第70話『鉄糸の結界』
「第一に、貴女たちは何者でしょうか」
低い声が響く。
「何者って、こっちのセリフなんですけど!」
「第二、貴女たちの目的は何でしょうか」
キキョウは私の言葉を完全に無視し、淡々と質問を重ねる。
「だからまずアンタは誰なのよ!」
「第三、生きるか死ぬか。全ての回答を簡潔に述べよ」
冷たい風が横切る。
「エレナ、話が通じない時。どうする」
「そんなのルインでもわかることよ……!」
すると、背後で男たちの悲鳴が響き始める。
「力こそ正義だァァァァ!!」
振り返ると、ルインが魔力の糸を引きちぎり、スーツ姿の男たちを蹴散らしていく。
「僕の鉄糸魔法を破壊するとは、中々力があるようですね」
キキョウは感心した様子もなく、ただ事実を確認するように呟く。
「褒めてくれてありがとよ!
……で? 次はどうすんだ、メガネの兄ちゃんよ!」
ルインが拳を鳴らす。
その瞬間、空気が一変した。
キキョウが地面に手を添えると、
地面、壁、空中――
至る所に張り巡らされていた無数の鉄糸が一斉に軋みを上げる。
「鉄糸魔法」
視界が一瞬で“檻”に変わる。
「なっ……!」
ルインが跳び退こうとした瞬間、足元から鉄糸が絡みつき、動きを封じる。
「うおッ……さっきより硬い!」
「魔力消費を最小限に、貴女の力を耐えられるように魔力を調整しましたので」
すると、ルインが突然苦しそうな表情を浮かべる。
「グッ……コイツ、マジの目だッ……」
「ル、ルイン……!?」
ルインを助けたいが、私の体を拘束する鉄糸魔法も徐々に締め付けられていく。
「くっ……このままじゃ……」
クロエの方に視線を向けると、無表情のまま地面を見つめている。
「クロエ、大丈夫……!」
「うるさい、いま対処方法を考えてるから黙って」
沈黙が王邸の庭を覆う。
「エレナ、魔法って撃てる。攻撃魔法とか」
「な、なんで急に……」
「いいから、基礎魔法で」
「う、うん。わかったわよ……!」
目を瞑り、魔力を鉄糸魔法に向けて溜める。
「炎魔法!」
地面に魔法陣が展開されると、鉄糸に向けて魔力が放たれる。
鉄糸魔法に直撃するが、破壊どころか、傷一つすらついていなかった。
「無駄です……その行為は帰って自分の首を絞めることになります」
すると、体を締め付ける力が強まる。
「ぐ……な、なんで……」
「おそらく私の矛盾魔法と同じ仕組み。衝撃を感知して、鉄糸が伸びようとする」
キキョウの瞳を見つめていると、とてつもない不安に駆られる。
「そうですね、貴女の言うとおりです」
「……な、なんでこんなことするのよ!」
キキョウは私の問いを無視して、私たちに近づき始める。
「どうしよう、クロエ……!」
クロエの顔を見つめるが、クロエは変わらずに明後日の方向を見つめる。
「このままじゃ死んじゃうよォォォォ!?」
「そう言われても、抵抗すればするほど締め付けられる。内側からの抵抗は不可能だね」
「そ、それじゃあ……」
冷たい風が背筋を凍らせる。
「話し合いか、死ぬのを待つか。まあ、アイツが話し合いできるとは思えないけど」
クロエがキキョウを睨みつける。
「さて、再び質問です。貴女たちは何者でしょうか」
「ッ……私たちは――」
「答えなくていい」
クロエが口を挟む。
「な、なんで……!話さないと私たち……」
「そうだね、話さないと。内側からの抵抗は不可能だから。そう"内側"からわね」
風の向きが変わった。
すると、キキョウの影が波打つように揺れる。
「ま、まさか……!」
キキョウの影から、勢いよくアルベドが飛び出して、キキョウの頭部を蹴る。
「ッ……」
鈍い衝撃音が響く。
キキョウの身体が横に吹き飛び、地面を転がった。
「アルベド……!?」
「ああ、たまたま近くに寄ったものでな」
上空からカルデラとルナも庭の地面に着地する。
「エレナちゃーん……!会いたかったよー!」
「んあーもう……!今はまだ抱きつくなぁー!」
ふと、キキョウに視線を向ける。
「瞬間移動か……」
「違うな、だがお前に教えるつもりはない」
アルベドはキキョウに近づくと、腰ポケットからナイフを取り出し、キキョウに突き向ける。
「お前は何者だ、なんの為にエレナたちを拘束した」
キキョウは一瞬黙り込むと、再び口を開く。
「いずれわかることです」
――
【???視点】
雷鳴が轟き、溶岩が煮え滾る。
地面には紫色に輝く魔法陣が、火山口を覆う。
「堕天の翼……」
魔法陣の1つ目の角に漆黒の魔力に覆われた魔物の羽を設置する。
「禍根の冠……」
かぶっていた王冠を外すと、宝石が紫色に光る。
その王冠を2つ目の角に設置する。
「罪人の指……」
いつの物かわからない、出所不明の指のような物を3つ目の角に設置する。
「破滅の器……」
黄金に煌めく聖杯を4つ目の角に設置する。
「死者の歌……」
古びた呪詛の書かれた紙を5つ目の角に設置する。
「ようやく、私は神になれる」
6つ目の角に立ち尽くす。
「殺戮の王……」
最後の言葉を唱えたと同時に、魔法陣が発光して空を覆っていた薄暗い積乱雲を貫く。
次の瞬間――
「うぐあァァァァッ……!!?」
紫色に煌めく稲妻が、体を覆い尽くした。
――第71話へ続く。




