第77話『影に潜む者』
【ボルテカ、悉命山裏麓にて】
「ここ?」
「はい、伝記にはここが記されていますが――」
見渡す限り緑色で、入口らしき物はどこにも見当たらない。
「ないじゃん!本当にそれ合ってるの!?」
エレナが強引にネオンから伝記を奪い取る。
「ちょっと……」
「どれどれ……」
エレナは伝記と記されている場所を交互に見つめる。
「……リリス、やっちゃって」
「りょ〜かい!」
「早まるな」
――
アルベドが口を開く。
「少なくとも、そこの先に空間があることがわかった」
アルベドは苔とツタに覆われた岩壁に指を差す。
「なんでわかるの〜?」
「俺の魔法は影だ。影のある場所くらい感じ取れる」
「そ〜なんだ〜」
私はゆっくりと岩壁に近づいて、軽く触れる。
「それじゃあさ、影に潜るやつで中に入れるんじゃない?」
「それだ〜!」
エレナがいい案を挙げる。
「すまないが、影移動は障害物に阻まれると強制的に弾かれてしまうんだ」
「そっか〜」
ふとネオンを見つめる。
「そういえばさ〜」
「……は、はい」
「なんで古代遺跡?に来たんだっけ」
ネオンはあちこち視線が暴れながらも、ゆっくりと口を開く。
「雷王竜。エレナ様が水王竜から聞いた名前です」
「ん?つまり遺跡の中に居るの?」
「おそらくは」
岩壁を見つめる。
「吹き飛ばしていい?」
「いやいや、ダメに決まってるでしょ!」
「でもどうするのさ〜!」
なにも解決策が浮かばずに、気づけば日が落ちていた。
「ひとまず野宿をしましょう。簡易的な拠点の設営方法は熟知していますので」
ネオンは落ちている木の枝を拾い始める。
「私たちも手伝おう!」
エレナもネオンに続いて枝を拾い始める。
「すまない、もう集め終わった」
「へ?」
いつの間にか、アルベドが大量の木の枝を抱えて、隣りに立っていた。
「エレナ、火は付けられるよな」
アルベドは腕を広げて、その場に木の枝の山を作る。
「炎魔法」
魔力が枝の山に触れると、勢いよく燃え上がる。
「ついでに魔力で囲いを作ってっと!」
「お〜!綺麗だ!」
赤と橙に輝く炎は大きく燃え上がり、開けた空間を照らす。
「ねえ、爆破してみてもいい〜?」
王家から返してもらった杖を焚き火に向ける。
「ダメに決まってるでしょ!杖をおろしなさいっ!」
「いいじゃ〜ん!」
エレナに捕まえられて、力なくその場に座る。
「ところでアルベドは?」
「アルベド様なら『狩りに行く』と言って森の中に出向きましたよ」
ネオンが森の中から顔を出す。
「そっか〜。ところでネオンはなにしてるの?」
「私は食べられそうな植物を探しています」
そう言って、キノコをたくさん抱えて焚き火の近くに下ろす。
「お〜いっぱいあるじゃん!」
全体的に紫がかったキノコの山を眺める。
「あのー、ネオンさん?」
エレナが静かにネオンの名を呼ぶ。
「はい、どうかされましたか」
「明らかにヤバそうな色してるけど、これ食べれるの……?」
再びキノコの山を見つめる。
「はい、おそらく食べられると思いますよ!」
エレナに笑顔を見せる。
「"おそらく"って、ネオンさん……生物学とか習った?」
「生物学ですか?習ってないですよ、ヌコちゃんくらいしかわかりません」
「まじですか……」
すると、アルベドが大量の肉を持って帰って来る。
「帰還した。適当に肉を集めてきた、知る限り全て食える」
「お〜!」
――
「ぷはぁ……お腹いっぱい〜」
山盛りの肉は気づけば、平地になっていた。
「そうね、なかなかいい味だったわ」
「そうだな。王家の人間の口にも合ったみたいだし」
ネオンに視線を向けると、口を大きく開けて、肉を頬張っていた。
「美味しい、美味しいです!」
「見た目によらず、結構食べるんだね」
「私と同じ身長なのにね〜(150cm)」
無事食事もでき、日は完全に沈んだ。
真っ暗な森の中、焚き火の近くで寝袋を広げる。
「それじゃあおやすみ〜」
「おやすみ、リリス」
「おやすみなさい、リリス様」
ゆっくりと、意識が世界から遮断されていった。
――
「みんな寝たか」
月光が、真上から差す。
「出てこい、監視しているのはわかっている」
一本の木に向かって声を上げる。
「なぜわかった。魔力は一切出していなかったのだが」
ゆっくりと木の陰から人影が伸びる。
「なんのようだ」
メガネが光る。
白い白衣を羽織っており、目の下には大きなクマが出来ている。
「あなたたちの情報を少し写したかったのでね」
「情報を写す?それはお前の魔法か」
「はい、とても単純な魔法です。脳の形を魔力で模ることで、脳内の情報を得るという物です」
魔力が不自然に漂う。
(なぜわざわざ能力の開示を……)
「まあ用はありません。もう済みましたから――」
男の手にはいつの間にか一冊の本を持っていた。
「な、まさか……!」
男は森の奥に向かって走り出す。
「逃がすか」
すかさず影に潜り追撃を開始する。
(油断した……だが、影の多い森の中ではアドバンテージは俺にある)
一瞬で男に追い付く。
ナイフを手に取り、そのまま影から脱出する。
「遅い、お前はすでに――」
「切断魔法ォッ!」
――第78話へ続く。




