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Bloody Code  作者: 大森六
第二章 東京都区別対抗学戦祭編

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第12話 権田成美

午後最後の授業が始まろうとしたその時、青三高の校門の前にリムジンが停まった。


(なんだ……学校にリムジンって、まるで第一高レベルだな。)


「ていうか……月人つきと。あの日本では無駄すぎる長さのリムジン……どっかで見たことない?」


『あぁ……最近な……』


「小さな女の子とタキシードを着たご老人執事(しつじ)の組み合わせ……に、もう一人青い制服の女子学生?」


 嫌な予感しかしない太地と月人。とりあえず、窓から姿を隠す様にせる。


 念話で緊急会議が始まる。


「僕を探しに来たのかな?」


『だろうな。ちなみにセカンドブレインは95%イエスと言ってるな』


「……」


「早退した方がいいか?」


『あれ見ろよ。リムジンで校門をふさいでるぞ。裏門よじ登って逃げるには人目に着きすぎるだろ』


「授業が始まったら、教室に入って来ないよな」


『あのキャラクターで一般ルールが通用すると思うのか?

 万引き野郎にわざわざ説教するやつだぞ』


「確かに」


「来た場合のために月人はリングに入っておくべきだな」


『あぁ。あの青い制服の女はローダーの素質有りだな』


 ふわっと月人がリングに入る……いや、ドロンという表現が正しいかもしれない。


「念話はできるよな?」


『あぁ。問題ない。恐らくあの女の前でも気づかれないはずだ』


「了解〜」


 ……


 授業の開始のベルがなる。


 歴史の授業が始まるが太地たちには一切内容が入って来ない。


 もうすぐ黒船来航並みのインパクトが二年二組にやってくる。

 ですわの大砲をぶっ放すペリーに、対抗策など無い。


 ガラガラ!


「「失礼するのですわ!」」


 教壇の先生にぺこりとお辞儀する。唖然とする先生。


「わたくし、青川区第一高等学校3年の権田成美ごんだなるみと申しますわ!」

「妹の権田クルミなのですわ!」


(ダブルで来たよ……)


 二年二組があっという間にジャックされる。もはや誰も抵抗できない雰囲気だ。


 教科書を立てて隠れる太地。


「人を探しているのですわ!(ですわ!)」 


『ハモリ始めたぞ、あの()()()()()()


 執事が先生に事情を説明しているようだ。学校に許可はとってあるとでも言っているのだろう。


 教壇に立った()()()シスターズ。誰にも止められない。


「クルミ、このクラスに例の()()()()()ヒーローはいらっしゃるのですわ?」


「成美お姉様、今から確認してみるのですわ!」


「爺や!お願いしますのですわ!」


「承知しました」


『もはや文法どうでもいいんだな』


 多分月人はリングの中で笑っている。


 執事がゆっくりとまっすぐ太地の方へ向かってくる。答えがわかっているかのように。


「失礼致します」


 教科書を取り上げられる太地。


「あっ……」


「成美お姉様! いたのですわ! あの方で間違いありませんわ」


『そこは間違い無いのですわ!だろ』


 どうでもいいツッコミをする月人。


 ですわシスターズが太地のもとへ歩み寄る。


「こんにちは!ですわ!」


 クルミが太地に話しかける。


「……どうも……ハハ」


 引きつる笑顔の太地。


 仁王立ちする妹の真後ろで仁王立ちする姉。


「あなたがぶっ飛ばしヒーロー? 

 ちょっとイメージと違って……普通に()()()()()なのですわ」


(ん? ちょっとディスったよね?)


「はい、成美なるみお姉様。彼は男らしくてたくましいハンサムと優しい弱男よわおとの二重人格なのですわ! 私たちが探しているのは前者のたくましいハンサムの方ですわ!」


(あれ〜? かなりバカにされてない?)


『……ププッ』


「おい、月人……笑うな」


『すまんすまん、面白すぎてやべ〜』


「よろしければ少しお時間をいただきたいのですわ!」


「いや、でも授業が……」


 ちらっと先生を見る太地。


「六条君、ちゃんと()()にしておきます。戻って来なくても大丈夫なの()()()



「……はい」



 * * *


 初めてリムジンに乗っている太地。


(なんで僕は車に乗って移動しているんだ?)


『まぁ、仕方ねぇな。この()()()の流れに身をゆだねてみようぜ』


「ご同行いただき、誠にありがとうございますですわ」


「ねぇ、そのですわって……る?」


 クルミに直球でツッコミを入れてみる太地。


「そろそろ、()()()()に変わってもいいのですわ」


 スルーされる太地。


「……今どこに向かっているのですわ?」


 真似する太地。ちょっとハンサムと言われて、イラっときているのだろう。


「「権田家ですわ!」」



 * * *



 リムジンが停車する。

 青川区内、旧世田谷区田園都市エリアに位置する邸宅の巨大な門の前だった。


 門が自動で開く。執事が守衛しゅえいに軽く会釈えしゃくしながら通過する。


『庭の中を車が走るってなかなか無いよな』


 月人はすでにエンドサーフェイスから出ていた。権田成美が自分を認識できないとわかったからだ。ローダーにも能力差があるのか、それともローダーではないのか……



「広すぎだね。豪邸過ぎ。ドーベルマンとか放し飼いしてそうだな……」


 クルミが自慢気に話し始める。


「ここが権田家の庭ですわ〜。少々狭いと私は感じているのですわ」


「ヘェ〜。そうなんだね〜」


「目の前の建物が権田家の本邸なのですわ! 普段、こうして客人を招くことなんて滅多にしないのですわ!」


『今回も招かなくてよかったのですわ』


 月人がぼやく。


「……ププッ」


 太地、笑いをえられない。


「何がおかしいのですわ! あなたにとって名誉なことなのですわ!」


 クルミがつっかかる。


 リムジンが玄関前ロータリーで停車する。

 巨大噴水が勢いよく噴き出して虹が見えている。


(よくあるお金持ち豪邸のワンシーンだ……)


 巨大吹き抜けのエントランスホールを抜けて、客間に案内される。


『この客間だけで太地の家の2倍はあるな』


「だろうね。掃除大変そうだなぁ」


 ゴウジャスにクリスタルで飾られたシャンデリアの下、デカすぎるソファーに座り、客間のインテリアを眺めながら思わず本音がでる庶民の太地。 

 月人は飛び回って遊んでいる。


 そして午後三時のティータイム、と言わんばかりのケーキと紅茶のセットが出てくる。


 都内高級ホテルのメニューにありそうなタワー状に飾られたスイーツに心踊る太地。


「おぉ〜。すごい!」


「どうぞ召し上がってください。いくらでも食べていただいて構いませんわ」


 権田成美ごんだなるみがティーカップを持ちながら話す。一口飲んでその香りを楽しむ姿はまさに令嬢だ。


 対照的にスイーツからできるだけ頑張って上品に食べている太地。


「美味しい!」


 とても満足そうな表情をしている。


『これが令嬢と庶民の差だな……』


 月人が思う。


 太地の横でクルミも同じようにスイーツにガッツいている。


「美味しいのですわ〜」


『これが姉妹の差か……クルミ、意外とこっちよりだな』



 一口飲んで、ティーカップをローテーブルに置き、一呼吸おいて成美が話し出す。


「六条太地さん、改めまして、妹クルミを助けてくださった件、感謝の気持ちを申し上げますわ」


 ぺこりと頭を下げる成美。つられてクルミも頭を下げる。口周りはクリームだらけだ。


「いや、本当にお気になさらず、妹さん、無事でよかったです」


「何かお礼をしたく……」


「いやいや、本当にお礼は必要ありませんから! このスイーツと紅茶で十分ですから」


「それはダメですわ。権田財閥の長女として何かしらの……」


 成美の熱弁が続く。どうしてもお礼をしたいらしい。


「わかりました。 それではヨントリーのハイボール500ml缶を家に送っていただけますか? うちの母親が好きでして。僕が飲むわけではありません」


「まぁ、お母様がお飲みになるのですね。わかりましたわ!……爺や!」


「はい、お嬢様」


「のちほど、六条家の住所をお聞きして、届けておくように。もちろん《《瞬達》》で」


(……シュンタツってなんだ?)


「実は本日お越し頂いたのはこのお礼の件だけではないのですわ」

 ティーカップを再び手に取る成美。


『太地、アイドルのことやBloody Codeのこと、何も話すなよ。お前の身に危険が及ぶ可能性もあるからな!』


 念話で月人が注意を促す。


「わかった。気をつける」


 成美が話を切り出す。


「六条太地さん、クルミが言う『ハンサムな男』、私にも見せていただきたいのですわ」


「……それは……」


 返答に困る太地。


「片手で触れただけで、男性一人を吹っ飛ばすなんて、常人ではできないことですわ。 あなた……何か力を隠していらっしゃいますわね?」


「……ええっと……はい……そうですね。まぁ隠していたつもりはないですけれど」


『あの時、()()もビックリしてたしな』


 月人がニヤニヤと太地を見ている。


(そもそも、お前が元凶だろ!)


「わたくし、どうしてもその力が見たいのですわ! お望みのものを言っていただければなんでも差し上げますわ! だからその力を見せて欲しいのですわ!」


 困る太地と月人。


「……どうして、権田さんはそこまでして僕のその姿を見たいのですか?」


「成美で結構ですわ。妹の恩人であるあなたは私の大切な恩人なのですわ」


(一学年上の先輩なんだよな。しかも青一高か……)


「えっと、じゃぁ、成美先輩はどうしてそこまでして()()()のですか?」


「先輩……いい響きですわ〜」


『……変なキャラだな』


 権田成美が続ける。


「わたくし、これまでの高校生活において【一番】にこだわってきましたわ。 

 区立高は青川区第一高校に入学し、ここまで学年トップの成績を納めてきたのですわ!」


「……それは……とても優秀な方なのですね……」


 太地には全く興味のない境地だ。


「なんでも()()でないと気が済まないのですわ。それが権田家の使命でもあるのですわ!」


『なんとも……しょうもない使命だな』


 月人も共感していないようだ。


「ところが……この二年間、一度もその使命を果たせていないことがあるのですわ」


 勢いが落ちる権田成美。


「……と、言いますと?」


「あの大会だけはどうしてもトップの成績を取れないのですわ」


「あの大会といいますと?」


 一呼吸置いて、権田成美が口を開く。



「東京都区別対抗学戦祭。通称、【色祭り(いろまつり)】」




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