第120話 12月25日の本当の狙い
「おい、お前らちょっと黙れ! ザワザワうるさい。一つ一つ整理していくからちょっと都庁の件は後回しだ」
小松部長が場を落ち着かせてから改めて太地と月人に問う。
「24日はこんなところでいいと思うか?」
あらためて地図を見て確認しながら月人は答える。
前回23日の御土居の円から一回り小さい円に重なる地域、中心から時計の短針がさす方向。その2つの条件にすべてが当てはまっている。
『あぁ、いいと思うぜ。俺も同じ意見だ』
「僕もそう思います。24日は」
頷いて、話を先に進める小松部長。
「司令室と総務課は、24日は爆破だけで終わるんじゃねぇかって見解だ」
「黒鬼が襲ってこないという意味ですね?」
「あぁ、そうだ。昨日俺から御土居の戦いをまとめて報告したんだ。不破のババアが総合的にみて24日は宍土自身の休息のためだろうってよ」
「ん? それってどういうこと? 時間とって休みたいならテロの日時をコントロールすればいいじゃない。どうして今日24日に動き出す必要があるわけ?」
片奈がふと疑問に思う。
「宝生、説明よろしく」
「……承知しました。まず、NFNFもおそらくGSDが富士山のアジトを発見したことに気づいています。おそらくトンボさんのスキルをなんらかの方法で感知したのではないかと。つまり、犯行日時を先延ばしすると、GSDにアジトを制圧されるリスクが出てきます」
「なるほど。だから先手を打って、いろんな箇所に仕込んでおいた爆弾を撤去させることに時間を使わせようって魂胆か」
高杉も納得する。
「実際、我々もそう簡単に富士山へ向かうことができません。機動課は完全崩壊、調査課はすでに23日の爆弾撤去作業で疲労困憊です。
さらに政府からはNFNFがいると明白な証拠がない状況で、世界遺産の富士山へ自衛隊を率いての爆撃等の攻撃はしかねる、という返答がきておりまして。 完全にGSDが秘密裏に潜入して敵を叩くという選択しかできない状況です」
『なんか納得できるが、ちょっと政府も丸投げ感がすごいよな』
「どうも気分が悪いですわ。ワタクシたちがこれまでNFNFの脅威から誰を守ってきたかをわかっていないようですわ」
「……えっと、話を戻します。犯行予告が映像ではなく、文面というのもNFNFの状況に変化があった、つまりこれまで通り映像を送りつけることができず、仕方なく文書でメディアに送ったとも考えることができます。更に犯行予告の文面には『聖なる夜、我々NFNFよりささやかな光の祝福を!』とあります。これは爆破を示唆しているのではないかとの見解でした」
「この点は僕も不破総司令と同じ意見です。おそらく黒鬼部隊も出てこないと思います」
『セカンドブレインもそう言ってるぜ』
小松部長が立ち上がる。
「よし! それなら話が早くてちょうどいい。24日についての対処は俺たち探索課は関与せずにスパイ疑惑のない調査課ローダーと防衛庁側の爆弾処理班にお願いするとしよう。宝生、探索課も同意したと司令室に伝えてくれ」
「承知しました」
小松部長は歩き出して地図の前で立ち止まる。そしてシーカーにある疑問をぶつける。
「なぁ、この犯行予告の25日の内容、なんか気にならねぇか?」
小松部長が再び予告文の25日部分をピックアップする。
12月25日 09:15 聚楽第
そして我々は真の目的を果たし、関東大一揆の終結とする。
「おい、太地。この文章構成を見て何か違和感というか、思う事はねえか?」
太地も同じことを考えていたので、疑問に思わずサラッと質問に答える。
「二つ、気になることがあります。まず、聚楽第が本当に永田町なのか。そして時間はいつ襲撃されるのか。次に、25日に襲撃を受ける場所は二箇所なのか、それとも……」
『三箇所あるのか……だな』
頷く太地。小松部長も概ね太地の意図を理解したようだ。
「なんで? 二箇所じゃないの? 09:15の方向ってことで東京新都庁だよね? それから聚楽第よね? つまり永田町。 二箇所よね?」
「真の目的っていうのが三箇所目ってことかしら……」
千鶴がボソッと言ったその言葉が正解だった。太地はどうしてもこのワードが気になって仕方がなかった。
「あぁ、確かにそう取れなくもないけど……でも聚楽第で政府をぶっ飛ばすのが真の目的なんじゃないの?」
片奈も完全に納得しているわけではない。どうにもモヤモヤするこの状況を解消すべく、太地に直球で質問する。
「いや、その考えが違うとは断定できません。あくまで僕の考えなんですが……」
「「「いや、その『あくまで僕の考え』のおかげで、これまでピンチを乗り切ってきたからここでのインパクトもすごいんですよ」」」
周囲からツッコミを受け小松部長が大笑いする。そして太地は苦笑いの後、説明を始める。
「宍土って、おそらく全てを指示していると思うんです。昨日の光の砲撃は無理して三発打ったようですが、ぶっ倒れることを想定して部下に犯行予告の指示を出してから三発目打ったのかなと。もしくは体力回復しながらも指示を出しているのか……
何れにしても、あの文面もしっかりと宍土の意図が込められていると僕は考えていまして」
ふむふむと静かに聞くシーカー達。
「文面の改行、句点、読点や使う言葉とその表現方法といった隅々まで何か意味を持たせていると感じました。つまり、24日は爆破場所を示す時刻表記の間に読点【、】が打たれています。しかし、25日にはそれが無い。
つまり、東京新都庁と永田町は同時に攻撃されるか、09時15分に永田町を攻撃するという意味ではないかと思っていまして」
「はぁああ! 読点の有無でそこまで大きな意味を持たせてるの? 細か過ぎない⁈」
「確かにね。片瀬さんの気持ちも良くわかるなぁ。個人的には太地君のいう新都庁と永田町を同時に攻撃っていう線が強いように思えてきたな……GSDに都庁を守らせておいて、隙ができた永田町を一気に叩く。それが真の目的みたいな……」
高杉も自身の考えを述べる。千鶴と成美は太地が話を終えるまで静観しているつもりだろう。一言も喋らない。
「そうですよね……聚楽第……政権を持った者が居る場所であり、現在でいうところの日本政府。そしてその象徴が永田町で、現在もまだ多くの政治家が永田町を離れていないですから間違いなく、聚楽第は永田町を指す言葉だと僕も思いたいのですが……」
『太地は何が引っかかってるんだ?』
「少し前にも小松部長と話したけど、新撰組って幕府を擁護して、尊王攘夷派を取り締まっていた組織だよね」
『あぁ、そうだな』
「その時、小松部長も言っていたけど、今の動きだと真逆でその守るべき幕府を倒そうとしている状況になる。その時僕はNFNFが日本政府を【ダミーガバメント】と呼んでいたことから、政府を排除してNFNFによる幕府統制、つまり『農家による政治』を実現したいのではないかと思っていたんだ」
『いや、別におかしい推理ではないだろ』
「あぁ、俺も覚えてるぜ。太地の言っていることは筋通ってるだろ。いまでも特におかしいと思わないが、それがどうしたんだ?」
小松部長も月人に同調する。
「宍土が新撰組をオマージュした理由……他にあるかもしれません」




