第10話 ステータス
ヴン――
音と共に緑の光で描かれた画面が太地の目の前に現れた。3つのワードが表記されている。
【プロフィール】
【ステータス】
【スキル】
「おぉ! 格好いい! なんだこれ!」
『タッチパネルと同じ感じでタップしたりスライドしたりしてみろ』
ワクワクしながら指示通り操作してみる。
「え〜っと、プロフィール」
新たにプロフィールウィンドウが開かれた。
『彼女いない歴:17年』 と、やはり明記されている。
「……」
笑顔が消えて真顔になる太地。
「ねえ月人、このプロフィール情報っていじれないの?」
『無理だな。変えられねえよ。別にいいだろ、童貞だって』
「うるさいな〜!口にしなくていいんだよ!」
『ケケケ!まぁ気にすんなって!』
月人の口調が徐々にうつる太地。本人はまだ気づいていない。
ステータスウィンドウを確認する太地。数枚出てきたウインドウを適当にスライドしながら見ている。
正六角形のレーダーチャートが3種類、それぞれ【動】【察】【心】と書かれている。
「動」の6つの項目には『力』、『敏』、『回復』など記載されている。そこにいびつな形でチャートが描かれている。どうやらこれが現在の太地の能力値のようだ。
「う〜ん、なるほど……でこの【察】っていうのは『視』、『聴』、『触』……感覚のことか……」
またブツブツと一人で考えている。
それを嬉しそうに眺めている月人。
「この弱そうなチャートが僕のステータスってこと?」
『そうだ』
「鍛えられる数値もありそうだね。力とか」
『そうだな。努力次第でいくらでも数値はあげられる。「察」や「心」なんかも努力次第で変えられるぜ。太地なら。』
「どういうこと? 例えば【察】の項目にある『嗅』って鍛えようないよね?」
『普通は鍛えにくいわな。ただ、太地の場合はBloody Codeの質をより高めることで効果を上げることができるはずだ』
(出た……謎だらけのBloody Code……)
『今はあまり意識するな。お前でも全部いきなり理解するのは無理だ。一つ一つやっていこうぜ!』
月人は本当にいいコーチになれるなと太地は思う。
「それもそうだね! わかった!」
一旦、ウィンドウを閉じる。
「今日月人がやってた、いきなりロケットスタートして路地裏までぶっ飛んでいったでしょ。あれってスキルなの?」
『いや、あれは俺が普通に動いただけだぞ。別に何も特別なことじゃないな。
例えば……人間でいうちょっと速く走っている感覚と似たようなもんかな』
(まじ?速すぎなんだけど)
呆れる太地。
『正確に言うと、太地の弱っちいステータスと最高のBloody Codeを解析し、より効率と効果を高めて、より美しく顕在化されているのが【俺】ってわけ』
「美しくは余計だろ! あと、はっきり弱いって言うなよ!」
不満だが納得もしている太地。
(しかし、僕のBloody Codeってそんなにすごいのか……)
「……まぁ、速すぎるのは一旦置いておくとしてだ。
あの時、僕の襟を掴んで運んでたよね? 物体をつかめるようになったってこと?」
『いいツッコミだな!さすが太地だ。
あれは太地のステータスを壊さない程度の力を太地から借りたんだ。
Bloody Codeを介してな』
「え! そんなことができるの?」
『お前は特別だとだけ言っておくよ。他のローダーはおそらく無理だ。俺も遭遇したことないから、最新の状況までは正確に判断できない』
太地の表情が緩む。嬉しそうだ。
『あ、でも調子にのるなよ。太地自身はただの弱っちい人間だからな』
「……ったく……素直に褒められないのかよ」
ブツブツと小言が増える太地。
月人が無視して話を続ける。
『あの時は気づいてなかったと思うけど、あのチビッコを助けた後、わかりやすく身体にドッと疲労感が襲ってきたろ?』
「あ! そうそう! そこも聞きたかった。あのpossessionっていうのも!」
『あぁ、わかってる。 まぁ待て。』
頷く太地。
『まずは俺が現実世界でなんらかの効果(物理的にも精神的にも)を出す時、それは太地の身体に影響が出ると認識してくれ。その必要なエネルギーが多ければ多いほど、お前の身体への負担も増える。今の太地の身体だと、簡単に死ぬ』
(……死ぬ?)
『もちろん、俺はそこをコントロールしているから死ぬリスクはほとんどない。あくまで例え話だ』
「なるほど。でも言っていることはわかるよ」
「あのロケットダッシュとチンピラを蹴散らしたときのエネルギー消費の度合いがかなり違うってことでしょ?」
『そうだ。あのモブキャラを三人まとめて瞬殺することはできたが、それをしたら太地の身体も無事じゃ済まない。あくまでバランスを考えて吹っ飛ばした』
「いや殺そうとするな! 犯罪だからダメだぞ!」
『わかってるわ! 言葉のあやだろうが』
(いや普通にしそうだからビビるわ……)
「おっけ。とりあえず飲み物タイムだ」
炭酸水を開けて一気に飲む太地。
月人も満足そうだ。
『とりあえず、ローダーのステータスによって消費されるエネルギー量が違うって理解してくれ』
「わかった」
『えっと、possession (憑依)に関して話すか』
「頼むよ。気になってて」
月人はどう説明するかを考える。
『最初に伝えておくが、ローダーとアイドルの相互関係について、今ここで全部話すと太地が混乱するだろうから、やめておく』
「へ?」
『お前と俺、結構特殊みたいだから。詳しくはお前の父さんに聞いてくれ』
「……」
納得できていない太地。
『他のローダーとは違いすぎるんだ。誤解されても困るし。
この件はいずれわかることだから心配するな』
「わかった。月人なりに考えがあるんだな」
『サンキュー! それで……possession は一般的な技ではない。というか普通できない事なんだわ。アイドルがローダーの身体に憑依するというか、乗っ取るというか、主の許可を得て動かすというか……そんな感じなんだ』
『ちなみに名前も俺が命名した。厳密にいうと俺は霊でも魂でもないから憑依とは違うかもしれないが……あまりしっくりくる表現が他に見つからなかった。 』
月人が笑いながら話す。
「いやいや笑ってるけど、僕はあの時、幽体離脱した感覚だったんだ。死んだかと思ったよ!」
呆れる太地。
『その表現は言い得て妙だな。まさにそう。
あの瞬間、俺が太地の身体に乗り移って、太地の……【魂】とでも表現しておくか。
太地の魂がエンドサーフェイスを通してアイドル化したんだ。』
「おお!そんなことができたのか!」
『俺も試してみたかったんだ。初めての試みだった。うまくいったけど、その見返りに太地の身体は動けないぐらいに疲労に襲われたってわけだ』
「なるほどな……今日の出来事、全て腑に落ちたよ」
太地の表情からもそれが見て取れる。
『いきなり試して悪かったな! これからはステータスを上げることを中心に頑張って行こうぜ! そうすれば太地だったら楽勝でGSD<ジスド>に――』
月人が急に青ざめる……
(……ジスド?)
『あああああああ! しまったぁ!』




