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Bloody Code  作者: 大森六
第二章 東京都区別対抗学戦祭編

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第11話 くだらない理由

「おはよ〜」


「おはよ〜!」


 登校時の校門前はにぎやかだ。 遅刻を意識してか、急いで教室へ向かう生徒や友達としゃべりながら歩く生徒、朝練を終えて教室へ向かう運動部の生徒……


 元気で明るい高校生らしさがあふれるさわやかな朝の光景だ。


 太地たいち月人つきとを除いて。


 重い足取りを引きずって、教室の席にやっとたどり着く太地。


「おはよ……どうしたんだ? なんかあったのか?」


 片桐慶太かたぎりけいたが声をかけてくれる。


「……おはよ。 いつもと同じだよ。ちょっとガックリきてるだけ」


 力なく返事する太地。


「おっ、おう……そうか。 まぁ、なんとかなるから元気出せよ!」


 興味なさそうに励ます慶太。


「……ありがと」


 机にゴロンと倒れこみ、窓の外の景色をぼんやりと眺める太地。

 しかしその目に見えているのは景色ではなく、昨晩の月人との会話だった。



 * * *


 ―― 昨晩――


『太地……お前青三高から青一高に編入とかできたりするのか?』


「ん? どうしたの急に。無理だけど。特別区立高校は編入学制度なんてないから」


『ですよね……』


「どうして? ジスドって何?」


 髪の毛はないが、頭をかきながら月人がゆっくりと話し出す。


『政府特務機関(G()S()D())。通称【ジスド】。非公開だから一般人は誰も知らないが、政府の特殊任務を受ける組織があるんだ』


「ヘェ〜、そんな組織があるんだね。対テロリストとかそういった位置付け?」


『そうだな……任務は色々とあるんだが……何が重要かというと、ジスドの組織構成員は、そのほとんどがローダーだ』


「え? ローダーの組織……」


『あとな……あくまでこれは俺の……「月人」としての予想なんだが……』


 月人が重い口を開く。


『お前の父さん、六条勝規はジスドに所属していた可能性が高い』


「え! 父さんが? でも民間の研究所に勤めていたって母さんが……」


『ジスド所属は国家の機密事項だ。家族にも言えねーよ』


「あ……そうなんだ……」


 太地は月人の考えを察した。そして、恐らくその推理は正しいと太地も納得した。

 ここまで自分が体験していることすべて、父親がつくりだしたものだとしたら納得するしかない。 


 行方ゆくえをくらましたことすら筋が通ってしまうし、架空の組織に狙われるという状況もいよいよ現実味を帯びてきた。


「セカンドブレインから得られた情報ってこと?」


 落ち着いて話を続ける太地。


『そうだ。ただ、ジスドに在籍していたという記録があったわけじゃねえ。あくまで状況から俺が立てた推論に過ぎない。いや、問題は()()じゃないんだ、太地』


 黙って月人の話を聞く太地。

 ただ、恐らくもう状況を察したのだろう。そんな表情をしている。


『探偵になって父親を探すってお前が言っているのを聞いて、最適な進め方を考えていたんだ。俺なりにな』


 一呼吸ひとこきゅう置いて、月人は続ける。


『太地はジスドに入るべきだ』


 わずかに頷いた様に見える。


『ただ、ジスドは非公開の組織だ。募集なんてしね〜し、組織に入るにはある条件を満たす必要があるんだ』


「それが都内の任意の区立の第一高を卒業することなんだね?」


『そうだ。ジスドは大学卒業は採らない。これはセカンドブレインから得られた確かな情報だ。恐らく年齢に大きく関係しているんだろうが……詳細はわからねえ』


「……うん」


『まぁ、可能性は他にもあると思うけどな!』




 * * *


 窓の外の景色が不必要にボヤけて見える。それが一段と綺麗に思える。


(父さんは僕が第一高に行くと想定したんだろうな……

 ジストに行くことも想定していたんだろう。やってしまった……)


「家から一番近い高校って……バカだった。 なんてくだらない理由だ」


 フォローしようが無い、自業自得っぷりである。


 それだけに月人も声をかけることができなかった。



「六条! この複素数の方程式、x−1で割った時の余りはどうなる?前にきて解いてみなさい」


 数学の教師が若干怒り気味に太地に言う。授業開始から一時間、ずっと窓の外を見ているのだから教師としては不愉快だろう。


(おい! 太地! 先生に呼ばれているぞ)


 慶太に言われてやっと気がつく。


「はい……」


 トボトボと黒板の方へと歩いて行く。チョークを持ってスラスラと数式を解いてしまう。


「……できました」


「……正解だ。席に戻っていい」


 悔しさを押し殺している教師など、今の太地にはどうでもいい存在だった。


(どうしようもないのか……)


 ボ〜としていても仕方がないので、あれこれ考えることにした太地。


「月人、何か方法を考えよう。きっと何か方法があるはずだ」


 念話で話しかける太地。


『……そうだな。俺もちょっと考えてみるわ』


 ……


 昼休みに教務センターへ行って編入学の話を聞いてみたが、職員の回答はNOだった。 どれだけ優れた成績を残しても、それはもはや『第三高内における優秀な生徒』に過ぎないとの事だった。第一高校側から受け入れた事例は過去に一度もない点からも可能性は極めて低いとの回答だった。


 屋上でいつもの様に庇の影に座り込む太地。


「うん……希望が少し()()()()()な……」


『はああぁ? 今の流れでどこに希望なんてあんだよ?』


 月人の広いおでこに「?」と書いてありそうな勢いだ。


 ゆっくり間を空けてから返事をする太地。


「校則で縛られているわけではないって事さ……」


「都内の自治体の条例でも特に教育における編入学の可否に触れたものはなかった。

 つまり、単なる暗黙のルール。もしくは第一高側のプライドだったり、PTAからの強い反発とか、どうせそんなくだらない理由でしょ」


 太地の意図を察する月人。


『なるほどな……圧倒的な何かを第一高側に直接見せつけることができれば可能性が出てくるってことか』


「そう。前例がなくてもどうしても欲しい存在に僕たちがなればいいんだ」


 小さな光の道筋を作り出せたのかどうか。それすらあやしいが、可能性が0%では無いなら賭けてみる価値はある……


『やってみようぜ!』





 キーンコーンカーンコーン……



 二人の気持ちが高ぶってきたところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。

 アナウンスの知らせと共に。





 《シンクロ率22%》



第11話を読んでいただき、ありがとうございました。


政府特務機関 government secret department でGSDジスドです。

細かいですが、政府特務課にしようか迷いましたが、割と大きめの組織というイメージだったのでなんとなく「機関」にしました。


さて、太地が無事にGSDへ入ることができるかどうか。今後の展開にご期待ください!

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