第107話 御土居決戦前夜
12月22日 10:00――ファシリティstella 探索課執務室
犯行予告にある23日がいよいよ明日に迫り、探索課で最終確認のためのミーティングが開かれた。
「明日の防衛任務についてだが……高杉からの報告を聞いてくれ」
『なんか今日おっさんの様子が変だな?』
「確かに。ちょっと元気ないね。小松部長、何かあったのかな」
高杉が関東地図を背にしてテロ襲撃地にマークされた赤いシールを指しながらテキパキと話を進める。
「07:12 の伊東市には機動課の第四班と五班が対応し、07:42 の沼津市は田中大佐率いる第一班から三班で対応する。獅子王部長も沼津市で防衛の指揮をとり、任務終了後、08:56 の甲府市へ、ヘリで向かうとのことです」
『それじゃあ甲府市が間に合わねえだろ。沼津市での戦闘がそんなに早く終わるはずねえぞ』
「月人、落ち着けって。俺も高杉もそれはわかってる。まずは高杉の話を聞いてくれ」
小松部長が冴えない表情をしていたのはこれか……
獅子王部長を説得できなかったのだろう。
「えっと、10:44 の前橋市には太地、月人、権田、天月、六太で対応、12:16の宇都宮市には高杉、片瀬、トンボで対応し、防衛成功した後、太地チームで13:21の水戸市へ、高杉チームで14:54の銚子市へ回る予定だった」
「予定だったというのはどういうことですわ?」
高杉がため息をつきながら、事情を話す。
「小松部長も言っていたように、獅子王部長が意見を変えなくてね。このままだとどれだけ早く機動課が沼津市を防衛しても、間違いなく甲府市は襲撃されると思う。時間が無さ過ぎるから」
小松部長も補足する。
「今回、爆破は調査課によって事前に撤去される予定だが、NFNF襲撃部隊がどう出てくるかはわからねぇからな。役所の所員にはGSD司令室から上手く御達しがいっているはずだから当日出勤しないとしても、それを知った襲撃隊が八つ当たりで周辺地域に危害を加えたり、建物を燃やしたりする可能性もある」
「なるほど。だからフォローで僕らは甲府市へ向かうということですね?」
「そうだね。一つずつズレてもらう感じかな。高杉チームは前橋市に向かうよ」
「今回は1時間程度で刻んでいるのがなんとも難しい判断になりそうですわ」
成美の言葉に高杉が返す。
「そうなんだ。一つ潰れると隣にも影響してしまいそうなバランス。逆に一つ防衛できれば続けていけそうな気もするけどね。なんとも微妙な距離なんだよ」
「……月人、あらためて確認なんだけどよ、赤鬼の八番隊は機動課より強いと思うか?」
『おっちゃん、それは機動課の全てを知らねぇ俺にはわからねぇよ。
例えば獅子王部長は高杉をぶっ飛ばせるか? 確か獅子王のおっちゃんのスキルってパワー系だったよな?』
高杉のスキルで作られた強固な壁をぶち破るようなパワーがあるかという意味だ。当然小松部長もわかっている。
「壁は壊せると思うぞ。戦って高杉に勝てるかどうかは別だが。良くも悪くも正面からぶち当たって敵を討つことに情熱を燃やしている人だからな。素直過ぎるんだ。嵌められたとわかっていてもそのまま突き進むタイプだ」
『なるほど……他の隊員はどうだ? 隊長クラスもいるんだろ?』
「田中大佐がいるな。同じくパワー系のスキルだ。ただ、戦闘力では高杉にもトンボにも明らかに劣る」
『……うむ』
月人は少し考えるが、答えは厳しい二択しかなかった。
『相手が七番隊、八番隊を機動課に当ててきたら、獅子王のおっちゃんたちにも勝機は6:4くらいであると思うぜ。ただ、甲府市を機動課が守るのは無理だ。更に言うと……』
小松部長が覚悟した面持ちで月人の話を聞く。太地たちも思わず緊張で固くなってしまう。それくらい、月人の読みは正確なのだろう。
『もしもNFNFが赤鬼の上位部隊を機動課に当ててきたら、機動課は100%全滅する。部隊の人数に関係なくだ』
やっぱりかと言わんばかりの表情で小松部長がわかったと返事する。高杉も同様だ。おそらく二人はそのことも踏まえて獅子王部長とここ数日で何度も話し合ったのだろう。
「月人、それってさ、今回は時間の早い都市から強い隊を当ててくる可能性があるってこと?」
片奈の問いに頷いて答える。
『俺らがここまでの戦闘で得られた経験をもとに判断しているように、NFNFも俺たちのここまでの動きをもとに判断して作戦を立ててくるはずだ。どの隊が弱点かはもう明らかだろうぜ。 宍土が弱い部隊から戦わせるというルールをこの関東大一揆に課しているとするならば話は別だが、それを信じていいという確証はどこにも無いしな』
「しかも、今回は御土居と表現されたキーポイントとなるような戦いだからね。ひょっとしたら黒鬼も出てくることだって……」
一瞬重い空気になりそうなところで、アイツが喝を入れる。
『おい、お前ら! 今から暗くなってどうすんだ! もう明日の動きはわかったんだから帰って飯食って寝るぞ! 今日は余計なこと考えずに身体を休ませて明日に備えろ!』
「六太さん、素敵なお言葉ですわ。でも天月さんに優しく抱かれながらイカツイ顔されても説得力が無いのですわ……」
『ん? あぁ、これか? おポメ様抱っこしたいって千鶴が言うからよ』
「おポメ様抱っこ……むっちゃん……かわいい」
「そのくだり、もうお腹いっぱいっスよ」
「「「ハハハ!!」」」
* * *
12月22日 15:00―― 六条家のリビング
久々に午後の時間をリビングで過ごす三人。炭酸水を飲みながら太地は昨晩の事を振り返る。
【属性】の出現と月人たちが話していたが訳がわからず説明を求めた。二人の話を整理すると、どうやらステータスの各数値によって、属性が生まれる可能性があるそうだ。水とか火とかそういったよく中学生男子が夢見がちな力だ。
ちなみに、片奈はすごく特化したタイプのようで、間違いなく闇属性らしい。
その才能があるからこそあの闇夜刀というスキルを得たのだろう。
(僕の属性か……なんかちょっとカッコいいなぁ)
『何ニヤニヤしてんだよ。ちょっといつも以上に不細工だぞ。オイラちょっとおやつ食べるからな』
「いつも以上に不細工って……ひでぇ……」
『おい! そういやポメ太、お前何で食べられるんだよ?』
サクサク六角ポメンキーをボリボリ食べる六太。そう言えば月人にまだ教えていなかった。
『しょうがねぇなぁ……属性エネルギーに変えて吸収するんだよ』
『なっ!! その手が有ったか! やるじゃねぇかポメ公!』
月人がこれまでで一番嬉しそうな笑顔で台所に向かう。取り出したのは早紀子のハイボールだ。
「ウ……ウメェ! 美味過ぎる! なんだこれ! これが……酒か……」
月人がこれまでで一番感動している。そして隣でボリボリスナック菓子を食べているポメラニアイドル。何なんだこいつら……もっと主人にも説明しろよ……
「むっちゃん、どういうこと? 属性エネルギーに変えるって何?」
『ゲップ! つまりだな。オイラは光属性のアイドルだ。だからオイラは食事の際に料理を光エネルギーに変えて吸収してるってわけよ。その際にアイドルの体内に味覚情報も数値化すれば「美味さ」も理解できるってわけよ。もちろん、全てを属性エネルギーに変えているからウ○コとかは出ないぜ』
スナック菓子が空になったのでゴミ箱に捨てる律儀な六太。しかし、その食事を楽しめるようになったという機転を利かせた能力活用術よりも、実は光属性だったとか、そっちの方が重要な情報ではないのか……そしてそういう大事な事を一切話そうしない……月人はすでに5本目の缶を空けて初めてのハイボールを楽しんでいる。こいつら……
――ガチャ
「ただいま! ん? あれ、太地今日はもう帰ってるの?」
やばい! 早紀子が帰ってきた! 未成年の太地にとってこの状況は――
「今日は早いんだね。今から夕食の準備……ん?」
テーブルにはハイボールの缶が数本転がっている。そして早紀子には太地しか見えない。
「違う! 母さん、これは違うんだ! 僕が飲んだわけではなくて……」
「こら! 太地!」
(やばい!!)
「私のハイボールを勝手に飲むな! お母さんにとって毎日の生き甲斐なのよ!」
「えぇ⁈ 怒るところ、そこ⁈」




