情はというと、額はびっしょりと汗をかき、目は見開き、歯を食いしばって何かに堪えている様だ。



『あと15分! 頑張れ』



「うおお!!!」



 ……



 そしてなんとか目標時間の30分をクリアした。


 部分的にpossession(ポゼッション)することになんとか成功した二人だった。



「ハァハァ……クソォ……まだダメだな……」


『上出来じゃね〜か?30分持てば十分だろ?』



「簡単にできて、余裕で意識を他にも向けられないと実戦では使えないって、月人もわかっているんでしょ? 終わった後だけじゃなくて、乗っ取られている最中も必死だよ」


『そうだなぁ〜。もっといい方法を考える必要があるよなぁ……まぁ改善はできると思うぞ』



 そして二人でまた念話での話し合いが始まる。これもトレーニングだ。


 現状でBloody Codeになんらかの刺激を与えて質を高める方法はわかっていない。

 しかし、確実に言えることは念話や乗っ取りといったことを日常で行うことで太地の身体に意識の「慣れ」が生じるはず。


 二人の結論であった。


 そして、念話だと、うるさいと早紀子に怒られる心配もない。




 そして議論は続く。


「あの時、月人はどういう状況なの? 僕の身体の()に出られる感じ?」


『……出れそうな気がするなぁ。 俺の右腕と太地の右腕が重ならなくてもpossessionできそうだったな。 おそらくローダーの身体の一部分ということが、それを可能にするんだろうな……』


「うん……僕もそう思うな。 身体全体を意識する『全乗っ取り』と身体の一部分を意識する『部分乗っ取り』とでは、エンドサーフェイスを介して伝わり続けるBloody Code の数量的なもの、若しくは効率的なものが変わってくるんじゃないかな……」


『それがつまりBloody Codeの質の向上につながったということだな!』


「イエス!」


 ここ数日、太地と月人は自分達なりに仮説を立てては実験を試みるという身体的にかなりハードなやり方で進めていた。


 それはアイドルとローダー間の可能性を探りつつ、繰り返すことの慣れによる太地のステータスの数値アップにも繋がることになった。



 そして更に10日程、時間が経過した……



 * * *


 ――9月24日 放課後――



 太地と月人は青川区の総合運動公園に来ていた。時間が遅いせいか周囲に人の姿はなかった。


「ふう〜〜」


 目を閉じたまま、スーッと息を吐いてまた息を吸う。


 呼吸が整ってきた……



「月人、やるよ!」


 太地が声をかける。



『おう!』




「「possession…… type <arm>」」


 ブワッと太地の前髪が一瞬浮き上がって、ゆっくりと降りてくる。

 カッと見開いた太地の目が明らかにいつもの太地と印象が違っていた。

「目力」という表現では足りない何か……



 そう、月人だ……



 しかし月人は太地の右肩付近にいる。かぶる位置ではなく1mほど離れて浮いている。 


 それなのに、月人の鋭い眼差しが太地の目に宿しているのは明らかだった。


 そして太地が右腕に意識を向ける。


 右腕の雰囲気が変わった。まるで何かを帯びているかのような、触れると弾き飛ばされそうな、そんな強さを感じる。



 月人が真剣な眼差しで前方30m先のフラッグに狙いをつけている。


 両足は肩幅よりやや広めで、若干腰を落とす。


 右肩を後ろへ引き左肩は前へ出す。そして左腕はフラッグに向かってまっすぐに伸ばす。


 右手は握りこぶしを作って掌を上に向け、右腕を曲げてゆっくり後ろへ引いていく。


 空手の正拳突きを繰り出す寸前のような構えだ。


 しかし右腕が放ったのは突きではなく、ライフルの弾だった。



 ドン!!



 太地(月人)がくり出した右ストレートは大きな音と共に30m先のフラッグを直撃し、吹っ飛ばした。



 更にそのままの状態で太地は機敏きびんに動いてみた。防御姿勢や蹴りなど右腕以外の身体とのバランスを一つ一つ確認するかのように。



 しかし、その動きは決して格闘家のそれではなく、あくまで太地の動きを多少良くした程度のモノだった。


 時間はすでに1時間を経過していたが太地はまだpossessionを持続していた。


 そして、その十分後、やっと解放したのだった。



「フゥ〜。疲れた〜」


 座り込む太地。



『大分精度が上がってきたな。もう武器としては問題ないだろう』


 月人が珍しくめる。



『ただ……、右腕が完全に孤立しているな。身体の他のパーツと全く動きが合わない。新しいダンスかと思ったぞ』


 上げてから落とす月人。しかし太地は気にもしない。



「そうなんだよなぁ。 僕のステータスの低さと今の月人では差がありすぎて、連続的な動きがなかなかできない。」



『まぁ、追い追い解決していけるとは思うぜ。今は素直に()()の完成と一時間超えのpossessionを喜ぼうぜ!』



「……そうだね。帰って夕食食べよう! もう腹減っててやばい!」


『よ〜し!せっかくだからここから自宅までランニングな』




「……まじ? 勘弁かんべんしてよ……」




《シンクロ率 25%》



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