第106話 奇跡の新薬ポメナインM軟膏
12月21日 18:30―― 権田支部トレーニングルーム
「みんなお疲れ様!」
高杉が元気よくトレーニングルームに入ってきた。殺気立つ天月千鶴を除いて全員が笑顔で返事する。
『おう、そうちゃん! やっときたな。待ってたぜ』
六太がロクドラックの店内から出てくる。
「ロ、ロクドラック? 何この4分の1スケールの駄菓子屋兼ドラッグストアみたいな謎の模型は?」
『いや、模型じゃねえよ。オイラの大事な店だ』
そう言って六太は全員を集合させる。
「むっちゃんどうしたの? また何かショートコントでもするの?」
『いや……しねぇし、したことねぇよ。今からオイラが作った新薬をお前たちに配るぞ』
「「「おぉ!」」」
『ポメナインM軟膏だ』
「「「……」」」
「またそういうギリギリアウトみたいなネーミングですわ……」
『センスが無いよな、ポメ公』
「ポメナイン……素敵」
『そんなにポメられると照れちまうぜ』
「いや、褒めたの天月さんだけでしょ」
様々なダメ出しと誉め殺しで始まった新薬紹介だが、最後は度肝を抜く効果をみせることになる。
『簡単にいうと身体の回復薬だ。体力とかではなくて、身体の回復薬』
「それって、怪我した箇所に塗ったら治るってことですわ?」
『その通りだ。まぁ、百聞は六見に如かずだ。とりあえず……太地、片奈ちょっと来い』
太地たちが六太に近づく。
「何? むっちゃん」
『太地、ここに左腕を出せ』
「ん? こう?」
『そうだ。それで、片奈は……』
「うんうん……」
『闇夜刀で太地の左腕をスパッと切り落とせ』
「できるかボケ!」
『あぁ? しようがねぇなぁ……じゃぁオイラが切るぞ、太地』
「させるかボケ!」
『じゃぁ効果を見せられねぇだろ! どうすんだよ! オイラと三日月マンはアイドルだから意味ねえんだよ!』
「いや……いくら六太さんでもいきなり腕切り落とせはちょっと……怖くて誰もできないですわ」
『……』
スッと千鶴が前に出てくる。
「むっちゃん……私の腕切っていいよ」
「「「いや! あんたの忠誠心と愛情が怖すぎ!」」」
全員でツッコまれるが、千鶴は本気で志願している。六太を信じているのだ。
『いや……千鶴、こういう役は一応男のチェリー太地に任せておけばいいんだって。お前を実験台にするのは流石のオイラもおポメ心が痛むぜ』
「むっちゃん……その通りなんだけど……言い方ね……言い方ってあるよね。あと、飼主の僕が腕を切られることに関して、君のおポメ心は傷つかないのかな?」
『グチグチうるせえなぁ。太地はオイラの言うことが信用できねぇのか?』
「さっきからお前態度悪すぎだろ! チリ毛もっと焼いてチリチリにするぞ!」
『やって見やがれ! このヘタレが!』
珍しく太地と六太が強めにジャレ合っている。そこに月人が割って入る。
『俺が千鶴の腕を切ってやるよ。ポメ公、お前は薬の準備しとけよ。切った後早めに繋げてやれよ』
トレーニングルーム全体がシーンとする。
『珍しく協力的だな?』
『問題ないって確証があるんだろ? だったら早くやるぞ。俺なら千鶴が痛みを感じることなく切れるからな。千鶴、それでいいな?』
「うん。大丈夫」
「いやいや、流石にやばいって! 一旦他の方法――」
スパッ!!
千鶴の左腕が月人に切り落とされる。あまりの早さで見えなかったが落ちた腕を六太が拾い上げて素早くポメナインM軟膏を切断面に塗って千鶴の身体と繋げる。
不思議なことに繋げた箇所が淡く光り出し、傷口が塞がってしまった。
「「「つ……繋がった」」」
『千鶴、動かしてみてくれ。なんともないだろ?』
切られたとは思えないほどに左腕は自由に動いている。成美は腰を抜かして立ち上がれない。太地と片奈は驚きと共に千鶴の腕をペタペタ触って確かめている。
「すごいね。これ。本当にくっ付いた……もはやむっちゃんのスキルは人智を超えすぎていて理解しようがないな。」
高杉が理解を諦める、つまり六太に対する最大の賛辞ということだろう。月人はもっと冷静だ。
『とりあえず、今回は切断面に空気で圧迫したから血は流れなかったが、実際の戦いでは、かなり流血もするし、身体に穴が開いたりもするだろう。そんな状況でもこの回復薬は使えるんだな?』
『あたりめぇだ。修復効果があるから問題ねぇ。だが注意点が2つあるんだ。一つは死んでいる身体を直すことはできねぇ。あくまで本体が生きていることが重要だ。二つ目はローダーの攻撃で喰らった傷のみ回復できる』
「え? それって、一般人が銃で撃った時に傷ができたらそれは治らないってこと?」
『そうだ。傷を付けた敵ローダーのBloody Codeを傷口からスキャンニングする。同時に傷口からお前たちシーカーのBloody Codeも読み取る。2つの情報を同時解析して修復するってわけだ。ちなみに腕切られた状況で切られた腕が無くなっても本体側の患部にこのM軟膏を塗ればちゃんと新しく生成されるぜ。時間は多少かかるけどな』
「マジっスか⁈ 六太さん、天才っス! 前からすでに天才だったけど」
トンボと片奈が六太の頭を撫でて褒めちぎる。月人は何も言わない。ずっと六太を見つめている。
そして六太はペタペタと二足歩行で千鶴に歩みよる。
『怖い思いさせて悪かったな。でも安心しろ。千鶴がこんな怪我をする状況にはならないから。オイラがついているからな!』
「むっちゃん……ありがとう……そしてやっぱり可愛い!」
これまで以上に強くハグされて苦しむ六太。それを見て笑う高杉たち。
『いやぁ、六悶着あったが、なんとか無事にお前らに薬の力を信頼させることができたぜ。今後のNFNFとの戦いに絶対必要となるから大切に使えよ!」
「「「了解!」」」
* * *
12月21日 21:00―― 六条家
家に戻って部屋でくつろぎながら三人でステータスを確認することにした。
それにしても久々に三人一緒に太地の部屋にいる気がする。それくらい六太のお泊まり率は最近高い。一体誰のアイドルなんだか……
「ステータスオープン!」
緑に光るウィンドウが現れて現状の太地のステータスを表す。
【動 action】力30、敏210、回復72、気力64、体力80、伝104
【察 sense】視93、聴67、触31、知80、嗅20、味14
【心 mental】喜悦60、怒気25、無心85、精進186、悟211、感性244
シンクロ率 35%
『数値がかなり上がったな。トレーニングで鍛えるべきところは十分上がったように思えるが……太地のmental、ちょっと異常だな』
『オイラをロードしているから悟と感性が爆上がり、月男(月人のアダ名)をロードしているから無心と精進が上がっているってところか? それにしてもシンクロ率が35って……』
月人と六太が太地のステータスを観て何やら話が盛り上がっている。何故こうなっているのか、このステータスで何ができそうか……
『この調子なら……そろそろ【属性】ステータスが出現してもおかしくないかもな』
「……属性?」




