第105話 見えてくるNFNFの動き
12月21日 15:00――権田支部司令室
トレーニングルームでスキルアップの訓練中に小松部長から緊急連絡が入った。訓練中のシーカー全員支部の司令室に集まり、急遽リモート会議が始まった。
「訓練中に悪いな。さっき調査課より連絡が入った。宝生、あとよろしくな」
「……承知しました」
「調査課からの連絡によると、21日午後1時頃にタイマー式の爆弾が設置されたとのことです。場所は静岡県伊東市、沼津市、甲府市、前橋市、宇都宮市、水戸市、銚子市の市役所です。六条さんの分析通りの結果となりました」
パァンとハイタッチをする太地と月人。
『三島ではなく沼津だったか……とりあえず、襲撃場所が確定されただけでも十分な成果だぞ』
「月人の言う通りだ。太地、まずは良くやった! ただお前ら、これでNFNFのテロを防いだわけではないから気は抜くなよ。で……宝生、続けてくれ」
頷いて報告を続ける。
「各市役所に仕掛けられた爆弾の設置数は役所の規模に応じて異なり、いずれも爆破すると建物が崩壊する規模になるとの分析です。ただ、調査課の所員を総動員し、権田支部の臨時ローダー爆発物処理隊もご協力いただければ、22日の深夜からの撤去作業で十分に間に合うとの報告でした」
小松部長が権田成美に部隊を出せるか確認をとる。勿論、成美は了承し、速やかに爺やへ手配を進めるよう指示を出す。
『それにしても、よくこの短時間でここまで把握できたな。調査課のやつら、爆弾発見もお手柄だが、見つけてからの分析も早くねぇか?』
月人の疑問に宝生が答える。
「ここまでの爆破テロから得られた知見からの予測行動によるものです。設置場所や使用された爆弾等の分析からある程度の傾向がみられ、そこにフォーカスしてNFNFの動きを注視していたようです」
『役所全体ではなく、怪しいポイント(爆弾設置候補の場所)のみを見張っていたんだな。オイラほどじゃねぇがなかなかやるなぁ』
千鶴に抱かれて心地よさそうな六太が眠気を冷ますためにコメントする。本当に緊張感が全く無いポメだ。
「また、今回見つかった爆弾とその仕掛けもこれまでと同様のモノと断定できるそうです。設置場所や仕掛け方、爆破の規模なども含め特に変化はなく、どの市役所も同様とのことです。調査課の話では高い確率で役所内部による犯行との見解でした」
……市役所職員の中にNFNFが潜入している。シーカー全員に緊張が走る。
「待てよ……今できることか……あっ、これならある程度はNFNFの警戒から隠せるかもしれない」
太地がブツブツと独り言を言い始める。来たぞとばかりに皆が期待して太地の次の言葉を待つ。
「小松部長、一つ提案があります」
「お! 来たか。なんだ。言ってみろ」
「東京都庁爆破テロの時から今までずっと市役所で働いている年配の所員はNFNFではありません。あと多少確率は下がりますが、その後の何回か起こった永田町襲撃の際に既に役所に務めている人たちも、おそらくNFNFではありません。以前、総務課が所員を徹底的に調べたと不破総司令がおっしゃっていましたよね? 照らし合わせれば直ぐにわかると思います」
「そいつらにテロの襲撃場所になっていることを伝えて事前に出勤させないように総司令に言えってことだな? 話はわかるが、なぜ太地はそう思ったんだ?」
表情から判断するに他のシーカーも同じ疑問を抱いているようだ。
「確証があるかと問われたら、それは無いです。ポイントは永田町襲撃から潜伏期間があって今回の関東大一揆へ至っているということです。この奇妙な経緯を僕は『繋がっている事象』と考えています。ここまで大規模に襲撃する点、それらが犯行予告のような一つのロジックで構成されている点、宍土将臣がローダーとしての能力を開花させている点などを考察すればするほど、この大規模テロは練りに練られた計画だと思えてくるんです。
何度も失敗した永田町襲撃から学んで、じっくり策を練ろうと切り替えたのではないかと……潜伏期間に準備して人材を育て上げ、自身の力も十分につけて戻って来た」
「「「……」」」
『力を溜めている潜伏期間中、早い段階でこの関東大一揆の計画をまとめ上げて、各役所へ忍び込ませた。この計画を成功させるためにローダーを何らかの方法で作り上げて、修練に励んだということか』
「なるほど、だから都庁爆破時には想定されていないと思われたのですわ」
「スジは通っているわね。永田町襲撃以前もOKってのも確かに……」
成美と片奈は納得しているようだ。
『比較的若い連中、もしくは中年でも中途採用や他所からの移動で移って来た人間辺りはNFNFローダーのリスクが有るってことだな』
「……確証はないですが、どうでしょう? 事前に伝えるべき相手を判断するには良いかと」
小松部長は少し考えてから太地の提案にのることにした。避難を前日に行うべきか、当日か。当日ならパニックにならないためにどう進めるべきか。その判断を不破総司令に委ねればいい。まずは伝えるべきだと。
「多分まだ不破のババアは役所のトップに伝えていないはずだ……
よし。宝生、いますぐ総司令に会いに行くと伝えてくれ。超緊急を要する最重要案件だって言っておけば大丈夫だ」
「承知しました」
会議はここで終了し、小松部長と宝生が席を立つ。そして六太がテーブルの上に立ち上がって高杉壮一郎を呼ぶ。
『おい! そうちゃん、元気か?』
「むっちゃん、お疲れ〜。元気だよ。どうした?」
『今日こっちの支部に顔出せるか? 渡したいものがあるんだ』
「何? まさか……僕への恋文とか?」
「うわぁ。表現古過ぎ! キモい……」
片奈の厳しいツッコミにショックを受けるも苦笑いで隠す高杉。
『で、オイラの恋文を取りに来れるのか?』
「あ、本当に恋文だったの? じゃあ、2時間後にそっちに向かうね」
六太を再び強く抱きしめる千鶴。両手がプルプルと震えている。
「……私はもらっていない」
「いや、千鶴さん。恋文は冗談だと思いますわ……」
「……私も欲しい。むっちゃんの恋文」
「千鶴さんのむっちゃん愛が日に日に増している気がする……」
『あ、あぁ。まぁ色々あるんだろうな……本当にどうでもいいが』
念話で謎の三角関係をゆるくディスる太地たち。
『ったくよ〜。千鶴はまだわかってねぇな、《《おポメ心》》ってものがよ』
『いや、それ一生わからねーよ』
『あぁ! 三日月マンに言われたかないね』
イラっとする月人。しかし、最近の六太の活躍はなかなかのものだ。下手に手を出せない。
「ていうか、それをいうなら乙女心でしょ。むっちゃんって、ほんとオヤジギャグ多いよね?」
『おいおいおいおい! 太地頼むぜ! オヤジギャクじゃねぇよ! 【ネオダジャレ】だよ。超ZZZ世代にはこれが流行りなんだぜ』
「……いつの世代ですわ? ワタクシも知らないですわ。興味も無いですわ」
「むっちゃん……可愛い」
『全員集まるとカオスだな。太地、トレーニングしようぜ。もう少しで完成だからな。アレ』
月人がニヤリと笑い、太地もニヤリと笑った。




