第110話 光が……
「調査をした二箇所、山梨県庁と群馬県庁に爆弾が発見されました。同じ仕掛けではありますが、それぞれ20を超える箇所に設置されていました。おそらく栃木県庁と茨木県庁にも仕掛けられているものかと……」
《小松のおっちゃん、県庁に爆弾が仕掛けられてるぞ! そっちの処理は頼んだぞ》
《わかった! 月人、助かったぜ》
小松部長が不破総司令に連絡し、総司令より防衛庁へ繋げる。スパイ疑惑が掛かっている調査課には対応させることができないため、防衛庁から爆弾処理を実行してもらう計画を昨日すでに整えていた。
権田支部のローダーが山梨県庁を、防衛庁が残り三箇所の県庁の爆弾を撤去することになった。
月人は甲府市役所屋上でNFNFのローダーがやってくるのを待っていたが、何か不安を拭いきれないでいる。
『あまりにも順調に進み過ぎている気がする……』
今回の宍土の狙いは実は県庁だった。それは正しいだろう。そしてそれら県庁を『御土居』と位置付けているわけだから爆破は必要事項のはず。
そろそろGSDが犯行予告のカラクリを解くと予想して、あえてその流れに乗る。つまり、市役所への爆弾設置だ。これを内密に処理できたと誤解しているGSDを前に、県庁舎がドカンと爆破する。
NFNFとしては悪くない筋書きだ。しかし、それもGSDが処理するとは考えられないか? いや、宍土ならそれも想定するだろう。調査課スパイの情報撹乱があってもGSDなら見破って爆弾を処理するかもしれない。
(もしも俺が宍土ならどう動く?)
月人は行政の象徴の一つである県庁を狙う方法を模索する。
そして、セカンドブレインが導き出した答えに月人は言葉を失う。
『もしも、これが実際に行われたら……周辺への影響も少なくねぇ』
《高杉! おっちゃん! 聞いてくれ、県庁はまだ狙われる可能性がある!》
《月人か? 話を続けろ》
《僕も片瀬さんもトンボも話を聞いてるよ》
《悪いが、今すぐ甲府市役所へ来てくれねえか? 市役所へNFNFのローダーが来る可能性も十分にある。来るならおそらく三番、四番隊だろう》
《そりゃあ、もちろん構わねえが、その時お前はどうしてるんだ? 月人》
小松部長も高杉たちも当然まだ不思議がっている。
《……時間がねぇから端的に話するが、県庁は狙撃される可能性がある。それもおそらく周囲の山のどこかから》
《狙撃⁈ 建物を狙撃ってどういう意味? 人間を暗殺するように言ってるけど》
思わず高杉がリアクションしてしまう。
《勿論、俺の取り越し苦労ならそれでいいんだ。 だが、もしも俺のセカンドブレインの読みが当たったら……街自体がヤベェことになる。だから今は急いで甲府市役所へ来てくれねぇか?》
《……高杉、今すぐ飛んで行け! 必ず間に合わせろ》
《……そうですね。了解しました! 月人。ぶっ飛ばして30分以内に着くようにするよ》
《すまねぇ。助かる! 俺はしばらく市役所の屋上から周辺状況を探る。そのあと爆破予告の時刻前には県庁に向かう。市役所のことは任せたぜ!》
《了解!》
* * *
12月23日 8:40―― 山梨県庁屋上
月人は県庁の建物屋上から射線が通る方向を見定めていた。人ではなく建物を狙撃とは一体。月人も半分信じられない気持ちでいるが、宍土将臣ならそれを実行するはずだ。
『銃ではなく、大砲……いや、そんな優しいものでは無いだろうな』
ブツブツ独り言を言いながら、南側に聳え立つ富士山の方をじっと観て、しばらく静止する。
『直感だが……おそらくこの向きだな。鬼ケ岳辺りから狙ってくるか?
宍土将臣、テメーが本当にこの作戦を実行するなら正真正銘のイカれ野郎だぜ』
そして高杉から連絡が入る。
《甲府市役所に到着し、配置についた。月人、こっちは心配するな》
<助かるぜ。終わったら合流するから全員死ぬなよ》
そして、時刻が8:56を迎える……
《NFNF赤鬼ローダーが現れました! 人数は――》
リンク共有の念話も聞こえないくらいに月人は集中して深く潜る。右手は開いて腰を少し落として脚は開き気味。まるで強烈なパンチを打ち込むような構えだ。
そして月人が予想していた方角からキラリと何かが一瞬輝く。
けたたましい爆音と共に風と埃が巻き上がる。次の瞬間月人は右ストレートを光に向かって打ち込む。
『ッ!! バカでかすぎる! ヤベェ』
直径5メートルはあろうか……光線、いや光柱が県庁に向かって一直線に襲いかかる。月人が右手でなんとか押し留めて力の均衡を保っているが、気を抜けばそのまま押し込まれそうだ。
『ぬあぁ!! こんなもん県庁だけじゃねぇだろ! 周りの建物にも被害出るじゃねーか』
月人が必死で抑えているが、まだまだ光柱は収まりそうに無い。それどころか、徐々に月人が押し込まれ始めた。
『こん畜生が……ぐぁぁ……どっかに……飛んで……』
『行きやがれ!!!!!』
全力で右アッパーを打ち込むような力強いスイングで光の柱を空へ向かって解き放つ。見事に軌道を折り曲げて飛ばし、ギリギリのところで県庁を死守した。
『はぁ……はぁ……はぁ……太地、すまねぇ』
その頃、GGスタリオンに乗って甲府市へ向かっていた太地は突然苦しみだし、血を大量に吐いた。
「え! 大丈夫! 六条君!」
「太地さん! 今すぐ医療室へ!」
『……月男が限界だったのか? どんな敵だよ……』
(月人……、無事なのか? ロードする距離が遠すぎる。そして無理をし過ぎたみたいだな……僕も結構鍛えていたつもりだったけど、こりゃダメだ……月人……死ぬなよ)
太地が自分の身より月人を心配して倒れてしまう。
『待てこら! お前が気を失ったら、オイラもヤベェだろ!』
太地が気を失いそうになったところへ、六太が素早く回復薬リポメタンMを3本、太地の口に突っ込んで一気に飲み込ませる!
「ブハァ!! 危ねぇ! マジで落ちるところだった! むっちゃんサンキュー」
《おい! 月人! 大丈夫か⁈》
《……あぁ、なん……とか……な》




