第64話『Dream,Dream』
体が浮いているように感じ、体の至る所になにかが触れいている。
(ここは……)
目を開くと、一面が澄んだ青で染まっていた。
(さっきまで王邸に居たはずじゃ)
ふと周りを見渡すと、鮮やかな緑色の葉が私の体を包んでいることに気づく。
「葉っぱ……?」
立ち上がろうとするが、思うように体が動かない。
「あら、リリスちゃん?こんなところでどうしたの」
突然名前が呼ばれる。しかし、その声は聞き覚えがあるが、確かではなかった。
「カル……デラ……?」
視界の中に声の主が入った。しかし、その姿はカルデラでもなく、人間とも思えなかった。
「……だ、誰……?」
顔は黒く塗りつぶされていて、はっきりと顔を見ることは出来ない。
「あら、忘れちゃったのかしら」
柔らかな声で、顔を近づけてくるが、それでもはっきり見えなかった。
「これを見たら思い出すかしら?」
声の主は、私の体をその場から起こすと、そのまま私の体を持ち上げた。
「ほら、綺麗でしょ?」
「す、すごい……!」
視界に広まるのは、見渡す限りの雲海、ところどころから飛び出す木々。
「私たちの故郷、自然の大陸だよ」
「もしかして……!」
「ふふ、思い出したかしら。私は***ハルカ、あなたのママよ!」
そうだ、思い出した。私のお母さんだ。
なぜこんな大事なことを忘れていたのだろうか。
「会いたかったよ〜!」
「ふふ、私もよ」
他のことを忘れている気がする。けれど、今はこれだけで幸せ――
「ス様……リリス様!」
「お母……さん……はッ!」
ふかふかのベッドの上。
ネオンの声で目を覚ます。
「あれ、お母さんは……?」
ネオンは安堵の笑みを浮かべて、私の体を優しく叩く。
「夢ですよ、相当会いたかったのですね」
「そっか〜夢だったのか〜……ところでここどこ?」
さっきまで玄関の扉に居たと思ったら、突然木の上に居て、更に今はベッドの上に居る。
「ここは私のお部屋です。ゆっくりしてて大丈夫ですよ」
「そうなんだ〜」
すると、部屋の扉がゆっくりと開き、扉の端から少女が顔を覗かせる。
「あ、あの時の子じゃん」
「あぁ……ドリーム、どうしたのですか」
ネオンが少女の元に近づくと、少女は両手を広げる。
「抱っこですね」
ネオンは少女を抱き上げると、私の隣に寝かせる。
「この子は私の妹のドリームといいます」
ネオンはドリームの頭を撫でながら、静かに説明をする。
「ドリームはレフォーシティ家の末っ子で、無口な女の子です。ですが、魔法は恐ろしい能力なのです」
ネオンは今にも寝そうなドリームの腕を優しく持ち上げると、ドリームの手のひらを向ける。
「ドリームの手で触れた相手は強制的に睡眠状態に陥ります。さらに、その人が一番の思い出を再現することが出来ます」
「そうなんだ、じゃああの夢はお母さんとの思い出の再現だったんだ」
ドリームは目を瞑り、眠りについた。
「ドリームが眠ると、能力は解除されて目を覚まします。リリス様が目を覚ましたのは、ドリームが先程まで眠っていたからですね」
「へ〜それにしても、ドリームはいっぱい寝るんだね〜」
「はい、まだ14なので魔力消費に体が追いついていないようなのです」
ネオンの言葉を聞いて、ドリームを見つめる。
「14……?」
ドリームの姿は幼児で、身長も100cmあるかどうか、顔立ちも幼子でとても14歳には見えなかった。
「はい、ドリームは幼い頃から容姿が全くと言っていいほど変わっていません」
「そっか。ところで王様たちは?」
私の問いにネオンは柔らかい表情で口を開く。
「お母様の説得で処刑は免れましたよ」
「そうなんだ、じゃあお礼を言いに行かないとね!」
「そうですね、行きましょうか」
ネオンは私の手を握ると、部屋を出て大広間へと向かう。
大広間につくと、玉座に座るミリアムとユアノの前に跪くキキョウの姿があった。
「顔を上げなさい、キキョウ」
「お言葉ですがお母様、僕はそのことだけには賛成することが出来ません」
ネオンと近くの大理石の柱に隠れながら耳打ちをする。
「いまなにが起こってるの!」
「わかりません……」
柱の陰から顔をのぞかせて、様子をうかがう。
「リアルの罪を取り消す理由には出来ません……リアルは"世界を破壊する者"ですから」
「そんなことはない、リアルはそんなことする人では……」
ユアノの目元には涙が浮かんでいた。
「ちょっとネオン……なんか気まずいんだけど!」
「そ、そう言われましても……」
すると、突然身体中に冷たい風が流れ込み、鳥肌が浮かぶ。
「なんか……ヤバい!」
――ドガァァァァン
爆音と共に、王邸の屋根が崩れ落ち、炎が舞い上がる。
「な、なにごと……!?」
「ネオンは隠れて!」
舞い上がる炎の中から人影が蠢き、低い声が響き渡る。
「リリス・ハルカ……貴様を始末しに来た」
――第65話へ続く。




